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なぜ東大は男だらけなのか

『なぜ東大は男だらけなのか』
矢口祐人著 集英社新書 2024年

 北大の教養部時代のクラスメートが、最近こんな本を出しました。

 矢口君(以下、著者)が北大を中退し、米国に留学して帰国後、東大で教えていることは知っていました。最近、別のクラスメートから、彼が東大の副学長になって、この本を出したことを知り、早速読んでみました。

 著者によれば、東大の学部学生の女性比率は20,1%。これは東大に限った話ではなく、私たちの母校の北大を含む、日本の主要な国立大学でも、早稲田大、慶應義塾大、明治大などの多くの有名私立大でも、どこも女性比率が40%未満です。

 まず、この数字に驚きました。

 私自身の大学時代(1985~91年、北大文学部)や大学院時代(1995~2003年、東大大学院人文社会系研究科)を思い返してみるに、女性が極端に少なかった、という記憶は正直ありません。理系より女性比率が高い文系の中でも、語学や文学は特に女性比率が高いからです。つまり私は、大学や大学院で、たまたま女性比率が例外的に高い学科で学んだために、男女比のいびつさに気づかなかったのです。

 本書によると、世界のトップ大学の男女比はほぼ同数で、欧米には女性の方が多い大学もあります。たとえば、米国では、1960年代後半から1970年代にかけて、一気に名門大学で共学化が進み、その後男女同数になったのですが、その背景には、フェミニズム運動の影響と並んで、「女性を入学させなければ大学が没落する」との危機感がありました。

 日本だけが、大学の女性比率が著しく低いままで世界から取り残されているのに、危機感を抱かず、いつまで経っても状況が変わらないことが問題なのです。

 「大学というのは(中略)多様な意見や価値観が交わるような空間でなければなりません。今の東大は多様性に欠けている。男性が8割であるほか、大都市圏の出身者、中高一貫の男子高出身者が圧倒的に多い。このまま放置していれば東大に国際的な競争力はつかない。今まではこれでも良かったのかもしれませんが、21世紀に入ってからは、画一的な環境では発想が生まれてくることはないでしょう」(2024年6月9日 北海道新聞デジタルより)

 著者が、初めから、このような危機感を抱いていたわけではありません。

 2010年代に、東大の女性留学生たちから「東大には、東大の女性学生を堂々と排除するサークルが複数ある。なぜ大学はこうしたことを許すのか」という指摘を何度も受けたことなどをきっかけに、東大のいびつな男女比問題を考えるようになりました。

 その後、副学長となり、グローバル教育センター長を兼務し、大学の国際化にかかわる中で、男女比の是正のためには、そうしたいびつな構造を作ってきた男性側の行動が必要と考え、本書で、女性教員の積極的な雇用や、一定の入学枠を女性学生にあてる「クオータ制」導入など、東大を変えるための具体的な提案をしています。

 こうした提案には、学内外で反発もあったといいます。男性である著者がこんな画期的で勇気ある問題提起をしてくれたことを、とても嬉しく思いました。

 東大の教員も学生も男女半々になって、女子高生が親や世間から「東大なんか行ったら、お嫁の貰い手がなくなる」などと言われなくなる......そうなったら素敵だと思いませんか?

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