超主観的ボカロ史 電脳世界を彩る音楽たち 2014年編
こんがお!
どうも、苗輪和音です!
さぁ、今回も『超主観的ボカロ史』やっていきますよ~!
あまり前書きに文章を割くと読むのが大変になっちゃうのでこの辺りで早々に切りあげて、本編にいきましょう!
では、どうぞ!
超主観的ボカロ史 2014年編
【Lily】ELECT【オリジナル曲】
2014/1/2
niki氏の作品。
脳を直接揺さぶられるような音圧を感じるEDM系のボカロ作品。
この作品は『歌ってみた』カテゴリだけではなく『踊ってみた』カテゴリでも絶大な人気を博した。今でもこの作品を使用したMMD作品は多い。
時代と共に移ろいでいくボカロ文化を直観で感じられる作品。
【GUMI】 心做し 【オリジナル曲】
2014/1/5
蝶々P氏の作品。
氏の作品の中でも特に人気が高い作品であり、今なお『歌ってみた』やMMD作品で使用されている事がその証左である。
元々、表現の幅が広い蝶々P氏だが、ここに来て更に広がったようにも感じられる。
タイトルの『心做し(こころなし)』という言葉に掛けた歌詞も特徴的であり、しっかりタイトルが作品の本質となっている事からも作品としてのレベルが高い事が伺える。
「ある種の文学的な側面を持つ音楽が大衆から支持される」という意味でこの作品がボカロ文化にある意味は大きいと思う。
【GUMI English】 About me 【オリジナル曲】
2014/2/5
先ほどに続いて蝶々P氏の作品。
ほぼ全編英語詞で書かれた歌詞とピアノをメインに据えた抑え気味な曲調が特徴な作品。
氏が本作の動画投稿文に書いている通り、歌詞に使用されている英語にはそこまで難解な英文や訳すのに苦労する英単語などは含まれていない為、メインリスナー層である学生でも少しのやる気があれば意味を知る事が出来る。
こういった作品が多く支持を集めているのも前年や前々年と比べ、ボカロを取り巻く環境が少し変化した事が表れているのかもしれない。
【ミクリンGUMI】神のまにまに【オリジナル】
2014/2/7
れるりり氏の作品。
氏の代表作である『脳漿炸裂ガール』とは打って変わって和風テイストでメッセージ性が高い作品となっている。
『脳漿炸裂ガール』以前の氏の作品はどちらかというと本作に似た雰囲気を持つものが多い。そういった意味ではれるりり氏の正統進化系の作品とも言えるのではないだろうか。
また、日本神話に描かれる『天岩戸伝説』をモチーフに描かれた歌詞やMVには動画説明文にあるように、「泥んこだけど歩いていこう まだまだ先は長いさ」というメッセージが込められている。
傷ついたり元気がなくなったりする出来事がとても多い今の時代、この作品から元気をもらった人も多いのではないだろうか。
【初音ミク】 ウミユリ海底譚 【オリジナル曲】
2014/2/24
n-buna氏の作品。
ポップでキャッチーなメロディーと苦しくて切実な心の機微を比喩を交えて描いた歌詞の絶妙なバランスが魅力の一つである本作は、『ヨルシカ』以前の氏の代表作の一つである。
またあわしま氏のどんどん深く暗い場所にまで下っていく少女を描いたMVもこの作品が人気である所以の一つで、メロディーのポップさと歌詞の切実さの両方を一気に表現している。
ミュージシャン・n-bunaの人気を決定づけた作品なのではないだろうか。
[GUMI] 夜もすがら君想ふ / TOKOTOKO(西沢さんP)
2014/3/27
TOKOTOKO(西沢さんP)氏の作品。
「ロキノン系でも特にUNISON SQUARE GARDENやMr.Children、藍坊主から影響を受けている」と氏自身が公言している通り、本作も随所に彼らからの影響が垣間見えるサウンドが盛り込まれている。
上記の『神のまにまに』とはまた違った形の応援ソングであり、言うなれば『神のまにまに』が説話をベースとした優しい説法で『夜もすがら君想ふ』は日々の生活から見える景色をベースにしたエッセイという感じであると思っている。
この作品があるのと無いのとではこの年のボカロ作品の雰囲気が全然違ったものになるのではないだろうか。それくらい重要な作品であると思っている。
【ニコニコラボ】Blessing【VOCALOIDS】
2014/4/11
halyosy氏の作品。
ギターやピアノといった定番の楽器に加えて三線という日本的な楽器が入った編成で演奏される心からの応援歌が本作である。
本作の動画説明文にあるように本作は投稿から3年前に誕生したhalyosy氏の甥っ子さんの健やかな成長を願う唄であると共に、甥っ子さんが生まれた年と同じ年に起こった未曾有の大災害で傷を負った全ての人に向けて「生きてほしい」という単純で純粋だがとても難しくてとても大切な願いも込められている。
この『Blessing』という作品は、このボーカロイドが歌うバージョンと同時に当時ニコニコ動画で活躍していた人々が『歌ってみた』、『踊ってみた』、『ゲーム実況』、『生放送』などのカテゴリの枠を飛び越えて歌う『SINGERS ver.A』と『SINGARS ver.B』も公開されている。
余談だが歌詞の「Hip hip HOORAY」は簡単に言うと英語圏での「やったー!」とか「おめでとー!」みたいな感じの意味合いの慣用句である。もう少し丁寧に言うと授賞式などでの「万歳三唱」が近いのかもしれない。
【初音ミク】ミルククラウン・オン・ソーネチカ【オリジナル】
2014/4/25
ユジー氏の作品。
クラシカルなコード進行やピアノの音色が特徴的な作品。
しかし歌詞に登場する語句はメロディーとは反対の固く強いものばかりで、アンバランスさが際立つように作られている。また、画面に映される笑顔を見える少女から受ける雰囲気も明るくありながらもどこか影を感じてしまうようなものとなっている。
これらは確実に意図してそう感じるように設計されたものであり、それらのアンバランスを受け止める事によってようやく作品の持つ意味を考える事が出来る。
すろぉもぉしょん / 初音ミク
2014/5/27
ピノキオピー氏の作品。
風邪を引いて寝込んでいる時などについ考えてしまう「ややネガティブなこれまでとこれから」を描いた歌詞を賑やかなポップロック風なメロディーに乗せた軽快な本作は、合いの手としてゆっくり(softalk)を使用したりその地点での動画の再生時間を用いたメタネタを歌詞に盛り込んできたりMVの中に実写の人物写真を取り込んだりなどのネタも欠かしていない。
「ネガティブだけど少しポジティブ」な本作は、投稿から7年が経った現在でも頑張ろうとする人たちに元気を与えている。
ツギハギスタッカート / とあ feat. 初音ミク
2014/6/12
とあ氏の作品。
2013年より投稿を始めたとあ氏初の殿堂入りを達成した作品であると同時に氏の名前を一気に世に広めた作品である。
この作品を聴くと分かると思うが、楽器や歌の構成力が凄まじく高いのである。楽器の音だけでなく様々な効果音を盛り込んだサウンドを一つにまとめあげ、更に違和感なく音楽に昇華する能力に秀でていないとこの作品は生まれる気がしない。
また作中に度々登場する初音ミクのブレス音や咳払いなどもどうやってるのか全く分からない。そういった機能が搭載されているのだろうか?
また歌詞もメロディーとリンクするように作られているので、作った時は詞先だったのか音先だったのかなども気になる。本当にボカロ作品としてあってくれて良かったと思う作品である。
完全に余談ではあるが、筆者は氏を本作が投稿されるより前のかなり早い段階からフォローしている古参のとあファンである。本作のかなり若い再生数のいくつかは筆者のものである。
┗|∵|┓金曜日のおはよう/HoneyWorks feat.GUMI
2014/7/2
HoneyWorksの作品。
HoneyWorksの十八番でもある学生の甘酸っぱい恋愛模様を描いた歌詞と弾けるようなポップメロディーが魅力の作品であり、歌い手・Gero氏の2ndアルバムに書き下ろされた作品でもある。
当時フジテレビ系列の番組『めざましテレビ』の中の1コーナーでHoneyWorks特集が組まれる事になり、そこで制作された。というのが本作の制作経緯である。
ここで紹介しているメグッポイドが歌唱するバージョンとGero氏が歌唱するバージョンは他の関連作品と共に同時に公開され、瞬く間に『VOCALOID』カテゴリや『歌ってみた』カテゴリを席巻した。
ちなみに本作の編曲はLiSAや藍井エイルなど数々の名だたるアーティストに楽曲提供を行っている作曲家・黒須克彦氏が担当している。
【IA】アスノヨゾラ哨戒班【オリジナル】
2014/8/19
Oragestar氏の作品。
数々のヒット作品を世に出してきた氏を代表する作品とも言える。
16bit的な電子サウンドとボーカロイド『IA -ARIA ON THE PLANETES-』の見事な調教が特徴の作品で、未だにその人気は衰える事を知らない。
ニコニコ動画のみで再生回数が約970万回(2021/8/4時点)となっており、近いうちにボカロ作品全体を通してみてもかなり希少な「ニコニコ動画で1,000万回再生を記録するボカロ作品」の一つになるのではないかと思う。
1,000万回再生を誇る作品は軒並み歴史を創りだしてきたものたちである。そこに加わる事がほぼ確定している本作はやはり非常に重要な作品であると言えるだろう。
【初音ミク】ヒビカセ【オリジナル】
2014/9/24
ギガ氏の作品。
ギガ氏が得意とするEDMサウンドと作詞を担当したれをる氏のボーカロイドへの想いが詰め込まれた歌詞が魅力の本作は、当時としても少なくなっていた『ボーカロイドと人』の関係性を描いた作品である。
サウンドや歌い方などはギガ氏たちがパイオニアとなった当時の新進気鋭の魅せ方でありながらも歌われるテーマはボカロ文化に古くから根付いているものというある意味「ボカロ文化の集大成」とも言える作品となっているのではないだろうか。
「この作品があったから後に様々な作品が生まれた」というよりも「様々な作品があったから後にこの作品が生まれた」と感じる。
【VOCALOID Original】ECHO【Gumi English】
2014/10/8
海外のボカロP・Crusher-P氏の作品。
投稿直後からカテゴリランキング1位を獲得、全編英語詞の歌詞と洋楽的なサウンドと構成になっている楽曲のセンスの高さから今も国内外問わず広い範囲から人気を得ている。
またMystsaphyr氏が制作したMVも非常にセンスが感じられるものであり、見事に音楽とマッチしている。
海外Pが大きく進出するきっかけとなった作品であると同時に『VOCALOD』が持つワールドワイドな魅力を認識できる作品である。
ちなみに本作のマスタリングなどを担当しているcircus-P氏も海外Pの一人で、オリジナル作品をニコニコ動画に投稿しているのでもし気になった人がいるなら一度聴いてみてもいいのではないだろうか。
【鏡音リン】 Happy Halloween 【オリジナルPV付】
2014/10/10
Junky氏の作品。
本作の音源は当時催されていた『ハロウィン』をテーマにしたコンビニエンスストア『ファミリーマート』と『初音ミク』のコラボキャンペーンにて販売されていた『「Trick or Miku」音楽入りカード型USBメモリ』の為に書き下ろされたもので、ここで紹介しているMVも含めた作品は販売より少し後に投稿された。
ゴシックホラー的作品になるかポップなホラーになるかの振り切れが多いハロウィンソングの中でも、不気味な浮遊感と茶目っ気のあるポップさが両立する本作は、ハロウィンソングに新たな機軸を創りだしたのではと個人的に思っている。ハチ氏の『Mr.Pumpkinの滑稽な夢』で一度出来上がった「ボカロ×ハロウィン」のイメージをアップデートした作品という感じで捉えている。
ちなみに同キャンペーンにはJunky氏の他にもキノピオピー氏やotetsu氏が参加しており、販売されたカード型USBメモリにはそれぞれが制作した3作品が収録されている。
【2014年評】
2013年以前とは少し違うテイストの作品が増えた事からボカロ文化が新たなステージに突入した事が分かるこの2014年。
しかしどの作品も根底にあるのは「音楽を愛している」という事と「ボカロが好き」という事だ。その点だけはいつの時代になってもクリエイターたちから消えていない。
ただ、この時代辺り(正確にはもう少し前)から「リスナーのボカロ離れ」が起きていた。それは言葉通り「ボカロを聴かなくなった」という意味だが、「オリジナルであるボカロVer.が『歌ってみた』ver.より聴かれにくくなった」という意味も多分に含んでいる。
これは作品を投稿する側より聴く側の意識が大きいのではないかと思う。
もちろん『歌ってみた』作品を鑑賞する事に何も問題はないし、確かな審美眼を持つ歌い手が「隠れた名曲」を見つけ出し歌う事でヒットしたボカロ作品も多く存在する。
だが、ここで問題なのは最初の『歌ってみた』作品で止まってしまうリスナーが多くなったという事だ。
その最初の段階で止まってしまうと、オリジナルであるボカロ作品たちを創りあげたクリエイターたちに日の目が当たらなくなってしまうのだ。そうなってしまうと最悪の場合、ボカロ文化そのものから活気が喪われてしまう可能性がある。
また、もう一つ「リスナーのボカロ離れ」を引き起こした大きな原因として「前年まで人気を博していた数々のプロジェクトやボカロPたちの活動が一旦落ち着いた」というものがあると推察する。
例を挙げるとじん(自然の敵P)氏の『カゲロウプロジェクト』やkemu氏らの『kemu voxx』などである。
これらの作品がボカロを知ったきっかけだったリスナーも数多く存在した。そこから『ボーカロイド文化』そのものに興味を抱いたリスナーたちも少なくないが、やはり以前の記事で書いたように「特定のボカロPが制作した作品しか鑑賞しない」リスナー層が多くなってしまった。
そういった層はその特定のボカロPがいなくなる場合、共にいなくなる事が多く、この時もそういった事が起きたのだ。
それにより2010年頃からみると少し落ち着いたのがこの2014年である。
だが、上記の通り素晴らしく愛に溢れた作品が数多く生み出されたのもこの2014年である。
ここから少しの期間、落ち着きを見せるボカロ文化だが、そう遠くない未来でまた大きなムーブメントが到来する事となる。
それはまた近いうちに触れるので今回はこの辺りにしておこうと思う。
それでは、次回『超主観的ボカロ史 2015年編』でお会いしましょう。
おつがお~!