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トタン屋根のネコ
夏の雨が好きです。
台風のような大雨ではなくて静かに降る細い雨が好きです。
通り沿いの古い家の軒下をお借りして雨宿りすることが好きです。雨が小降りになり、雲の隙間から薄日が差しこんでくるとなぜか少し悲しい気持ちになります。
でも、その軒下から出てまた歩き出すと少し元気が戻ります。
ぼくがまだ小さいころ家の台所兼風呂場の屋根はトタン板でした。雨の音をあらわす時、静かな雨はしとしとと、割と少なめの細い雨だとサーサーと、大雨になるとザーザーと表します。それはまさしくトタンが奏でる音です。
波型のトタン屋根から流れる雨のしずくは 糸のような雨に生まれ変わります。雨が止んだ後もしばらくの間 その糸は尾を引きます。 雨のカーテンのようにもなります。
それにしてもなぜ波型なんでしょうか。
建築美 ?
トタン板の切り口はとても鋭利でまるで包丁やナイフのようです。子供のころ、 庭先にトタンの切れ端がひもで縛って置かれていました。絶対触るなと言われていました。
当時住んでた家の近くに水産加工会社がありました。そこには古い倉庫がありました。
その倉庫は屋根も壁もトタンで囲われていました。
その倉庫の中には朽ちた古い木箱がたくさん積まれています。
そこには猫の家族が住んでいました。トタンに囲まれた猫の家は雨が降るといつも賑やかになります。
トタン板の切り口はとても鋭利でまるで包丁やナイフのようです。
トタンにあいている釘穴から太陽の光が暗闇を引き裂くように倉庫の中を突き刺さします。
猫の横顔を照らします。猫の網膜がその光に反射して金色に光ります。
だからぼくは、 その倉庫では雨宿りはできないんです。
想い出の切っ先が、時々ぼくにキラリと刃を向けることがあります。
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