ヘルツアー・ウィズ・ネームレス
「やあ! アンタ、洗礼名持ってない? 良かったらオレにくれないか?」
地獄の門の前で俺に声をかけたのは、ニコニコと屈託なく笑う男だった。
「善行ばかりの人生だったのに、洗礼を受けなかったからって地獄行きなんだ! あんまりだろう?」
「他人の洗礼名で天国に行けるのか?」
「できるさ! 死ぬ人間が増えて地獄はてんてこ舞いなんだ。未だにアナログ管理だしね」
頂戴と言わんばかりに差し出された手は白く綺麗だった。俺の住む地域では見かけないシルバーブロンドも相まって、貴人のようにも思