Lean UX でまわす、まわるプロダクト開発
この記事は、監訳を担当した『Lean UX(第3版)』の刊行記念イベントとして、2022年10月21日に開催された Forkwell社主催のイベント「Forkwell Library 」でお話しさせていただいた内容のフォローアップ記事になります。当日のスライドはこちらから、アーカイヴ動画はこちらからご覧いただけます。
Lean UX とはなにか?
Lean UX とは、「デザイン思考」「アジャイル開発」「リーンスタートアップ」を統合させた開発プロセスです。
デザイン思考:ユーザーの課題を特定し、解決する糸口を探るアプローチ
アジャイル開発:いち早くユーザーに価値あるものを届けるアプローチ
リーンスタートアップ:需要のないプロダクトの開発に時間や労力をかけてしまうさまざまなリスクを回避しながら、成功の確率を高めるアプローチ
第3版では深く言及されていませんが、『Lean UX(第2版)』では Lean UX のプロセスは以下のように定義されています。
それでは、1つ1つ詳しく見ていきましょう。
Step1:思い込みや仮説を整理する
後に言及する「Lean UXキャンバス」を使って、「いま確実にわかっていること」を洗い出すと共に、学びを深める必要のある内容に対して仮説を立案し、検証プランを立てていきます。代表的なものとしては以下が挙げられます。
ビジネスの成果:プロダクトが成功したかどうかを判断する基準は何か?
ユーザー:ターゲットユーザーは誰か?どんな課題を抱えているのか?
ユーザーの成果:ユーザーの課題が解決されると、何が得られるのか?
機能アイデア:ビジネスやユーザーの成果を成し遂げるために必要な機能は何か?
Step2:仮説の検証に向けてデザインする
次に仮説を検証するために低コストで実施できる方法を探っていきます。忠実度が低いワイヤーフレームは、最小の労力で用意することができます。もし、検証したい仮説の解像度が高ければ、モックアップやプロトタイプといった、より忠実度が高い方法を選択することも視野に入れます。
最近は bubble といった利便性の高いノーコード開発ツールが広まってきていますが、プロダクト開発の初期段階でいきなり忠実度の高い方法で検証に進んでしまうと、得られるインサイトが浅くなってしまうため、注意が必要です。ワイヤーフレームのメリットは、不完全ゆえにユーザーの想像力が試されるため、予想もしなかった学びを得ることができます。
Step3:MVP(Minimum Viable Product)を構築する
検証を繰り返し、ソリューションの輪郭が薄ら見え始めてきたら、MVP の構築に進みます。0→1の場合に有効で、すでにプロダクトが存在する場合は前のステップでリサーチを実施するためのアウトプットは用意できているため、次のステップに進みます。
Step4:リサーチを重ねて学習する
小さい単位て繰り返し調査をする「継続的なリサーチ」と、組織のサイロ化を排除し、共同で進めていく「コラボレーティブなリサーチ」の2つがあります。特に重要なのは「コラボレーティブなリサーチ」です。
組織が大きくなればなるほど、ユーザーとの接点は分散してしまいがちです。組織や職種ごとにユーザー理解が異なる場合がほとんどで、得られる情報にも差分が生じます。そうなると得られる学びの量が均一ではなくなるため、チームが同じテーブルに集まり、検証結果と次の検証内容並びに検証方法について会話し、プランを立てる機会が必要になってきます。
「Lean UXキャンバス」の紹介
第2版を既に読まれていて、第3版を手に取られた方は、私と同じく内容の大幅な刷新に驚いたかと思います。第2版から大きく追加されたのは、書籍の大半を占める「Lean UXキャンバス」の解説です。
第2版が刊行されてから、5年が経過しています。この5年もの間、著者の一人である Jeff Gothelf 氏は Lean UX を組織に導入するためのコミュニケーションツール「Lean UXキャンバス」を考案しました。今は Version 2 として彼のサイトで公開されています。miro でもテンプレートが公開されています。
監訳者まえがきでも触れていますが、「Lean UXキャンバス」は組織横断でプロダクト開発を推進するために用いることができるファシリテーションツールです。プロダクトの「Why?」に着眼点を置いた構図になっているため、Lean UX の要素やプロセスをよりロジカルに説明することができるようになりました。
「Lean UXキャンバス」の各構成要素の説明や活用事例についてはぜひ書籍をお手に取ってご覧いただきたい一方で、「Lean UXキャンバス」のようなツールはどうしてもそれぞれの要素が独立して見えてしまいがちです。
このキャンバスは、プロダクトの現在の状態から、目標とすべき状態に到達するまでのロードマップを描き、仮説が正しいかどうかを確認する手段を設計と実行するまでをサポートしてくれます。各ボックスの記載順には、そのような意図があります。
「Lean UXキャンバス」をうまく活用する方法
私自身が過去のプロジェクトで学んだ、「Lean UXキャンバス」をうまく活用する方法をご紹介します。
自分たちはユーザーではありません。ユーザー視点を異なった形で捉えている可能性があることを理解しましょう
キャンバスを完璧に埋めようと思わないこと。キャンバスはビジュアルデザインではありません。間違っていても、後から更新すればいいのです
仮説はあくまでも現時点でわかっていることから始めましょう。憶測でことを進めると無駄なものを作ってしまうリスクが高まります
変更を許容すること。ドキュメント類はどうしても記入したら手を加えてはいけないという衝動に駆られます。学びを得ると都度見直し、ポストイットなどですぐに上書きできるような工夫を施すことをオススメします
「Lean UX キャンバス」のオーナーシップは全員にあります。検証すべき仮説と優先度並びにロードマップの意思決定はプロダクトマネージャーにありますが、誰もが「Lean UXキャンバス」を更新することができます。そのためには、チームメンバー全員の視界に入るようにオフラインであれば壁に貼ったり、オンラインであれば振り返りの機会を意図的に設けるなどの工夫が必要です。
なぜなら、プロダクト開発が進むにつれ、どうしても「作る」ことに意識が向いてしまい、Melissa Perri 氏の著書『プロダクトマネジメントービルドトラップを避け顧客に価値を届ける』で触れているビルドトラップ(開発に集中してしまい、ユーザーやプロダクトの課題がおざなりになってしまう状況のこと)に陥ってしまうリスクが高まるためです。
組織に Lean UX を浸透させるには?
まずは以下を整理することから始めてみましょう。
Lean UX がもたらす価値をまずは理解する
その価値が最大限に発揮される状態を理解する
自分自身の役割を理解する
組織の成熟度を理解する
組織ないしはプロダクト開発のあり方を理解する
一般社団法人システム・ユーザー協会が発表した「企業IT動向調査2022」によると、予定通りの工期で終わったプロジェクトは約22%、予定通りの予算でおさまったが約25%、品質に満足しているという回答が約17%と、いまの日本ではプロジェクトの成功率が著しく低いことが伺えます。
ユーザーにとって価値のないプロダクト開発に時間や労力を費やしてしまうリスクを回避しながら、成功の確率を高める Lean UX は、その特効薬とも言えます。
ただし、一人の力では限度があります。そのため、組織における自分自身の役割を見失わないようにしつつ、組織の成熟度にあったアプローチを考え、同志を集めて小さく始めることが最善です。
組織の成熟度を測るためのフレームワークの1つとして、Renato Feijó 氏が提唱した「UX成熟度モデル」が参考になります。
Lean UX がそもそも認知されていない場合は、今回のようなセミナーまたはイベントにチームで参加したり、社内で読書勉強会を開催することが効果的です。さらに関心を持って投資をしてもらうには、小さくはじめて効果を直ぐに実感してもらう必要があります。
そこで今回ご紹介した「Lean UXキャンバス」を有効活用できます。ワークショップ形式で埋めてみるなどして、不足しているピースを探索しにいくアクションにつなげることで、気づいたらまわっている状態になることもあります。そうすれば、成功ですよね。
スライドや動画では事例も紹介していますので、そちらもあわせてチェックしてくださいね!最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメントや質問などあればお気軽に @mariosakata までDMください🙂