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第5回神田松鯉のこのネタが聴きたい

2024年11月19日
年1回開催されている人間国宝・神田松鯉先生の公演に
今年も木積さんよりご招待いただきました。
ありがとうございます!!

『第5回神田松鯉のこのネタが聴きたい』
今年は『天保六花撰のどれか』と、どのネタかは伏せられていました。
どんなネタなのか予想するのも楽しかったです。

今年のネタは何と…


↓こちらは2023年の公演です


演目

神田松鯉 天保六花撰 河内山宗俊・直侍召し捕り

~仲入り~

芸談(聞き手・木積秀公)


天保六花撰 河内山宗俊・直侍召し捕り

天保六花撰は二代目松林伯圓の創作による講談です。

中心人物は
河内山宗俊
片岡直次郎
金子市之丞
森田屋清蔵
暗闇の丑松
三千歳(花魁)の6名

河内山宗俊・片岡直次郎・金子市之丞・三千歳は
実在の人物がモデルになっています。
今回のネタは、宗俊・直次郎・三千歳(名前だけ)が登場。


これから聴かれる方のためにネタバレはなるべく避けますが
悪人版『水戸黄門』と言った印象でしょうか。

「あの方に言うけどそれでも良いな?」という旨の発言が出てきます。
「あの方に言う」=『印籠』のようなものですね。

この時代は現代よりも立場や役職により
身の安全が左右される時代。圧力で真実を捻じ曲げられたこともあったのでしょう。そういったものが凝縮された高座でした。

『黒を白に、白を黒にできる』
江戸幕府のお数寄屋坊主だったからこそできる芸当です。


芸談

主催・木積さんとの質問回答形式です。
いくつか聞き漏らしているところもありますが、ご容赦ください。

木積(以下・木):今回のネタについて
松鯉(以下・松):浅草ということで色街のネタをリクエストされたので。このネタは30年ぶり。ネタをさらっても固有名詞以外がなかなか出てこなかった。


木:長い講談のネタ、どう覚えるのか?
松:丸暗記かプロットとして覚える方法がある。丸暗記は八代目桂文楽方式、プロットは古今亭志ん生方式、私はプロットとして覚えている。
プロットとして覚えていれば自分の言葉で補える。丸暗記だと言葉に詰まったら「また勉強して出直してきます」となる。
ただし、固有名詞はしっかり覚えなければならない。

木:人間国宝になって、周囲の反応や扱いは変わったか?
松:変わった部分と変わらない部分と。変わって部分は、チラシやパンフレットに『人間国宝』と出してくれる。もっとも、丁寧に扱うかと言われると…(笑)。ただ、悪く扱われることはない。


木:このネタを誰につけてもらった?
松:誰にもつけてもらっていない。五代目伯山先生がやっていたが、『いいとこ取り(玉子の強請等)』。あとは自分が速記本から起こした。
私のネタの7割は(速記本からの)掘り起こし。


木:サントリー美術館『英一蝶展』が開催されたが。
松:サントリー美術館には行かなかったが、別の場所で2度英一蝶展で見ている。
伯山と松麻呂『浅妻船』を教えてくれと来た。英一蝶展でやることになったとのことで教えたのだが…。
改めて伯山に聞いたら、英一蝶全体のナレーション(音声ガイド)は伯山が、浅妻船の一席そのものは松麻呂がやるという話だった。

木:浅妻船を中心として、英一蝶はユーモラスな絵が多い
松:私が2回見た浅妻船は墨絵だった。
木:講談が光を当ててくれた。2024年は柳田格之進が『碁盤斬り』で映画化。
松:柳田角之進、来年(2025年)都民寄席でやりますよ。
木:先生の柳田角之進は、『角』。
松:速記本から起こした際の題名が『角』だった。あれも工夫した。ある部分を作り直している。


木:師匠の二代目山陽先生(濱井弘さん)について
松:吉原に猪牙舟(ちょきぶね=水上人力タクシー)で通っていた。戦前の日本三大取次・大阪屋号書店の若旦那で金はあり、大看板にお座敷払うくらいの料金で稽古をつけてもらっていた。
教えた先生にとっては、『金づる』だったのかもしれない。ただ、教えてもらっていたから我々が受け継いでいるので感謝しなければならない。


木:休みの日は何をしている?
松:『高座がない日』を休みとするなら、たまっている仕事(原稿・俳句など)をしている。マネージャー、事務所、社長もいない。全部一人でやっている。
木:『家内制手工業』
松:その方が気楽。事務所に入ると嫌な仕事もやらなければならない。若い時から電話一本で生きてきた。


木:お酒は?
松:酒は毎日飲んでいる。お米のジュース、日本人の主食。
木:甘いものは?
松:最近は食べるようになった。


木:講談の登場人物の中で、自分の性格と近いと思う人はいるか?
松:ありたいと思う人はいる。男の美学。『勧進帳』の富樫など。弱いものに味方をする。長いものに巻かれない。そういうものを信条として講談をやっている。


松:陽之介時代米朝師匠に御馳走になったことある。大阪角座で米朝師匠がトリ、仲トリ山陽先生で出演した際、米朝師匠一緒い飲みに行ったが、山陽は飲めないので、代わりに私が米朝師匠と飲んでいた。
木:松鶴師匠や、三代目春団治師匠と飲んだことはあるのか?
松:会った事はあるが飲んだことはない。


木:松鯉先生の夢は?
松:もっと上手くなりたい、もっと個性的になりたい。若い時は上手くなりたい一心だった。しかし現在は個性が大事にされる時代になった。
芸も同じ。時代がどんどん変わっていくので、いまの時代に適応できるよう、上手さと個性を両方夢に持っている。


まとめ・感想

齢82にして、まだまだ進化・アップデートを続けている松鯉先生。
環境の変化や時代の変化に対しても寛容で、とても柔軟な発想を持っておられることを改めて思い知らされました。

松鯉先生ほどの方がこうなのですから、それよりも若い人間が考え方に固執しているのは…と、少し反省しなければならないですね。

今後は、「さらわなくていいネタを」と仰っていた松鯉先生ですが
この公演だからこそ聞けるネタを、今後も聴いてみたいものです。



おまけ
芸談時の松鯉先生
※この時間は撮影自由でした。


木積さんの方を借りて、舞台を降りる松鯉先生

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