ロシア国民は反戦の声を上げていないのか1
ロシアによるウクライナ侵攻から、2年あまり。
「なぜロシア人は、もっと戦争反対の声を上げないのか?」
「なぜ、プーチン大統領が隣の国に理不尽に侵攻しているのを、黙って許しているのか?」
ロシア語通訳翻訳者という仕事柄、しばしば、こういう質問を受けることがあります。
これは、日本を含む西側民主主義国に暮らす人たちが、今のロシアによるウクライナ侵攻を見ていて抱く、素朴な疑問だと思います。
全体主義社会がどういうものかを知らない人たちには、ロシア国内にいる人たちの置かれた状況を想像するのは難しいと思います。こうした質問にどう答えたらよいのか、説得力のある言葉を探す日々です。
私だって、全体主義社会を知っているとは言い難いけれど、社会主義国ソ連での1年半の生活で、その一端を垣間見る機会は少なからずありました。そのことについては、また改めて書きたいと思っています。
ロシア国民は、プーチン政権に対して戦争反対を表明してこなかったのでしょうか? 手放しでプーチン政権を支持しているのでしょうか?
いいえ。決してそんなことはありません。
2022年2月24日の侵攻直後は、多くの人が路上に出て反対を表明しました。デモは警察や特殊部隊によって鎮圧され、多数の拘束者が出ました。
大勢が集まる集会やデモが鎮圧されるとわかると、個人で「戦争反対」のメッセージを掲げて街頭に立つ人が現れました。そういう人たちも拘束されるようになると、何も書かれていない白紙を掲げる人が現れ、その人たちでさえ拘束されるという、冗談みたいな事態が起こりました。
拘束された人々の多くは、数日から数週間で釈放されましたが、その後さまざまな罪名で起訴され、数年から多い人は10年あるいは20年以上の禁固刑に処されている政治犯も複数います。
イリヤ・ヤーシン、ウラジーミル・カラムルザなど、都会の若い知識層に対して影響力を持つ政治家たちです。
ウクライナ侵攻前から長期収監されていたアレクセイ・ナワリヌイという政治家が、先日、北極圏の刑務所で獄死した事件は、日本でも多少報道されたのでご存知かと思います。2020年にロシア国内を飛行機で移動中に毒殺されかかり、治療のためにドイツに緊急搬送されて一命をとりとめましたが、多くの人の反対を振り切り、翌年ロシアに帰国して反体制活動を続けとようとして、帰国直後に逮捕された後、刑務所を転々とした結果の獄死でした。
死因は、刑務所側による殺人なのか、長期にわたる厳しい環境下での服役に耐えられなかったためなのか、明らかではありませんが(おそらく前者だと言われています)、いずれにせよ当局に殺されたことに変わりはないと考えられています。
ナワリヌイは、先日行われたロシア大統領選にもし立候補していたら、プーチン大統領の最大のライバルとなる存在でした。
(写真は、治安機関の職員のそばで「戦争反対」のプラカードを掲げる市民)