今ここにある不思議 2 命とは
二日ぶりに澄み渡った空が見えた
湖面の波紋はとろりとろりと岸へと送られ消えていく
いつも通り午前9時半には仕事を済ませる。
木曜一緒にヨガをしているレノアはナッシュビルに旅行中で
ウォーキング仲間のマリーンは午前中にミーティングが入っているという。
仕方ない
ひとりでウォーキングに出かけることにした。
いつも燃えるような赤色になる
イースタン通りのメープルは
今年は色づきが悪い。
落ち葉の匂いがあちこちから。
どこかで鳥の鳴き声がする。
レノアが言っていたことがある。
お父さんを亡くしてすぐのころ。
赤い鳥のカーディナルが彼女にとって
お父さんのサインだと。
ダディ、私の近くにいるってサインを送って
そういうと一羽のカーディナルが飛んできたのだと。
夫と私の間にもサインがあったように
そういうものを亡くなる前に決めておく
そう耳にすることがあった。
少し汗ばむくらいの陽気である。
家に戻って一息ついたとき
一通のメッセージが来た。
友人が亡くなった知らせだった。
静かで穏やかに逝ったと
彼女のパートナーからの一行。
ああ
吐息のような音が私の口から洩れた。
そして
ああよかったと思う。
ようやく痛みや苦しみから解放されたのねと。
ヨガの先生の言葉をずっと思っていたのだ。
弟さんが亡くなったときのことだ。
ヨガセッションが一週だけお休みになった翌週
彼女は笑顔で言ったのだ
苦痛から解放されてよかったと
ほんとうによかったと。
もちろんさみしいのだけれど。
そんなことより苦しみから解放されたことに
とても安堵すると。
だから
友人が
穏やかに亡くなったと聞いて
ほっとする。
早くその痛みから解放されますように
そう祈っていたから。
亡くなった彼女は植物が好きで
色々なことを教わった。
そんな彼女のために
先日もメイプルの押し葉と
それから種がいっぱいついたディルも
プラスティックに閉じ込めて
贈っていたのだ。
彼女が来春その種をまくことができないことを私は知っていたけれど
でも
なにか
なにかで
私は
彼女と
つながっていたくて
午後になっても
湖畔は穏やかなままで
ギースの波紋の広がりがくっきりと見える
それは岸に到達するまでに消えて
湖面はまたとろとろと
まどろむような静けさに戻る
裏庭に残ったディルの種を取ることにした
来年の命のために
私たちの命はいったいどこへ行くのだろう
種を取りながら思う。
まったくなんということだ
私たちはすべて
ひとり残らず
いつかは旅立っていくことを知っているのに
誰ひとりとして
その行き先を知らないんだから
今日採ったディルの種は
来春また新しい命を育んでくれる
この一粒の種が
土に帰って
そして
新しい命になることを
私たちは知っている
日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。