“パンパンガール”を語る「金ちゃんの紙芝居」15~【 夜鷹(よたか)の50円お姉さん、要(よう)ちゃんとの悲恋 】
夜鷹の50円お姉さん
金ちゃん) 左の女性は夜鷹の50円お姉さん。
━━ 50円お姉さん?
金ちゃん) 要するに、ほら、十円札5枚で…
━━ ああ、はいはいはい。
金ちゃん) いつも、こういう花茣蓙(はなござ)みたいなもの抱えて…。
昔から茣蓙なんだね。
金ちゃん) 十円札5枚で、いちばん安い女の人が…まあ…買えたと。
━━ それは他と比較すると?
金ちゃん) うーんとね、前にも言ったけど、牛乳瓶1本が10円とか12,3円なんですよ。
━━ 10円札が5枚ということは牛乳瓶5本分、ってことですね。
今、牛乳はいくらするんだろう?
200円としたら、1000円ってことか…。
こう言っていいのかアレですけど、めちゃくちゃ安いですね。
金ちゃん) 安いですよ。
━━ そうやって考えるとね。
金ちゃん) ショートとかロングという言い方があって、それが300円とか500円とか。あと、オールナイトが1000円とか1200円とか。
でも、その辺、はっきりと聞いておかなかった。
━━ そりゃそうですね。そんなこと考えないですよ、子どもは(笑)。
ぶっつけ大工の要(よう)ちゃん
金ちゃん) 貧乏徳利をぶら下げているこの人は「要ちゃん」って言って、うちの親父と同郷で同い年なんですね。
定職がなく、方々へ手伝いに行って、結局は大工になるんだけども…、う~ん、学校行ってないから寸法が出せない。当たれないんですね、寸法が…。
だから結局は、ただトンカチ持って釘を打つだけの「ぶっつけ大工」と言われたんですよ。
金ちゃん) でも、この要ちゃんは人が良くてね、うちの親父の言うこともよく聞いてくれて、親父もよく仕事を手伝ってもらい、代わりにお小遣いを渡してた。
僕の言うことも、どういうわけだかよく聞いてくれて、「何々が欲しい」とか言うと必ず見っけてきてくれたり、「どこどこ行きたい」なんて言うと必ず連れていってくれたりした人なんです。
お酒を奢ってもらう代わりに…
金ちゃん) 要ちゃんは、夜鷹のお姉さんが金が無いことはわかっていた。酒が好きだってことも知ってる。
━━ うんうん。
金ちゃん) で、優しい人だから、何か手伝いをして金が入った時はお姉さんに奢ってたんです。
朝霞の駅前に清水屋っていう立ち飲み酒屋があって、そこへ行っちゃぁ、奢ってやった。
━━ この半纏を着たオジサンが要ちゃんですね?
金ちゃん) そうです。
そして、お姉さんはそのお礼に…うん、まあ…体を…
━━ 売ってたわけですね。
━━ この絵に描かれた2人のやり取りなんですけど、夜鷹のお姉さんが「だんな いつも わりいやいね」って言っているのは、居酒屋でいつも奢ってもらってることに対して、ですかね?
金ちゃん) そうですね。
━━ その後、要ちゃんが「俺の方こそすまねえやい」って言っているのは?
金ちゃん) 「俺の方こそすまねえ」って言うのは、「俺の方こそ、いつもあんたが相手にしてくれて…」ってことですよ。
━━ なるほど、なるほど。
金ちゃん) 要するに、安い金で思いを遂げさせてもらって…、っていうことですね。
━━ そういうことなんですね。
同胞(はらから)割引
金ちゃん) ということで、お姉さんは体を売ってたんだけども、ハラカラ割引っていうやつだったんです
━━ ハラカラ割引?
金ちゃん) 同胞(ドウホウ)割引とも言いました。
━━ あぁ、日本人同士ってことですか?
金ちゃん) そうそうそうそう。確かね、二割引き。
━━ じゃあ、50円だったら…40円?
金ちゃん) この人も、奢ってもらうのを恩に着てたんでしょう。
━━ なるほどねぇ。
要ちゃんと夜鷹の恋
金ちゃん) でもね、もしかしたらね、要ちゃんとお姉さんの関係は、金銭づくだけではなかった気もするんですよ。
━━ 愛情もあったということですか?
金ちゃん) うん。私は子供心にね、「この二人は…」って、そんな覚えで見てました。
首つり
金ちゃん) ところが、私が小学5年生のクリスマスの朝、このお姉さんは首つりしちゃう。
━━ いやあ…
金ちゃん) 場所は「ハケの山」って呼ばれていて、今は大きな団地が建っちゃったけど、昔はそこに、深い深い雑木林があったんですね。
そこで首つりしているのが見つかった。
━━ う~ん…
金ちゃん) 「ハケの山」は追い剥ぎやら何やら、のべつ幕なしに出没する、いちばん危険な場所なんですよ。
━━ 彼女は、そこを仕事場にしてたんですかね?
金ちゃん) うん、まあ、その辺をね…。まあ、そこばかりじゃないけども、乞食パン助だったから駅の近所には立てないし、結局は、そういった雑木林でね、仕事をしてたようです。
金ちゃん) 結局、自殺ってことで片づけられたけど…
━━ 殺人かもしれない?
金ちゃん) うん、殺人かもしれない。わかんないんですよ、これね。
でもね、当時、こういう死に方、いっぱいあったんですよ。
ただ、日本の警察はそんなことは何も知らない。
知ってても知らないんです。
知らないことになってんだね。
乞食パン助みたいなお姉さんが何人死のうと、警察にしてみれば、別にどうってことじゃなかったんですよね。
「ああ、そうなのかよ」っていうぐらいのことで終わっちゃうことだったんですよ、そういうことは…
命日になると、要ちゃんは…
金ちゃん) でも、要ちゃんは偉いんですよ。首つりをしたとされる場所で、毎年、命日になると花を手向けていた。
━━ やっぱり恋していたんですかね?
金ちゃん) と思うんですよね。
金ちゃん) 要ちゃんは、用意して来た焼酎と海苔で巻いた焼きもちを供え、手を合わせていました。
夜鷹のお姉さんは、生前、「要ちゃんは朝霞で一等いい人だよ」って言ってましたけど、本当にその通りだ、と思いましたね。