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福島の海で作ったサイアノタイプ作品 制作裏話

2023年私は福島県南相馬市のアーティスト・イン・レジデンス群青小高に参加してきました。
そこでは福島の海を直接サイアノタイププリントに焼き付けるという手法で作品を制作しました。
作品に対する思いなどは近々公式から記録集が出るので、そちらにおまかせします。
今日は制作時の苦労話を少し語りたいと思います。

このレジデンスの募集が始まった時、私は福島の子どもたちと海水を使って作品作りをしようと企画していました。
レジデンスの企画書にもそのように書いて、応募しました。
企画書が無事に通り、私はレジデンスに参加することになったのです。
ところが私がレジデンスに参加する数日前、例の原発からの排水が始まったのです。
これはかなり困りました。
レジデンスの担当の役場の方とも悩みました。
結果、私の勝手な呼びかけで子どもたちを海の水に触れさせるわけにはいかないという判断を下し、一人で作品を制作することにしました。
当初はアワガミファクトリーの薄い和紙にサイアノタイプのインクを塗って、それで作品を作る予定でした。
実際制作した感光紙を持って海に入ると紙はあっさり破けてしまいました。
二日かけて作った感光紙は全ておじゃんです。
そこでロールタイプのアート紙を注文して作品を制作することにしました。
1メートル×10メートルの紙が届いたので、それを3メートル、3メートル、4メートルにカットしました。
それら一つ一つにサイアノタイプのインクを塗布していくのですが、思ったよりインクを消費しました。
インクを4セット買っていましたが、それを全て使いました。もっといえば、4セットでもギリギリでした。
感光紙を作った後は、それを海岸に持っていきます。
さてと、ここでちょっと問題が発生します。
海岸までは徒歩で一時間以上かかります。当初はレジデンスアーティスト向けに原付きが用意されるとのことでしたが、なんとあまりの猛暑で原付きが壊れてしまったのです。
もう一台、自転車があるとのことでしたが、自転車は別のアーティストが使いたいとのことでした。
困りました。歩きたくないなーと思いました。
でも歩くしかなかったのです。
私は片道一時間以上かけて歩いて海岸に向かいました。
そこでサイアノタイプの紙を広げて、海に入ります。
水を吸った紙は重くなります。
福島県の浜通りは波が高く、すぐに感光紙は沖に持っていかれそうになりました。
一枚目の感光紙は破れてしまいました。
うまくいかない。
二枚目、今度は破れないようにそっとやりました。
でも波が来るとあっという間に持っていかれそうになります。
海水は砂も含んでいるので、感光紙はあっという間に傷つきます。
もう私は漁師のような手付きで感光紙を巻き上げ、そして砂浜の上に広げました。
浜辺の砂を重しにして太陽光の元で感光させます。


感光させた後は、再び海水につけて洗浄を行います。
今度は感光紙を乾燥させます。
お昼過ぎにはじめた作業も、気づけば夕方。
自分も感光紙もまだびしょびしょですが、これらを持ってまた一時間以上かけて歩いて拠点に戻ります。
水を含んだ一〇メートルの紙というのはほんとに重たく、ましてや砂浜の砂もこびりついているので、もうダンベルのようになっていたのです。
途中すれ違う人に不思議そうな目で見られながら、なんとかホームセンターに到着。
ここはまだゴールではありません。ただ休憩に立ち寄っただけです。私は自動販売機でジュースを買って、休息をとって再び徒歩での移動。
帰りは結局二時間以上歩くことになりました。
拠点についた頃にはもう真っ暗です。
しかし、作品についた泥を洗い落とさなければなりません。
なので、真っ暗な中作品の洗浄を行います。
砂はバケツにためて処分しました。
結局バケツ2杯分の砂がとれました。
部屋を養生して乾燥させるため作品を広げて、作業終了。
宿に戻った頃には皆ご飯を食べ終えていました。
翌日作品の様子を見に行くと、なんと作品が変色していました。
どうやら感光後の洗浄が足りなかったようです。
これではまずいと思い再び作品を洗浄。
そして乾燥させました。
結局感光紙にシルエットを焼き付ける作業は一日、というか一瞬だったのですが洗浄や乾燥で数日かかることとなりました。

群青小高の様子はこちらで見ることができますのでどうぞ。
近々記録集も出来上がると思います。
https://air-minamisoma.jp/

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