異世界課
1.
夜。街が鎮まり始める頃。都内某所。
トラックがスピードを出して走っている。
横断歩道には1人の男性。
しかしトラックは徐行することなく、その巨体を軋ませて横断歩道へと突っ込んでいく。
キキーッ、ドンッ
派手な音と共にトラックが停車した。斜向かいのコンビニからは黒人の店員がこちらをギョッとした目で見つめている。
トラックのドアが開き、降りてきたのは若い男だった。
キョロキョロとあたりを見回し、うんうんと頷いて満足そうにまたトラックに戻って行く。
数刻の後、トラックは何事もなかったかのように走り去った。
2.
翌朝、新聞には小さく夜中の衝突事故のことが記述されていた。交通事故の多い日本では、車との接触事故などよくあるコトなのだ________。
1’.
夜。街が鎮まり始める頃。都内某所。
トラックがスピードを出して走っている。
運転手の男はため息をついている。
給料はいいがあまり楽しい仕事ではないのだ。
男は官僚であったが、所属は異世界課。彼の仕事は読んで字のごとく、人を異世界へと送るお役所仕事である____________。
かつては経済大国であった日本も高齢化や引きこもりの増加などの影響から、その勢いには陰りが見えていた。
さらに、便利になり自由が保証される世の中では、引きこもりやニートが大手を振って生きていけるようにさえなった。
この皺寄せは?もちろん彼らに生活保障を払わなければならない国家である。
GDPは伸びないのに増え続ける社会保障費。
これでは国が立ち行かないと判断した時の政府は秘密裏に直属の部署を組織する。
これが異世界課なのだ。
異世界課の仕事は、政府が世の中の役に立たないと判断した人間を“間引く”ことだ。
そして近年研究の末明らかになった、この世界と少し次元の違う別世界へと放り込んでしまうのである。要は口減らしだ。
ではその方法は?
答えは簡単。トラックで人を轢くだけである。
スピードを出したトラックが人にぶつかる時に発生するエネルギーを利用して異世界転送装置を動かし、ぶつかった人を異世界へと送るのだ。
もちろん標的の睡眠時等に莫大な電気エネルギーで転送装置を起動させることもできるが、それではコストがかかりすぎてしまうし、何より標的が戸籍に残ってしまう。
別次元への転移はまだ公に認めている情報ではないし、往復の方法もまだ解明されてないので、標的が死んだことになるのが一番なのだ____________。
横断歩道には1人の男性。
手元の資料を確認し、今日の標的で間違いないことを確認する。
トラックを徐行させることなく、その巨体を軋ませて横断歩道へと突っ込ませていく。
キキーッ、ドンッ
衝突音を確認し、トラックを停車させる。
斜向かいのコンビニからは黒人の店員がこちらをギョッとした目で見つめている。
よし、目撃者もいる。これで彼の交通事故死は客観的に真実となった。
トラックのドアを開け、現場を確認しに行く。
キョロキョロとあたりを見回し、死体がないことを確認。
うんうん、転送成功だな。
後の処理は政府の息のかかった交通隊がやってくれるだろう。
仕事の遂行を確認した男はトラックに乗り込み、その場を去った。
2'.
翌朝、新聞には小さく夜中の衝突事故のことが記述されていた。交通事故の多い日本では、車との接触事故などよくあるコトなのだ___________。
おしまい。
後書き
転生モノってあまり見たことはないんですけど引きニートが転生しまくるイメージはあったので、何故彼らは転送したのか、みたいな短編を書きました。
特に何かを参考にしたとかはないのですが類似するアイデアが他作品で公開されてたりしたらごめんなさい。