湖畔の音とにおいと
ライラックの香りがあなたのもとに届きましたでしょうか?
カナダ湖畔はライラックの季節である。
野菜ガーデンの土を均していたら
斜め向かいに住むジャンが通りかかった。
ビーチ側のフェンス越しに話していると
あら、ライラックはどこ?
湖畔の陸風に乗ってライラックの香りがジャンのもとに届いたのだ。
フェンス脇にある大きくならないタイプのライラックが今満開である。
お茶でもしていきます?
最近彼女と話していないしと誘ってみると
水際で何か作業をしていた夫に向かって
ちょっとカズんとこ寄ってくから~
いやいやいや、
”ちょっと”かと思っていたら
2時間半ひとりでしゃべりっぱなしの彼女であった。
話の途中に他のことを思いついて急に話の流れが変わるものだから、こちらは”聞き取り”が大変である。
英語リスニング・プラックティス・アドバンスレベル1
気温が上がらなくて野菜ガーデンの苗が育たない話をしていたのに、コスタリカから夫の新しいモータバイクの話へと移った。
つまり
気温が低い→(彼女は冬場いつもフロリダに避寒していた)→(数年前にその家を売った)→しかし夫と動けるうちは活動的でいたい→避寒場所にコスタリカを調べた→夫の体に怪しいところがあるので物件を買うのは無理か?→(夫が動けるうちにできることと思い)モーターバイクを新しく買い替えるのを許した
と言う流れである。(カッコ内は私の頭の中での補充)
そのほかビーチクラブのトラブル、娘が日本に一年半滞在していた時の話、そこで知り合った人のこと・・・
頭がフル回転の二時間半であった。
ま、夫が病院にいたときのことを考えると数百倍楽であるが。
彼女が帰ると
湖畔は元ある静けさとなった。
水鳥の着水音
湖風に乗る葉擦れ
クロリスが木の幹をひっかいて
カサっと背後の小さな音は
チップモンク
振り返っても見えるのは後ろ姿だけ
今モンテソーリの免許を取るときに使った本を少しずつ読み返している
(100%理解には程遠く復習している今もなお・・)
その中に
人間の”聞く”と言う機能はミステリアスで無意識の深いところに繋がっている
とあった。(私の理解が正しければ・(笑))
子どもの母語の習得に関しての項目なのだが
言語に限らず
あるいは音に限らず
匂いも
何か無意識の深いところに繋がっている気がする。
見えていることに邪魔されて
私たちはそれに気づいていないけれど。
いや、無意識のステージに繋がっているわけだから
気づきはしないのだけれど・・・。
視力にチャレンジングな女の子が遊びに来た。
薄っすらぼんやりは見えるようになってきたのだろうか。
湖畔の家には慣れて、触りながらひとりで歩き回ることができる。
夕方裏庭で彼女のパパが火をおこした。
ぱちぱちと薪の音
遠くでグースの声
その時である。
頭上でグィングィンと大きな音がした。
見上げると
グースの群れである。
その翼を動かす力強い音を
なんと表現していいかわからない。
湖をめがけて着陸態勢に入ったギースが
10羽はいただろうか
まさに低空飛行で私たちの頭の上を横切ったのである。
そして一斉に着水。
Whaaaaatttt??
女の子が叫んだ。
ギースだよ
パパが言った。
きゃはははは!
女の子はうれしそうに声をあげた。
満面の笑みで。
ギース!きゃはは!
去年だったか、女の子がこの時期にやって来た時
バンを降りてすぐ
カズんちのライラック
と言ったのだと
パパが話してくれた。
沢山の匂いと音が
彼女の視力を補ってなお深く
体に中に沁み込んでいるのかもしれない。
言葉を置いて
そっと自分の体の奥の音に
耳を澄ましてみる
静かな夕暮れである。