033_20230727_Happy!
前置き
いつも「この本はおすすめですよ!」をやってきましたが、
今回、初めて「読んでみたけれど合わなかったわ」のレビューをすることにします。
合わなかった、だけであって「作品がダメだ」の批判ではない、ということ、ご理解ください。
基本情報
浦沢直樹先生執筆の、テニスを題材としたスポーツマンガ、あるいは大人の社会を描いた群像劇マンガ
小学館「ビッグコミックスピリッツ」において1993年から1999年まで連載
全254話、全23巻で完結済み
累計発行部数は1800万部を記録
2006年4月7日にTBS系列でスペシャルドラマとして、続編が2006年12月26日に「Happy!2」が放送
題名は主人公「海野幸」(とかいてみゆき)から取られている
大まかな紹介
現在、女子高生の海野幸は、亡くなった両親に代わり、3人の弟妹の面倒を見ているけなげ女の子。
貧しいながらも楽しく暮らす、その家に突然、兄が帰ってきた。
いつも、うまい儲け話に載せられては騙されている兄。
今度は、松茸とトリュフの養殖をやると言っており、やたら景気がいい。
その兄がいなくなって2か月後、借金取りの桜田が現われる。
その桜田から幸は、兄が借金を抱え、逃げ回っていると告げられる。
兄の身を案ずる幸は、自分が返すと言い出す。
しかし、その借金は2億5千万円という莫大なものだったのだ・・・
借金取りに追い回される途中、みゆきは新聞に「2億5千万円」という文字を見つける。
それは「年間2億5千万獲得、女子テニス賞金ランキング一位、サブリナ・ニコリッチ来日」というもの。
これだ!とテニスラケットを持って電車で出かける。
海野幸は、高校に退学届を提出しプロテニスプレイヤーとなることを決意する。
なんだかんだあって、名門鳳テニスクラブに飛び込み、国体優勝候補かく きくこと戦うことになる。
素人と目されていたみゆきだが、きくこに圧勝してしまう。
海野幸は三年前全日本ジュニアの優勝し失踪した過去があったのである。
その場面に出くわした、日本プロテニス界の有力者、鳳財閥会長の鳳唄子。
彼女からテニス界からの永久追放を通告されてしまう。
どうやら、海野幸の父親、故人であった海野 洋平太となにかしら因縁があるらしい。
唄子のかつてのライバル・竜ヶ崎花江の娘である竜ヶ崎蝶子がテニス界のヒロインとして注目されたため、
それに対抗する形で幸がテニスプレイヤーとなる。
こうして、幸はプロテニスで、兄の借金を完済することを目指す…のだが
感想
浦沢作品の読書量は、ある程度
YAWARA!、Masterキートン、20世紀少年、BILLY BUT は読んだ
MONSTER、PLUTO、パイナップルARMYは読んでない
ものすごーく観も蓋もない表現で一言で言えば「ストーリーを悲劇に、スポーツをテニスにしたYAWARA」である
「幸せ指数」的な条件が「0かプラス」からでなく「超絶マイナス」から始まる
兄貴がクズ、兄貴が2億ご千万の借金、両親がすでに死亡、貧乏アパート暮らし、基本収入がなく貧乏、弟たちを親代わりに養ってる、などなど
YAWARAは「0かプラス」からだったことから考えると、まーったく、水面上に出ることなく、ずーっと不幸
ライバルの「お嬢」キャラが、超絶卑怯なのだが、なーんのお咎めもリスクも痛い目に合わず、得し続ける物語
ある人の評論では「作者に愛されすぎ」「作者甘やかしすぎ」って表現されてた
根性腐ってるのに、作中それを気づいてるのが「主人公サイドの数人」だけという絶望感
その構図が「日本全体」となっていて「どうやっても主人公は評価されない」というのが「基本の舞台装置」になっている
おまけに「対して修行もしてない」描写なのに「(一部のレジェンド以外には)ずっと作中負けなしのまま」
悪いことをした人間が、だれも咎められない
先のお嬢様も、両親を殺し主人公に借金を背負わした兄貴も、ぜんぜんばちが当たらない
勧善懲悪を期待してた人には、おそらく爽快感が足りない
カタルシスがなく、絶えず不幸
少年漫画でなくとも、ドラスティックな展開のあとには「何らかの安心要素」「幕間」というものは在ることが多い
例えがば「強敵を倒した後」や「課題をクリアした後」には、仲間が増えたり、拠点を手に入れて修行や一時の安堵があったり
そういう「好転要素」が一切無く、「より酷い状態」になり「新たに厳しい課題が課せられる」の繰り返し
細かくは、主に「難題が増える」形で話の変化はあるが、基本的に「心地よい形でのカタルシス」はほぼない
難題は多重的に増えていく一方である
おそらく、自分のマンガの読み方として「そういうカタルシスや救いを求めてしまっている」らしく、しんどかった
多分俺は、NHKドラマの金字塔「おしん」を今は鑑賞出来ないと思う
「テーマの選び方」に関しては、リアリティというか「現実的に難関である」ということが観てる人にもわかりやすくて良かったと思う
テニスはその当時も、現在も「日本人が制覇するのは夢」の世界
当時で世界8位、今でも世界4位が最高でしたっけ
現実に即したストーリー組み立てでは、難関過ぎて解決できない話
2億5千万というのも「何か間違いや人生を書けた博打」でも行わない限り、手に入れられないお金
仮にテニスの世界で世界一位となっても、解決する話ではない
後々わかってくるが「借金返すまで、後X万円!」みたいな、宇宙戦艦ヤマトみたいなカウントダウン式のストーリーでもない
ただ…それだけの「難題」を用意してしまったので、解決してもしなくても「うーん」という読後感になる
解決しちゃうと「リアリティがない」「なんだYAWARA的な話か」で終わる
解決できないと「ハッピーエンドじゃないんかい」「ただしんどかった話なだけかい」と
今回「あまりテニスの技術的なとこに踏み込んでない」のは、良かったかも
柔道家としてはYAWARAですら「あんまり柔道の技術的な話してない」のだけど
そのYAWARAよりも「テニスを知らなくて良い」というストーリー展開である
出てきたとして、ライジングショットの理屈くらい
知らなくても全然楽しめる
BECKばりに歌わないマンガ
悪役を安易に「実は良い人でしたー」にしてないのも良かった
最期、ずっと嫌がらせし続けてた「女性会長」が「実は良い人だったのでは?」になりかけるが、「ま、そう見ればそうとしてもおかしないね」程度で悪役貫いたのは「それでいい」と思いました
総評
YAWARAを観て「性善説すぎる」「幸せになるのが既定路線すぎる」と不満だった人は読んでみてほしい
逆に「幸せな人々に囲まれて幸せな物語を読みたい」って人は、避けたほうが良いかもしれない
人生の「うまく行かなさ」みたいなものを共感したい…というならおすすめになる、かも?
最後までお読みくださり、ありがとうございます!
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