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寂しさが中央分離帯にぶつかるとき

京都、夏の朝。暑さの盛りでも、時折やさしく涼しい。

この都市の中心は昔から洛中と決まっているらしく、その洛中とは上京区・中京区・下京区の3つのエリアを指すらしい。ちなみに読み方はそれぞれ「XXXギョウク」。なので、京都大学(吉田)や銀閣寺、そしてラーメンの聖地である一乗寺がある左京区は洛外にあたる。

洛中の鰻屋の女将さんが、「洛外からの京大生には優しくするで、だって4年で出て行ってくれはるから」といけずなことを言っていた。また京都の人は、美人ではない人には「綺麗にしてはる」と言うらしい。いと雅どす。

左京区の東寄りの南北の道(白川通)には芸術大学やアンティーク家具を売るお店並んでいる。この通りを北に行くと左手にドライブスルーのある2階建てのマクドナルドがある。僕は時間のある朝、といってもたいがい暇なので毎週末、このマクドナルドに来て、仕事とは関係のない本を読んでいる、朝5時から。

ソーセージエッグマフィンを食べるとお腹が痛くなる。でも好き。その日はあまり余裕がなかったから、早めに切り上げて自転車に乗って自宅に帰ることにした。朝6:15。ごみ収集車を追い越したあとに右後方から、ゴリッと固いもの同士がぶつかった音がした。

おばはんが中央分離帯に突っ込んでいた。

振り返ると、まっすぐの白川通、白の原付、そして崩れたおばはんがいた。乗っていた自転車を放り投げると、先ほどすれ違ったごみ収集者のおっさんもごみ収集車を道端に停めて、2人で彼女のもとに駆け寄った。

おっさん:お姉ちゃん、大丈夫か!!

呼び方は年齢や関係性によって異なる。

おばはん:すい、すいません。ちょっとぶつかってしまいました

おっさん:血出てるで、脚

ぼく:おっさん、あかんは。このおばはん、ばり酒臭い

おっさん:え!!ほんまや、(よーみたら、)おばはん、あかんで!!

そうして、男2人がかりでおばはんに説教した。洛外の早朝。よく見たら綺麗にしてはる50代のおばはんは、もう涙が枯れたと言わんばかりに、

おばはん:家に帰っても誰もいないんです。

と言った。せや、僕もやなと思った、きっとごみ収集者のおじさんも。

そのあと、おっさんと僕はおばはんを途中まで送ってあげて、取り上げた原付のカギを返してあげた。「ほんまにすいません」と言っておばはんは白川通を当初進んでいた方向とは逆向きに進んでいった。おっさんも何事もなかったように、牛丼屋の前のごみを収集して北に向かった。

もうすぐお盆、京都では大文字焼がある。ふと東山を見上げると、どうして僕の自転車は白川通の中央分離帯にぶつからないのだろうと思った。おばはんにも、おっさんにも、ぼくにもこれからいいことがあればいいと思った。

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