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恩恵は次の者へ

街中には、「〇〇〇」が溢れている。

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福岡、天神。
九州の中で一番の都会だと言っても過言ではないだろう。

その中でも特に人通りの多い国体道路を一人で歩いていたとき、とある車に目が行った。

真っ白なワゴン車が、歩道を横切って駐車場に入るために左折をしようとしている。
しかし、前述の通り、この国体道路は人通りが多い。
そして車通りも多い。

その白い車が早く駐車場に入ることができない限り、その後続の車たちは待ち続けることになる。

そんなことは、ちょっと想像すれば誰だって分かるはずなのに、その道を歩いている有象無象たちだって分かるはずなのに、誰一人として白い車のために道を譲ろうと歩みを止めない。


結局、もうそこのオブジェじゃないかと思ってしまうくらいに動けていないその車に、有象無象たちは手を差し伸べることは無かった。
つまり、たまたま人が通らなくなるその瞬間まで車は全く動けていなかったということだ。

そして、僕はそんな一連の流れを見て、「〇〇〇」だなあ、と思った。


確実に何か僕はその光景に対して感情を抱いたはずなのに、この「〇〇〇」に入る適切な言葉が思い浮かばない。

それこそ、「やさしさ」の対義語を入れたいのだけど、それが全く分からない。

ネットで調べると「厳しさ」と出てくるけど、正直しっくりこないし、
そもそも、ここに当てはまる言葉を見つける気もない。

「やさしさ」がどんなものかさえ分かれば、世界が「やさしさ」で溢れれば、みんなが白い車に道を譲ってやるようになれば、そんな反対の言葉なんて気にしなくてよくなる気がするから。

いや、僕が、そうあってほしいと願っているから。



はじめに

僕にはとても好きな話が二つあります。
そして、その二つには共通項があります。

それは、そこには僕が思う「やさしさ」の本質があるということです。
人それぞれ「やさしさ」の定義は違うのは当然で、そしてもちろん僕にも「やさしさ」の定義があります。

このnoteでは、その二つのお話を紹介しながら、僕の考える「やさしさ」を説いていきたいと思います。
僕の意見に共感してくれるのが1番嬉しいですが、「そうじゃない」という意見も嬉しかったりもします。
だって、さらに「やさしさ」への理解をアップデートさせることができますからね。

皆様も同じように、自分の中の「やさしさ」をアップデートさせる機会として、このnoteを読んでくだされば嬉しいです。

一つ目は、僕が愛してやまないキングダムの第七巻に収録されている紫夏のお話。
二つ目は、2000年にアメリカで製作された『ペイ・フォワード』という映画。

長くなってしまったので、今日はキングダムの話を紹介して、明日にペイ・フォワードの紹介と「やさしさ」への言及をしていくことにしました。

どちらも読んでくださると嬉しいです。



紫夏

さて、まずはキングダムのお話から。

あ、これからキングダムを読みたいと思っている人は、ひょっとしたらこのnoteは読まない方が良いかもしれませんね。
ただ、これを読んで内容を知ってしまったとしても感涙してしまうことは保証しますよ!

気を取り直して、ここでご紹介したいお話は、第七巻に収録されている「秦王を敵国・趙から助け出す」お話です。

はい。
「秦王を敵国・趙から助け出す」って言われたところで、キングダムを読んだことがない人は何が何だか分かりませんよね?

キングダムの概要から説明しないといけないやつですね。
頑張ります。

始めましょう。


『キングダム』は、原泰久先生による長編漫画です。
2006年から「ヤングジャンプ」にて連載が始まり、今では単行本が59巻まで出ている超人気漫画です。
昨年、実写映画が人気を博しましたが、僕は高校生のとき、つまり5.6年前から何度も何度も読み返しています。

とにかく素晴らしい漫画です。


キングダムの舞台は春秋戦国時代。
秦王・嬴政(えいせい・これは名前ですよ)と下僕の信が共に協力し合い、中華を統一するまでのストーリーを描いた漫画です。

統一する方法はもちろん武力で。
つまり、戦争です。

戦争で七国七雄を一国へとまとめ上げようとしているのです。

これは、全ての国王が目論んでいるものではありません。
だって、生まれただけで頂点の立場にいることができているにも拘らず、わざわざいばらの道を歩もうとする人なんてそうそういませんよね。

しかし、嬴政はそのいばらの道を選んだのです。
それには、嬴政の壮絶な過去が深く関わっています。


嬴政の生前の秦王(嬴政の祖父に当たる)・昭王は戦神と呼ばれており、彼の時代の戦争は特に激しいものでした。

敵六国を蹂躙せしめんとする強国・秦の中でも、六将というさらにずば抜けて戦に強い大将軍が六人いました。
その内の一人、白起という将軍が「長平の戦い」で趙軍に勝利した後に、その投降した兵・40万人を生き埋めにしたのです。

40万人ですよ。
現在の福岡市の人口が約150万人なので、その4人のうちの1人が生き埋めにされたのです。
想像するだけでも、おぞましい。


これをきっかけに、趙は隣国・秦を心から恨むようになります。

そして時は進み、残酷なことに、父・子楚が趙に人質に取られていたときに、趙の女を孕ませ、嬴政はその趙で誕生することになるのです。
子楚は呂氏という強力な後ろ盾があることにより、趙国からなんとか脱出できたのですが、妻と子供(嬴政)と一緒に脱出する余裕はなく、その二人は趙に置き去りにされます。


さて、趙国の人間からすれば、親や兄弟を殺した秦国の人間がすぐそこにいるのです。
今の僕たちからすれば全く想像することもできませんが、趙の人たちは秦に対する恨みの全てを嬴政にぶつけます。
現代の陰湿ないじめなどではなく、それはもう子供に対するものとは思えないほどの酷い暴力です。

それなのに、たった一人の支えになるはずの母親も、日銭を稼ぐために男を家に招き入れ、さらには「お前が生まれてきたからこんな生活に」と嬴政に手を上げることもありました。

嬴政は飢えを凌ぐために盗みを働き、そして捕まってしまったときにはたくさんの暴力を受けます。
いつの日か、痛み、味、匂い、暑さ、寒さなど、何にも感じなくなってしまい、体と感情がおかしくなってしまうほどの壮絶な日々を過ごしている嬴政ですが、突然、その父・子楚が太子になることになります。

そのことによって、嬴政は趙国から救出され、敵国での壮絶な日々から、秦国での望めば何だってできる日々へと生活が一気に変化するのです。


これだけ聞けば、「良かったじゃん、嬴政!」と思ってしまいますが、秦に帰るだけでも多くの障壁があります。
趙国からすれば、自国に凄まじいほどの恨みを抱いているであろう人間が、いつか王様になってしまうことが避けがたいことであることに違いありません。

また、秦と趙は隣り合っているといえど、その間には多くの関門があり、そこで荷をチェックされ、怪しいものがあればそれを運んでいる人はその場で斬首です。

そんな中で、秦の人間の力だけで嬴政を脱出させることはとても難しく、ここでこの段落のタイトルである「紫夏」が登場するのです。

とても長くなっていますね。
ペースを早めます。

紫夏は、趙国の闇商の女性です。
つまり、違法なモノを運ぶ人ってことですね。

そんな彼女と、その一行(亜門と江彰)が嬴政を秦へ返す計画を引き受けることになります。

順調に趙から秦までの全ての関門をくぐり抜けた一行ですが、嬴政がいなくなったことに気づいた趙王はすぐに嬴政を殺させるための騎馬隊を派遣しました。

趙の騎馬隊は中華でも最も速く、秦へ辿り着く前に一行は追い付かれてしまいました。

実は嬴政を迎えるための兵隊たちが近くに待機していたのですが、そこまで持ちそうにもありません。
その兵隊たちも異変に気付き、嬴政の救出に向かいますが、無傷ではすみませんでした。

闇商からすればただの品物でしかない嬴政を守るために、亜門、江彰、紫夏の3人が犠牲になったのです。
もう、ここで僕の涙腺は崩壊します。

何度読んでも、いつでも涙が溢れ出てきます。

さて、ここからが一番のポイントなのですが、ただその3人が犠牲になったからというだけで僕の感情はそこまで揺さぶられません。

その3人が身を挺して嬴政を守ったその理由に大きな意味があります

亜門、江彰、紫夏の三人は戦争によって親を亡くした孤児でした。
そんな餓死寸前の三人をたまたま通りかかった行商・紫啓が見つけ、その三人に手を差し伸べたのです。

死の淵から引き上げられ、紫啓から多大な恩を受けた三人。
しかし、紫啓は紫夏が10歳の時に、また別の人を助けようとして命を落としました。

その人の死に際、紫夏は彼にこう泣き叫びます。


「死なないでくれ。
受けた恩に対し、私はまだ何一つ返せていない。」

もし僕が同じ状況だったとしたら、僕も同じように泣き叫ぶと思います。

しかし、紫啓は紫夏に対してこう返します。
ここが、今回の大きなポイントです。

「恩恵は全て次の者へ。」

次の記事でご紹介したい『ペイ・フォワード』も、この「この恩を私に返すのではく、次へ渡せ」という考えが核になります。

紫啓はこう続けます。

「私の命も幾人かの命によって救われてきた。
その恩を余さず、お前たちに注いだつもりだ。
紫夏、お前がこの先、他人のために何かできたら、それは私にとっても大きな意味を持つ。
どんなに些細なことでもいい。
受けた恩恵を次の者へ。
フフ、そういうものだ、紫夏。
そうやって…
そうやって…
そうやって人は、つながってゆく。」


この紫啓の伝えを紫夏は信じ、嬴政を救うために自分の命を犠牲にするのです。

これを読んでる皆様、僕の文章が見えにくくなっていませんか?
大丈夫ですか?

大丈夫!って方は是非、原泰久先生の絵付きでこのお話を読んでみてください。
絶対ですよ!


こうして、嬴政はなんとか秦からの救助隊に助けられます。
さらに、痛み、味、匂い、暑さ、寒さなど、何にも感じなくなっていた嬴政ですが、国境を越えた瞬間に、逃げている途中に矢を受けた左手に激痛が走るのです。

痛みだけでなく、味覚も、嗅覚も、全てが戻ったのです。

つまり、嬴政は命だけでなく心も紫夏から救われたのです。

そして、数年後に嬴政は王座につき、中華統一を目指します。
つまり、キングダムの始まりです。


いかがでしたでしょうか?
キングダム、面白いでしょ?

絶対に読んでくださいね!!!



おわりに

さて、僕の考える「やさしさ」が「恩恵は次の者へ」という考えと関係していることが分かったと思いますが、詳しくはまた明日、『ペイ・フォワード』のお話をした後に説明したいと思います。

明日のはもっと短くするつもりなので、キングダムだけじゃなくて、僕のも読んでくださいね、!

それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。
また明日!

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