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仕事がキチンとできない医者のお話し
医療業界には、極めてユニークな人がいる。
カルテに書かれた「AF」という単語を眺める当時実習生だった私に、ある医師が耳元でその意味を教えてくれた。
「まだ分からないよな」
「これはな、ア〇ルファックの略だ」
……。
ホントは「AF(atrial fibrillation)心房細動」の略。
コレ、実話です。
前置きはさて置き、今回はそんな和やかな医師の話し。割と腑抜けていて、周りのサポートが必要な内科医のエピソードだ。
とある内科の先生は、あんまし仕事ができない。
患者にもスタッフにも物腰は柔らかいのだけど、病理にはとても弱くて、治療計画がちょっと曖昧で的を得ない。患者との面談中によく船を漕ぐ(寝てしまう)ので、こちらが慌てて合いの手を差し伸べることも暫しあった。
書類とかは捌けるけれけど、医師としてその専門性を発揮してもらわないと、多種多方面からの信用に関わってくる。とりわけ、飲み込みや栄養関連とかはもうちょっと覚えてもらわないと困る。
そんな我がチームの内科医は10年以上の「ベテラン先生」だ。
私が退職するときに、この先生からお食事に誘っていただいたことがあった。
私の退職理由が「脳卒中になった家族を診るため」という動機だったので、心配されてのお声がけだった。2人っきりの会食なんて緊張するだろうなと思いきや、先生のむかしの話しがとても面白くてあっという間に時間が過ぎ去った。
先生は3年間の浪人を経て医学部に入学し、浪人中はアルバイトに精を出していたらしい。私は「医師を目指す人のアルバイトだけに、きっと高度で特殊なバイトとか⁉」と思いきや、意外にも引っ越しのアルバイトだった。
で、そのバイト先のリーダーから怒られ三昧だったようだ。
とにかく容量が悪かったようで、周囲のテンポに付いていけなかったらしい。たとえば後から来る荷物に通路を阻まれないために、先に大型家電を設置するのだが、そういった物事の導線がいまいちピンと来なかったようで、仕事を覚えるのに1年以上かかったと話してくれた。
リーダーから「おまえさ、どこの大学で何部?」と質問されたときに「〇〇大学の医学部です」と答えたら、そのリーダーは「はぁぁぁ⁉」と頓狂な声をあげて一言。
「お前がみたいなヤツに、絶対に診てもらいたくないわ…」
こんなエピソードを赤裸々に語ってくれた。
私は、やっぱ昔からそうだったんだなと内心思いながら、自分に正直な方なんだなとも感じていた。
大転職時代にあって、私は職を転々としているけれど、先生は石の上にも数十年で、いまでも同じ現場で働かれている。
当時の同僚はいまだに「仕事できねー医者だなー」とぼやいているけれど、患者さんの不利益にならずに、現場が和やかに機能していれば良いじゃないかと思ってみたりする。
何かとお世話になった先生の話しであった。