YOKOHAMA
皆さんは「横浜」と聞いて、何を連想しますか?
恋人とデートをしたり、友達と中華街で食事をしたり、仕事で通勤したり、きっと、人によって様々な思い出があるでしょう。
僕が初めて上陸したのは19才の頃。川崎の小劇場で打つお芝居の稽古のため、どんな場所かも分からぬまま「桜木町駅」へ降りた。
時間に余裕を持って早めに駅に着き街を散策しようとした所、目に飛び込んできた帆船日本丸。そしてみなとみらいのシンボルとも言えるだろうランドマークタワーに赤レンガ倉庫、フルカラーのイルミネーションが印象的な観覧車(コスモクロック21)。
この景色には、見覚えがある。
ここは“彼らの街”であり、僕にとっての原点だ。
その昔、『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(2008)と言う映画があった。
横浜を舞台に、タイトル通りウルトラマンティガを始めとする8人のウルトラ戦士たち(ティガ、ダイナ、ガイア、初代マン、セブン、ジャック、エース、メビウス)が怪獣や侵略宇宙人たちとバトルを繰り広げる話しだ。
ウルトラマンティガに変身するマドカ・ダイゴ(演:長野博 V6)ら7人の戦士たちがいち横浜市民として生活している、本来の物語の世界とは違うパラレルワールド(ウルトラマンや怪獣がテレビのお話しの世界)に空想上の存在である筈のウルトラマンメビウスと悪の怪獣や宇宙人が現れ、彼らが別世界ではヒーローだった記憶を思い出し戦いに挑むと同時に、子供の頃は純粋に信じていた筈の「忘れてしまった夢」へ再び一歩踏み出す様子が描かれている。
この映画は当時中学3年生で、和太鼓部の全国大会常連校(日本福祉大学付属高等学校)に入学すべく高校受験に勤しむ、丁度ひとつの夢へ挑戦しようとしていた僕の背中を押してくれた。
無事高校に入学し、夢の舞台だった全国高等学校総合文化祭(和太鼓の全国大会)の本番直前の舞台袖で待機しているときも、
この映画でのダイゴやアスカ(ウルトラマンダイナに変身する青年)や我夢(ウルトラマンガイアに変身する青年)が心のどこかにいたことは間違いない。
彼らのように僕も「夢」を忘れず生きて行くんだ。
真っ直ぐそう思っていた。
在学時に開催された県大会や全国大会にはすべてレギュラーメンバーとして出場。高校生活最後の全国大会(ふくしま総文2011)では「優良賞」という全国3位に匹敵する賞に入賞し、最高のカタチでピリオドを打つ事ができた。
高校生活での夢を叶え、「役者になる」と言う新しい夢を見つけられたのもきっと彼らの影響だ。
良い言い方をすれば自信に満ち溢れていて、悪い言い方をすれば世の中を完全にナメていた。
あの頃の僕には、この映画のもっと深い部分までは理解できてなかった。
そもそもなぜ、宇宙飛行士になるのが夢だったダイゴは市役所の職員になっていたのか。
プロ野球選手を夢みていたアスカは、科学者になって宇宙船を造ると言っていた我夢は、なぜ諦めてしまったのか。
そんなバックボーンを読み取ろうとはしなかった。
夢を持つと傷つく。
昨日までのお山の大将は明日からは凡人。
もの凄い才能を持った人を目の当たりにして自分の能力に絶望したり、周囲の期待を重荷に感じてしまったり、理想に追い付かない現実に嫌気が差してしまうこともある。
色んな経験をしてきた大人なら想像できたのだろうが、当時中3の僕には分からなかった。
「挫折」という二文字の意味を、高校卒業するまで考えることは無かった。
僕がそれを理解できるようになったのは、自分自身が「役者」と言う夢へ一歩踏み出してからだ。
いくつオーディションにエントリーしようとも受からない。
いや、二次審査の面接まで行って落ちるならまだ良い。一次の書類審査すら通過しないことがある。
全身とバストトップの2枚の写真と簡単な自己紹介と芸歴が書かれたプロフィール用紙をどこの誰だか分からない偉い人たちがみて、自分には分からない場所でジャッジが下される。そしてその間何をする訳でもなく、事後報告(落選通知)だけが送られて来る。
戦わずして負けている感じがした。
もはや自分には、オーディションを受ける資格すら与えられていないのだろうか。
就活中の大学生が感じるそれに近い、「自分という存在そのものを否定されている感覚」が僕のなかに確かに芽生えてきた。
和太鼓部だったあの頃のように、自信満々ではいられなくなってしまった。
心の光が闇に閉ざされて行くのが分かる。
ヒーローになりたい!なんていうおこがましい夢を持ったあの頃の自分はなんだったんだ。
このまま僕は何者にもなれず、誰からも必要とされずに生きていくことになるのだろうか。
徐々にネガティブな感情が心の中を支配し、僕はだんだん周りが見えなくなっていった。
これ以上、傷つきたくない。
夢を諦めたくなる気持ちは、痛いほど分かった。
分かり過ぎるほど、分かっているつもりだ。
ここまで読んで下さった読者の皆様には申し訳ないが、僕は未だにこの問いかけに対する明確な答えを持っていないし、あと何年掛かって解けるのかという見通しも立たない。
故に、この文章を通じてなにか皆さんの生活やビジネスに役立つアイデアをお届けできる訳でもない。
これは、僕が「横浜」と言うキーワードを通じて連想する感情を並べただけの、全然まとまりのない“ただの日記”に過ぎない。
お察しの通り、僕は迷走してばかりの人間だ。
いまの僕はあの頃、夢みていた自分ではない。
ただ、そんな僕にも心に決めていることがあり、皆さんに送りたいメッセージがある。
“諦めるな”
僕はなにがあっても諦めない。
生きてるから。現実がどれだけ理想からかけ離れていても、この命は続く。
僕らは、生きていかなければならない。
世の中には、生きたくても生きられない人がいる。高1の頃のクラスメイトで「骨肉種」という難病を患っていて二学期以降、教室に帰ってくることは無かったシュンヤのように。
生きたくても生きられなかった人の思いも背負っていく。僕なりに。命(生きてる時間)を無駄にしないことで。
だから、諦めない。
いつか僕も、彼らのような“ヒーロー”になる。
それだけが、希望だ。
メモリアルパークから見えるみなとみらいの景観越しに頭の中では8人のウルトラマンが並び立つあの映画のワンシーンを思い浮かべながら、僕は自分にそう言い聞かせた。
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