私の面白履歴書⑤

ドローセルマイアーの人形劇場

斉藤洋さんは、実に幅広い人に向けたジャンルの本を書き、幼児から高齢者に至るまで、多くのファンを持つ児童書の書き手の1人です。
私が小学生の頃、熱狂的に支持した山中恒先生の児童読み物とは、また一味違った作風ですが、読みやすく、独自のユーモアのセンスがあるところは共通しています。

本書のあとがきにも書かれていますが、この作品は、著者のデビュー作「ルドルフとイッパイアッテナ」よりも着想は古く、主人公は大人ですが、平易な文体ながら、こどもから大人まで読んでも面白い物語になっています。

表紙やあらすじを見ると、同じ著者による「南博士はナンダンネン」とか、「ペンギンハウスのメリークリスマス」よりもシリアスで少女向け?な印象を受けますが、決してそういうことはなく、確かに静謐で真面目な部分はあるものの、斉藤さんらしいユーモアや意外な展開は随所に見られています。

今回、久しぶりに図書館で借りてきたのですが、仕事から帰宅後に147ページをほぼ一気に読み終えることができました。

テンポのよいストーリーで、細かく考察するのは今回は控えますが、ゼルペンティーナという人形の頭に、生えている猫の耳の真相が明かされるちょっとシュールな場面では、「それじゃ、ミースミースは、耳なしでいるのか。」と言ったエルンストが、自分で言ってから問題はそういうことではないと気づく描写などに、いわゆるインタレストだけではない可笑しみもところどころ入っていて、テーマはあるのにお説教くさくはなく、不思議な話なのにほのぼのもするという、著者の持ち味は存分に発揮された、慎ましい名作だと思います。

本作と同じイェーデシュタットを舞台にした「アルフレートの時計台」「オイレ夫人の深夜画廊」もそれぞれ作品は1作ごとに完結していますが、個人的には、ファンタジーとしてはこれ(著者曰くイェーデシュタット三部作)くらいのバランスが入りやすいと感じます。

作中に登場するグリム童話や、ホフマンの作品にも興味が湧いてきます。

三谷幸喜さんの喜劇、星新一さんのショートショートが苦手ではない方にオススメします。

イエス様は、多くのたとえ話を用いて、神の国について語られていることが聖書に記されていますが、私も童話や小説を書く中で、斉藤洋さんの「ドローセルマイアーの人形劇場」的な描き方で、物語を書くことが1つの理想かもしれません。分かりませんが。

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