土に帰る
カナダ湖畔の家から車で30分のところに、RVHという病院がある。
最寄りの救急病院で、夫ジェイはここのERに少なくとも4回運び込まれた。
あれは3回目の時だったか。
ICUに移されてジェイは循環器科の医師にあと2週間と宣告された。
つい数日前まで地下で建築の断熱材を入れていた人が?
呆然として病院の渡り廊下を歩いていた時、中庭にあるタンポポのオブジェが目に留まった。
何回もそこを通っていながら気づいていなかったのだ。
今日の坂本さん
それは
ひとつのタンポポの種が
今まさに天に舞い上がろうとしているところだった。
あれから月日は経った
今でも
タンポポの綿毛を見ると
その時の激しい混乱が
静かな波となって心に流れ込んでくる
でもふと天を仰ぎ見た今日
こんな一文を思い出した
土に”帰り”たい。
星野氏と同じようにジェイも土に返りたいと思っていたのだ。
生まれ故郷のリンゴの木の下で。
タンポポの綿毛のように。
一旦天高く舞い上がる綿毛は
つかの間の飛行を楽しんで
また大地に戻ってくる
次の命を継ぐために
命あるものはすべて
土に返る
次の命のために
ようやくジェイの気持ちが私の中ですとんと落ちた気がした。
ジェイと一緒にいるために遺灰の一部をペンダントにしようと思っていたけれど、それは自然の摂理に反することかもしれない。
近くにある住宅のフロントヤードがタンポポで美しい。
一週間ほどたって、いっぱいの綿毛を期待して戻ったら、タンポポはすべて刈り取られてしまっていた。その住宅は売りに出されていて業者の人が草刈りに来たに違いない。
あれはいつのことだったか
友人宅のポーチでおしゃべりしていたら一陣の風とともに
タンポポの綿毛が吹雪のように降って来た。
ふわふわとそして
次から次へと。
綿毛たちは顔に触れたかと思うと
またふわりと大地に向かって降りてゆく
私たちはおしゃべりを止めてしばしその幽玄の中に身をゆだねた。
そんな吹雪のような綿毛をまた見たかったのだ。
だから残念に思いながら
一週間ほどしてその前を通りかかったら
タンポポたちは蘇り綿毛を携えている!
なんて強いのだろう。
たった一度の草刈りではへこたれないのだ。
ちょっぴりクスッとして
そして
わたしは
一陣の風を待った