父が「トンデモ医療」を持ち帰ってきたのだが…
先日父が「エネルギーでドーパミンが流れるようになる治療院がある」と伝えてきた。
母がパーキンソン病(症候群)になって数年。父としてはすがる思いなのだろうけれど、医療に関わるこの身としてはトンデモ医療、つまり詐欺というニオイを感じてしまった。
ドーパミンとはひとの意欲や運動機能の調整などに関わる重要な脳内ホルモンのひとつである。ドーパミンが不足することで生じる病気がパーキンソン病であり、治療法の確立が急がれる難病のひとつだ。
もし、このドーパミンが治療院で補充されることが事実だとしたら、この治療院はとうの昔に有名になり世界中から注目を浴びているだろう。
しかし、そうはなっていない。
ページをのぞいてみると、どうやらその治療院では「気功」を用いるらしい。
誤解なく伝えると、私は「気功」を否定するつもりはない。気功自体はその効果を論じた報告(文献)も出ていて、歴史ある治療法だからだ。
しかしながら、この治療院をトンデモだと確信したのには2つの理由があった。
ページの安全性が確保されていない
iPhoneなら検索バーのところに「安全ではないサイト」と表示されることがある。
これはそのサイトが「SSL」と呼ばれる安全性とプライバシーの保護が施されておらず、httpの最後に「S」と表記されていないサイトがそれにあたる。
「安全と信頼」が代名詞でもある医療においてはサイトも同様だ。つまりSSL化されていない時点で医療系と呼ぶには値しない。
根拠のない「治る」という表示
言語聴覚士である私が驚いたのは「誤嚥性肺炎が治る」という表記。内科的治療の本領ともいわれる誤嚥性肺炎を、よくも軽々と「治る」と…。
誤嚥性肺炎だけでなく、坐骨神経痛やひざ関節変型症、パーキンソン病なども「治る」と書いていた。「治る」という表記自体は、薬機法的に違反するものではないようだが、文脈によっては注意が必要だとされる。
というのも、そのページには「治る」に対する具体的な方法が記されておらず、科学的な証明については一切触れられていない。それどころか治療者の名前すら未記載であった。
それにしても、ひとはなぜ、トンデモ医療を信じてしまうのだろうか。
私自身40歳を超え、病気をもつ身内となってからはその気持ちがすこし分かるようになった。元気だった親の表情が虚ろになるのを見て、狼狽えない身内はいないと思う。
それに、たとえトンデモ医療だとしても、それが「怪しい」と分かるのは、分かる人間であって、そうでない人にとっては『必死の感情(思いやり)』そのものの顕れなのだ。
否定から始まらないコミュニケーションだと相手の冷静さが増すだろうし、「トンデモ医療」への認識が深まる起点になるかも知れない。