13の般若
最近、自分の言葉選びに関してお褒めの言葉をいただきます。いやあ、恐縮です。ありがとうございます!もしそうであるならば、それは良質な言葉を摂取してきたからに他なりません。次に、僕が破茶滅茶にひねくれものだからです。
今回は、僕がこの2年のロングランに挑む中で救いになった言葉を引用して紹介します。しんどい時、これらが皆さんの力になれたら最高です。どうぞ!
①マンガ編 「悲惨な人生の中でせめて一度ぐらい…」『ウォッチメン』
一発目。アラン・ムーア著のDCコミックスの金字塔『ウォッチメン』より。この話はベトナム戦争、冷戦、核の脅威に不安が募るアメリカに、もしヒーローが実在していたら?そして、そのヒーローたちすら震え上がるほどの陰謀と「ヒーロー狩り」が行われていたら?というお話。
エンディングは、その陰謀が悲しいことに完遂され、最悪の形で「世界平和」が訪れてしまった後の世界。せめてもの抵抗として主人公のダークヒーロー、ロールシャッハが事の真相を日記にまとめてポンコツ出版社に投稿します。引用するのは、ラストシーンでポンコツジャーナリストくんにパワハラ上司さんがかける言葉。
これ、作品のラストの台詞。こんな重要じゃないキャラクターが締めます。しかも、なんか部下をナメきって「お前の人生なんかどうせクソなんだから、ちょっとは役に立てや」みたいなニュアンス。ですが、そこまでの報われないヒーローたちの物語を知っていると、この台詞の暗示を理解できて泣けるんです。
ある意味、悲惨な人生に「負けるな!」とも取れますね。
②マンガ編 「一生懸命頑張ってる自分に…」『ギャングキング』
柳内大樹先生の代表作である不良漫画『ギャングキング』は、ドラコ役の松田さんも通っているそうで、二人でこの作品の話もしました。不良漫画の中で特別、絵が綺麗で爽やかなタッチ、心温まるセリフが特徴。
引用箇所はこちら。不良を卒業して病気の姉のためにバイトを掛け持つワークマンのヘドロベロ。しかし、周りの鳶職の元不良は些細なことから主人公の学生たちと抗争を始めてしまいます。つまり、彼は主人公にとって敵側なんですが、優しいんですね。仲間を助けなきゃならない、でも喧嘩してる場合じゃない、働かなきゃいけない、逃げたくない…というストレスと過労で倒れてしまいます。
そんな彼にバイト先の店長がかける言葉。
頑張りすぎちゃって、疲れた人へ。
③マンガ編 「俺たちは知ってるぞ おめーのがんばりを…」/『リアル』
『SLAM DUNK』の井上雄彦先生による車椅子バスケの作品。
車椅子バスケに既に目覚めている戸川(実写化したらこの役やりたい)、主人公3人の中で唯一の"健常者"の野宮、そして事故により障害を抱えて自暴自棄になりながら少しずつ前に進もうとしている高橋。この3人の人生が交差します。
今回は高橋にまつわる箇所です。高橋はもう本当にずっと生意気でプライドが高く、それゆえに障害を持つ自分の身体をどう受け入れるか悩んでいます。そんななか、同じリハビリセンターに通うプロレスラー、スコーピオン白鳥の前向きな姿や強靭なメンタル(というか完治せぬままプロレスの試合をやり遂げた激ヤバ根性)に刺激を受け、心を開いて行きます。
しかし、白鳥とはここでお別れ。新たな治療法を試しに別の施設へ移ることに。高橋はそのことが嬉しく、白鳥がまた大好きなプロレスに関われてよかったと思うと同時に自然と涙が出てきます。そこで白鳥が放つ台詞。
白鳥は高橋の手をガッと掴みます。その手のひらには無数のマメが。高橋は人知れず、車椅子バスケの練習に没頭していたのです。
大事なシーンの前に楽屋でこれを読んでました。
今度は誰かにこの言葉をかける番かな?
④マンガ編 「絶望とは何だ 絶望ってのはあれだ…」/『リアル』
お次は同作の野宮パート。
彼は自分のせいでナンパした女性を事故に巻き込んでしまい、彼女の方が車椅子生活を送ることになります。謝罪行脚しては門前払いでスッキリしないが、事態は落ち着いて自分に集中。なぜなら、野宮もまたバスケへの憧れを捨てきれません。アマチュアからのトライアウトを受けに行きます。しかし、周りには猛者ばかり。野宮本人がファンだった元プロもおり…
明らかな実力差を感じて心折れそうな時、自分自身に言い聞かせたい言葉。
⑤マンガ編 「そうやって人を寄せつけないのは…」『バガボンド』
続いても井上作品。来ました、僕にとっての経典『バガボンド』。
主人公は宮本武蔵。彼の幼少期から伝説の剣豪になるまでを描きます。幼い頃から武蔵(たけぞう)は自分の力に酔った非行少年。周囲は全員敵と思い、実際に敵を作っては実力で殺してきました。そこに現れるのが圧倒的なオーラを持つ沢庵和尚。武蔵の心の支えになる人物。
ですが、まず、出会いの時点で武蔵にピシャリと説教します。
『呪いの子』2年目にかけて、ここを読んだのかなあ…
自分にぐさっとこの言葉が刺さりました。なるべく一人になりたいと思っていたのは孤独な時間が創造性を高めるからと信じてたが、間違っていたと気づきました。
⑥マンガ編 「この世に強い人なんておらん…」『バガボンド』
武蔵の旧友だったが、武蔵のような剣士になれなかった本位田又八。又八は嘘をついて佐々木小次郎になりすまし、遊郭で遊び、もうやりたい放題。でも、そのうち自分が空っぽであることに嫌気がさしてきます。
又八の後を追うのは母・お杉おばば。しかし、母に後ろめたい気持ちがある又八はどうしても逃げてしまいます。その後、お杉おばばは旅先で倒れ、余命いくばくもない状態。そこで、おばばは寝言のように「又八は武蔵のようになれないことが悔しい。嘘をついているのも知ってる。それでも私は味方。」と言い放ち、又八の心を見抜きます。
又八が、最後の最後に自分の弱さが受け入れられないこと、自分の嘘、器の小ささ、全てをさらけ出すと、おばばはこう答えます。
そしてこうも。
⑦MCバトル編 「俺は冷え切ってる だけど…」/呂布カルマ
僕はラップバトルがある時から好きになりました!ここからラッパーたちのかっこいい言葉でロングラン乗り切ったよと伝えます。一般的にラップバトルって悪口合戦や韻を踏む競技、と捉えられていますね。間違いじゃないけど、それだけじゃない。そう証明する試合からこのパートを始めます。
役者もそうですが、創作活動を続けるのは大変難しい。
ラッパーは本来、CDやレコードで自分の練りに練った楽曲を売りたいわけで、即興で相手を罵りたいわけじゃないんです。売れるため、そうせざるを得ないだけ。ラップバトルは格闘技のように刺激を求めるお客さんで溢れるけど、勝たないと何も意味ないし、勝っても肝心の曲に興味を持ってもらえない、ライブにも来てもらえない。役者と同じようなことでラッパーたちは悩むんです。
そんなこんなで30代を過ぎ、もう後がない二人のぶつかり合いです。
後ろは崖。引退もかかっている。キャリアはこの試合で終わ…るか?
伝説の一戦。
UMB 2016 GRAND CHAMPIONSHIP 決勝
ヤングたかじん(呂布カルマの別名)VS NAIKA MC
延長試合をピックアップしますが、二人の関係性を知りたい方は延長前も聞いてくださいね。
テーマは「アーティスト稼業をこれから長く続けるためには?」と言えます。
最近、メディアでも露出の多い呂布さんはご覧の通り、冷静沈着。対して、NAIKAさんはシンプルに激アツで会場を圧倒させてきました。続けるには「アツさ」か「クール」か、さあ、どっち!?
まずは、NAIKAさんの言葉で刺さった箇所を。
アツいでしょ?この応酬が続き、やっぱり熱が大事だと傾きますよね。けれども、現実問題、毎回、熱を保ち、新鮮に丁寧に大切に、本当にできるのか?常に同じ熱量と誠実さで。寸分の狂いもなく。
そんな疑問に「クールさ」がヒントをくれます。
僕の中でHIPHOPという単語を「ロングラン」に置き換えてました。仮に、いつかのような熱さ、初めて劇場のトリックを見た時の衝撃、扱う道具の感覚の貴重さを忘れてしまっても、とにかく心配すんな!ということかな?
というか「冷めても続けるもんだろ?」という言葉がアツいんですけどね。
結果、NAIKAさんが勝ちます。そのあとは勝者によるラップ。
この時に流れるのがOZROSAURUSの"MABOROSI"
才能なんてねーって潰れそうになる全てのオールドルーキーたちへおすすめ。
⑧MCバトル編 「自分を最後信じ抜いた奴に…」/MOL53
MCバトルは進化を続け、大会の数も多くなりました。じゃ、結局誰が最強なの?というところから、優勝者同士の大会、KING OF KINGS (KOK)が設立されます。
さあ、この大会の優勝候補筆頭、MOL53さんから引用。
彼のラップの特徴はとにかく古き良きHIP HOPのスタイルを崩さないこと。破壊力バツグンのディスと確かな音楽性のコンボで敵が無惨に散ります。ただ、これまで涙を飲むことが多く、その度に怒りを表に出してきました。
そんな彼が、何か吹っ切れたようにラップをしたのが今年頭のKOK2023。みんなが「53さんがこんなことを言うとは」と泣きそうになったはず。
最強。
誰もが頷いたそんなラップの締めです。ぜひ、最初から聴いてみて。
僕らはチームでお芝居をするようで、どこかで戦っているところもあります。
これからもそうでしょう。そんな時のお守りです。
無敵という意味でもあり、初めから敵じゃなかった、という解釈も。
⑨MCバトル編 「大人力」/ハハノシキュウ
最後はバトルそのものではありません。
上の大会についてラッパーのハハノシキュウさんがレポート。この方の言語化能力が秀逸で、特に表題の箇所が印象的。この「大人力」という言葉で彼が形容したのは先に紹介したNAIKA MC。
NAIKAさんはもうUMB2016を獲得して伝説に。次世代のラッパーたちと相手をして勝ったり負けたり。子供が強くなるよう本気で相撲をとってあげる親のよう。
そんなNAIKAさんの「大人力」をハハノシキュウさんは評価します。
ここで大人力とはどうやら、目立つ活躍ではないけれど、淡々と日々仕事をこなしていくカッコよさのことだそうです。でも、そのカッコよさは30代になってようやくジワジワ理解してもらえるようになるのでは、とのこと。
ロングランにおける僕の立ち位置はこの大人力が求められる立場でしょう。およそ650回、特別なニュースはなく、淡々と同じ仕事の繰り返し。それでも、ちゃんと大人力はついたかな?
ハハノシキュウさん、NAIKA MCさん、
この大人力の大事さとかっこよさ、痛いほど分かります俺!
⑩実体験編 「君の進む先は地獄ですよ でも…」
このことは初めて話します。
実は「できるかな」でお馴染み、高見のっぽさんに生前、お会いしたんです。父親が繋がっており、「愚息が俳優なんてやっておりまして」と言ったところ、のっぽさんの方から会いたいと言ってくれました。
当時はコロナ禍。以前、ハリポタ舞台の卒業コメントでも表明したように、覚悟のなさが露呈していた失礼なバカでした。そんな自分に俳優を続けたいそうだねぇという話から次のように言いました。
お元気であれば観にいらして欲しかったです。
改めてご冥福をお祈り申し上げます。
11.実体験編 「Don't be a hero, Kazuma-san.」
これはハリポタ舞台のムーブメント指導のヌノさんに言われた言葉。
ご存知、このロングランまあなかなかに過酷でした。特に最初は勝手が掴めるまでは体に馴染まずに怪我も少なくなかった。この言葉を言われたとき、僕は肩と腕を痛めており、それをうっすら誰かに伝えたらそれがヌノさんの耳に入りました。
この時、カバーの田口の遼はジェームズデビュー前。正式デビュー前に緊急で仕上げるのは避けたいと黙っていたところ、ヌノさんにピシャリと言われたんですね。結果、部分的に遼に任せたのです。
おそらく多くの方がヌノさんを「いつも笑顔で優しい、愛に溢れた方」と思っているはずです。たしかに、それは間違いない。でも、実は僕は彼に個人として褒められたことって一度もないんです。ノート(日本で言うダメ出し)を大量にもらうことの方が多く、"Lovely", "My favorite", "Nice" と個人で言われたことは一度も。でも、だからこそ厳しめな彼のことを僕は信頼しています。
そうそう。僕が稽古場でセドリックの場面を扱い、ヌノさんが段取りを組んでくださった時、ヌノさんは片手で杖を振って見せてくれました。しかし、僕はセドリックの杖の構えは両手と決めていました。何も言われず今の形になりました。
そして、3年目の稽古。話に聞くとヌノさんはご自身が段取りを組む時からすでに「両手で杖を構えるようにしてください」と役者に伝えていたようです。
僕は直接褒められるのが大好きです。
でも、それよりもこっちの方がよっぽど嬉しい。
12.実体験編 「私は彼に約束するよう言いました…」
今度はNHK ETV『しあわせ気分のフランス語』に話を移します。
待ち望んでいたフランス!現地ロケは、めちゃくちゃ楽しいのはもちろんなのですが、それはそれは大変な日々だったのも事実。まだ慣れきってない言語、TVのやり方も下手くそ、フランス語で頑張ったものの通用せずに会話をぐちゃぐちゃにしてしまったり、気負いすぎて自分が「しあわせ気分」を失ったり。僕は終盤にかけて、実はかなり参ってしまいました。それでも「素直に楽しめばいい」はず。
でも、どうやって?
そんな時、同行してくださったプロデューサーに手招きされました。
夕食前に二人で話そう、と。そこで、
この言葉で救われました。習ったフランス語を使わなければとかじゃない。相手の表情が肝心なのだと目的が定まりました。しかし、プロデューサーはこの日で日本に帰らなければならず、残り1日のロケでしたがやっぱり不安でした。
クルーが全員待っている夕食の場所に向かいました。食べて、飲んで、酔っ払ったプロデューサーは「お別れの前に最後の挨拶をさせてくださーい!」と言い、スタッフたちへの感謝を述べた後、こう言いました。
俺が俺であること。永遠のテーマです。
13.実体験編 「ハッフルパフに行くならば…」
もう説明不要ですね。
苦労や困難を乗り越えていく、じゃない。
そもそも苦労を苦労と感じない忍耐強さが重要な要素。
苦労もない。敵もいない。強い者もいない。ヒーローもいない。
空即是色 色即是空 の「空」。何者にも囚われない。圧倒的自由。
このての仏教の話は1st シーズンのダンブルドア役の福井貴一さんと頷きあいながら話しました。会いたいな〜。
俺にとっての「般若(智慧)」がまさにこの13の言葉。
同じてれび戦士として盃を交わし、去年まで同じ舞台に立っていた渡邉聖斗と久しぶりに再会したとき、彼は「こっからがロングランだね」と言いました。
その通り。だから、13の言葉にこれからも頼りっきりでしょう。
最後に『バガボンド』原作の小説から抜粋。
そしてこの箇所は先のプロデューサーの座右の銘だそう。
表層的な波風に揺さぶられない、
君の内側深くにある「大いなるもの」は君自身しか知らない、という意味。