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新幹線貨物列車の夢

ご存じの方は少ないかもしれませんが、新幹線が最初に出来た時には実は貨物輸送も考慮されていたのです。これについては世界銀行からお金を借りるのに必要とされただけであって、最初からその気はなかったという説があるようですが、貨物用機関車の設計はされたようですし、実際にいくつかの貨物ヤードへの引込線の一部が作られてもいました。

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実際には東海道本線に必要な輸送力は大きすぎて新幹線が出来ても旅客輸送だけで一杯で、当初は12両だった新幹線も設計上の上限である16両となり、より多くの列車を詰め込むために信号設備を始め電力設備も増強し、より高速で高加減速な車両を使うことで、今や山手線と並ぶ時間間隔で東京駅を出発していくのはご存知のとおりです。この間に鉄道貨物は衰退の一途をたどり、JRへの民営分割の際にJR貨物として独立した会社が貨物を担うようになったので、いったんは新幹線での貨物輸送の道は閉ざされてしまいました。

しかしながら最近になって貨物新幹線が再び注目を浴びています。ひとつめのキッカケは青函トンネルです。そもそも在来線の予定で進んでいた計画が全国に新幹線を建設するからということで新幹線用に変更され完成しました。永らく新幹線は延びてこなかったので、在来線として旅客も貨物も使っていましたが、いよいよ新幹線を通すことになったものの貨物需要が大きかったため2種類の線路幅で使えるように3本目のレールが引かれて新幹線も貨物列車も走っています(架線電圧が新幹線仕様なので専用の機関車が作られました)。ところが新幹線が全力で走ると、その風圧で対向列車の貨物列車が危険な状態になるということがわかり、トンネル内は(対向貨物がある場合は)ゆっくり走ることで回避しているというのが現在です。

青函トンネル

今は新幹線の終点が函館なので、少しくらいゆっくり走っても大きな影響は無いのですが、札幌まで延びたときを考えると、いつまでもゆっくり走るという訳にはいきません。そこでJR北海道は新幹線車両による風圧に耐えられる貨物列車の仕組みを研究していましたが、会社の経営状況がそれどころではなくなってしまい、研究自身が打ち切られてしまいました。

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津軽海峡には青函トンネル以外のトンネルや橋はなく、ここだけはフェリーを使うしかトラック輸送が出来ないので、鉄道貨物の需要は根強いです。

それに加えて最近では気候変動対策として貨物列車が見直されており、コロナ禍で大幅に需要の減ったJR各社は航空会社を見習って収益源を多様化するためにも貨物輸送ができないかの検討を始めたようです。すぐに出来そうなこととして、一部の車両のみ椅子を外してジットボックスのようなエレベーターでホームまで運べるような形態の貨物輸送を試みようとはしているようです。もう少しだけ進めてパレットが扱えるようになれば、かなりのことが出来るような気がします。ここまでであれば既存の設備をかなり使えるはずです。

パレット (輸送)

しかしながら、本格的な貨物輸送であれば、やはりコンテナを扱える必要があります。コンテナは既存の駅設備で積み下ろしはできませんから、専用の車両だけではなく専用の積み下ろし設備を用意しなければなりません。ここまで来るとJR貨物との調整も必要となることは予想されます。

少なくともJR東日本の新幹線は東京~大宮間は1組の線路しかありませんから、その先は駅施設の制約が少しはあるものの、基本的にはまだ列車を走らせる余裕があります。貨物を東京まで運ぶ必要はなく、専用の設備を作るのであれば郊外でないと難しいです。そこで東京から見て大宮よりも遠い場所に設備を作ればダイヤ上は大丈夫なはずです。そのあたりであればもう目的地は近いですから、トラックに載せ替えるコンテナが大部分になるのではと思います。しかしながら在来線に載せ替える需要もあるでしょうから、東北新幹線であれば在来線の電源切り替えポイントである黒磯よりいくらか南あたりに設備を作ればバッチリではないでしょうか。上越、北陸に関してはもともと貨物需要が少ないのですが、作るとすれば高崎のあたりで良いような気がします。

考えてみれば時速200キロ以上の交通手段で貨物が運べるというのは、質的な変化が出ます。生鮮食料品を北海道から運ぶことが出来ますし、宅配便だって即日配達エリアが広がるでしょう。航空機もありますが大量輸送は列車輸送にかなわないと思います。

これでうまく行くようであれば、リニア開業後の東海道新幹線でも貨物輸送が見えてきます。東海道本線は多くの貨物列車が走るので通勤電車に乗っていても線路が荒れていて良く揺れます。当然メンテナスコストもかなりかかっているので、収益性の再評価は必要ですが、もともと高規格で作られている新幹線の活用を考える時期なのかもしれません。

こういう話は高速道路によるトラック輸送とのバランスが大事です。トラック運送の自動運転や専用設備を検討するのであれば、貨物列車に投資するものではないです。とはいえ200キロ以上の速度がトラックに出せるのかというと、安全性をどう確保するのかが難しそうに思います。必要なのはドアtoドアでのパフォーマンスなので、必ずしも一部だけ速度があがっても効果は小さいでしょうが、物流の時間が半減するのであれば、想像以上の効果が実感できるようになるのではないでしょうか。

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ヘッダ画像は「みんなのフォトギャラリー」に良さげな画像があったので使わせていただきました。yk317ssさんに感謝。

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