恐竜の恋人
6000万年の時を経て、1匹のケツァルコアトルスが目覚めた。
彼女は探検が好きだった。巨大な翼で空を飛び、知らない土地に降り立って、四つ足で歩き回り、見たことのない植物や生き物を味わった。強そうな恐竜がやってきても、彼女はすぐに空に逃げることが出来た。空において彼女は無敵だった。
彼女はある日、南へ南へ飛んで行き、やがて真っ白な大地に降り立った。そこには生き物はおろか、草一本無かった。
なんだ、つまんない。一休みしたら、彼女はさっさと帰ることにした。
彼女は暖かい土地でしか暮らしたことがなかった。だから、瞼を下した途端、冬眠の生存本能が呼び起こされ、そのまま眠ってしまうなんて思いもよらなかった。
彼女の体は、南極の厚い氷に閉ざされた。6000万年後、地球温暖化で氷が溶けるまで、ずっと眠っていたのだった。
目覚めてまず、彼女は翼を羽ばたかせた。節々がギシギシ鳴ったが、彼女の立派な翼は帆のようにピンと張って、南極の海面に波を立てた。満足し、南極の地を飛び立った。なんだかとってもお腹が空いていた。
何かが違う、と気づいたのは、お腹がいっぱいになった後だった。骨が砕ける食感も、肉の味も違う。何より、彼女の仲間がいない。彼女は急に寂しくなった。仲間を求めて探し回った。
そしてある日、ついに彼女は仲間を見つけた! ピンとした帆のような翼、空を滑空する姿。そして何よりその大きさ! 仲間だ! 喜びのあまりその子と激突してしまい、その子は島に落ちてしまった。慌てて様子を確認したが、どこにも怪我は見当たらない。羽を休めているだけだと判断し、彼女は再度大喜びした。
一方、熊谷一飛曹は困り果てていた。敵艦に突っ込むはずが、空飛ぶ怪物に激突され、どことも知れぬ島に墜落した。しかも、その怪物は機体の周りを跳ね回っているので、外に出ることも出来ず、コックピットで体を縮こませていた。
彼女が仲間だと勘違いしたのは、ゼロ戦だった。
【続く】
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