夫の作りかけの家仕上げていきますシリーズ:水の上のくらし、文字通りの・・
湖畔の家には二つの排水ポンプ(sump pump)がある。
ひとつは地下に、もうひとつは湖側の裏庭に。
その湖側のポンプは地下から湖側に出るドアのすぐそばに位置していた。
そのドアのウォークアウト(basement walkout)と呼ばれる部分、つまり地下のフロアレベルから少し下がった、外のドアへと通じるまでのエリアのことなのだが、そこがいつも雨の後など排水口の水位が上がってコンクリートのままの床が濡れてくる。
そのたび近くにあるポンプをスタートさせるのだが、不平を言うと夫ジェイは決まって
当たり前だろ、湖の上にいるのだから(On the lake)
そうすまし顔で言ったものだ。
そんなことなどとっくに折り込み済みで、この家を設計したかのように。
XX 通りに住むのをon XX streetというように、私たちは湖畔の家の場所を on the lakeと表現するが、でもそれは水上ハウスではないわけで。
一方地下のポンプは生活排水の排水溝に一時的につながっていて、というのもそこは洗濯機の排水と同じルートであったがために、洗濯機を使う時はその排水溝を閉じ、ポンプを使用するときは蓋を開けてホースを差し込むという東京の暮らしでは考えられない手間が必要だったのだ。
しかもその排水口の蓋は私の手のひらサイズより大きいものだから、やっとこでもって回さなければならなかった。洗濯のたびに・・。
一度私が蓋を閉じたら緩くて洗濯の排水が流れ出て、だからそのやっとこはジェイが蓋のサイズに合わせて調整し、わたし用に置いたものである。
ったく、ジェイが自分で設計などするものだからそこここに不便が‥と思っていた私である。
それに湖側のポンプときたら、裏庭の地中に埋めたホースで直接湖に繋がって排水される。
湖に排水しちゃっていいの?だって普通(というか、東京での話だけど)雨水なども排水溝を流れていくものでしょう。
あれやこれやと夫を信頼していなかった私。
そしてそのまま夫ジェイは亡くなった・・
先日、雨続きで湖側のポンプをスタートさせた。
すると裏庭のど真ん中から水が湧き出てくるではないか!
これはヤバイ!ジェイが地中に埋めたホースに穴でも開いた?
がーーーん!
そんな折ちょうどお隣のアーメッドが自分ちの排水工事をしたことがわかった(彼も自分で家をリノベーション中である)。
こっそりジェイが湖につなげたと思っていた排水パイプであったが
きみんちんとこのは湖に排水できるようになっているだろ?
(えっ知ってました?)
うちもそうしたいんだよ
えっやっていいの?
いいんだけどビーチはビーチクラブの持ち物だから許可がいるのさ。それに三か月かかるっていわれたから、とにかく自分ちの裏庭で湖に排水できるようにしたんだ。
ビーチの地中を通さないのに湖に排水ってどゆこと?
だって僕らon the lake だろ?
裏庭を掘ったらそこは湖さ。
5フィート掘ったかなあ
(頭の中で素早く計算 約30cm x 5 = 150cm!!!!)
え~そんなに掘ったんですかあああ!
ホースをつないでそこに流れ込むようにしたのさ
だってもともと湖から上がってくる水なんだから、湖に戻すのでいいんだよ
確かに。家庭で出る汚水とは違う。
それに地下の水を下水に流すのは違反だしね
(えええええ??違反??!!! ンじゃうちの地下にあるあの排水は・・・←知られたくないので心の中での叫び)
家から出る水はてっきり下水に流すものだとばかり思っていた。
下水に流したら町からお金取られるしね?
とアーメッド。
(そりゃその分、水量が増しますからね‥←心の中で)
罰金大きいらしいよ 5 grand とか 10 とか。。
(ば、罰金??? 50 万とか100万円????!!!!! 排水をちゃんと排水口から流してるのに?←心の中での絶叫)
これは地下のポンプを使っていた話は秘密にしておかなければならない。
しかし。
そうか
そういうことか。
夫もそれを知っていて、だからあの洗濯機と繋がった排水口は仮の物だったのだ。地下の壁にポッコリ開いた一つの穴の理由がやっとわかった。そこにつなげて外に排水するつもりでいたのだ。
さて裏庭の地中にある湖につなげたというお隣の排水。雨上がりの後は地上まで上がってきてそのあたりだけがジュクジュクと濡れている。
ビーチの下を通したいけど、とりあえずはこれで。
だってここで湖面と同じ水位だろ?
夫が言うように私たちはまさに湖の上にいたのだ。
夫がこの湖畔の家の基礎を作るのに150cmどころでない深さを掘っているから、もちろん湖水がそこにあるのはもう折り込み済みだったのだ、ほんとに。ウォークアウトなどまさに湖と同じ水面レベル。水が来て当たり前の位置である。
そういうことだったか・・・
しかし洗濯機と繋がっている方の排水口が使えないとなると、水位が上がった時この湖側のポンプだけが頼りである。
詰まってんじゃねーの?
仕事から戻ってきた間借り人Eを捕まえて、裏庭から水が湧き出てきた話をする。
そういえば風の強い日の後などジェイは湖に入ってその排水口の掃除をしていたっけ。
ビーチに下りてみると先日からの風と雨で、泥のようなものが打ち上げられ排水口がどこにあるかもわからない状態だった。
Eに手伝ってもらって、というより私がEを手伝ってやっと見つけた排水口の泥と枯れ葉を除去。
湖水はまだ凍るように冷たい。
おかげでポンプをスタートしても裏庭から水が湧き出ることはなくなった。
いったい建築に関して素人の夫が、どうやってこの”On the lake”に家を建てることができたのだろう。
確かアメリカにいるころ、お父さんと一緒に家を取り壊して建て直したという話は聞いていた。でもそれだけである、夫の経験は、それなのに。
とことん情報を集め整理し、とことん考え抜くタチだった夫。
ふっと思う。
時間をかけて考えて、時間をかけて自分で作ってきた湖畔の家。
その頭脳と体はいったいどこへ消えたのだろう。
夫が考えて来た歴史を私が新しく発掘できたとしても、この家に夫の新しいアイディアが追加されることはないわけで。
もう決して。
その人と一緒に新しい時が刻まれていくことがないこと。
決してないこと。
それがいちばん寂しいのだと思う。