単線型キャリアか複線型キャリアか

I. はじめに


先日尊敬する会計士の大先輩のてりたまさんのXでの以下の投稿がバズっていた。

「監査法人を辞めたタイミング」と「その意思決定の根拠」の2点を募ったXの投稿。進路に悩む若手の会計士に向けてのものだ。

皆自身の過去を振り返り、思い思いの経験を書き込んだ。

インプレッションが伸びたというバズという現象以上に実体験が書かれたことから、多くの若い会計士にとって非常に有益なスレッドになったようだ。

まぁ、僕が全く同じことをやっても全然書き込みされることはなく、ここまでバズったのは人格者であるてりたまさんだったからというのは言うまでもない。「何を言うかではなく、誰が言うかに意味がある」という典型事例だ。

僕も以下のようにリプした。

僕の判断の根拠は端的に言うと、

「単線型キャリアを歩むのではなく、複線型のキャリアを歩むことを選択した」というものだ。

僕自身過去から強く意識していたことで、監査法人のリクルートを手伝った時にも折に触れてはこれから会計士のキャリアを歩もうとする若い方に伝えてきた自身の思想にも近い考えだ。

別にこの考え方は会計士のキャリアに限定されるものではなく、広くビジネスパーソンにとって自身のキャリアを考える際に有用だと思い、僕自身も一旦しっかり言語化したくなり考えをまとめることにした。

II. 単線型キャリアと複線型キャリア

まずは単線型、複線型それぞれの説明から。
単線型とは1つのことに集中すること。
複線型とは複数に分散させること。

キャリアに手繰り寄せて言うと、単線型とは1つの職場、1つの分野、1つの業務に特化し、その中でのパフォーマンスを上げていくことを指す。

複線型とは、複数の職場、複数の分野、複数の業務と多岐に渡る仕事をすることを指す。

良い悪いの議論ではなく、時間の使い方の違いの議論だ。
集中か分散化の違いだ。

僕は後者の複線型を選んだわけだが、、、この選択について少し説明してみたい。

III. 限界効用逓減の法則

僕が最も意識したのはこの法則だ。
例を出すと分かりやすいだろう。

焼肉を食べる時の1枚目に食べるお肉と、最後の1枚の味は1枚目のお肉の方が最後の1枚のお肉よりもおいしく感じるというものだ。

もう1つ例を出そう。

彼氏/彼女ができた時の初めてのデートと、2回目のデート、3回目のデート、4回目のデート、5回目のデート、、、、

回を重ねるごとに徐々にドキドキが減っていく感じ。

これが限界効用逓減の法則だ。

つまり、限界効用逓減の法則とはある種の慣れにより刺激の総量が徐々に減っていく法則を指す経済学用語である。

これがキャリア形成にも大きく当てはまると考えた。
(論理的に飛躍はあるが、受ける刺激の総量が自身の経験に転換されるという前提で以下進める)

つまり、何もわからない社会人1年目は日々が新しいことを吸収し、毎日成長している感覚があった。これが2年目になれば、日々の業務の中で既にやったこと、知っていることも増え、新しいことに遭遇する機会が自ずと減少する。3年目、4年目、5年目と時の経過に伴い更にこの傾向に拍車がかかる。

図に示すとこんな感じだろうか。

一方で、3年おきに仕事の環境を変えることを選択した場合どうなるだろうか?

以下のようになる。

1年目~3年目にかけて経験の総量は逓減していくが、4年目に環境を変える選択をした場合、一旦リセットされて4年目は1年目と同様に新たな環境で新たなことを日々吸収できる。

これを10年という単位で比べた場合の経験の総量を比較すると、以下のようになる。

この経験の差こそが僕が監査業務から離れるという決断した根拠になる。

「監査を続けても、クライアントが変わる、部門が変わる、業務が変わることにより様々な経験ができるよ!」と当時の上司にアドバイスいただいた記憶がある。
しかし、監査というフレームと、今働いている監査法人という前提の外側に出ないと僕が描く複線型のキャリアを歩めないと強く思った。(結果、出向という道を選び、最終的には監査法人に15年ほど在籍していたことにはなるが)

IV. 複線型キャリア

僕はこうして複線型キャリアを選択したわけだが、複線型キャリアを歩む中で藤原和博さんという教育実践家の考え方を参考にさせていただいた。

彼の考え方はこうだ。
「業界で1/100のキャラになる。そして新たな環境にチャレンジする。そこで1/100のキャラになる。さらに新たな環境にチャレンジする。さらにそこで1/100のキャラになる。それを3つ組み合わせることで1/100万(1/100×1/100×1/100)のレアな存在になれる」

1つの領域で1/100万になるのは非常に難しいが、1/100であれば、努力次第で叶えられる。これが誰でも自分の希少価値を上げることができる方法だ。

というのが彼の主張だ。

理屈は確かに分かる。ただ、この公式がワークするにはいくつか前提条件があるのではないか?と考えた。僕が考えた前提条件は以下の2つ。

  • 経験が相互に掛け合わせることができるものか?

  • そもそも掛け合わせた経験で築くキャリアに希少性はあるか?

最初の問いに関して、例えば会計と掛け合わせることができるキャリア(分野、特技、領域)では、ファイナンス、英語、MA、税務など会計領域と隣接する領域が挙げられる。これらは確かに会計と掛け合わせるスキルとしてイメージがわくと思う。

一方で、次の問いが引っ掛かる。希少性だ。
大半の人は隣接領域に染み出す。つまり、会計×ファイナンス、会計×英語、会計×MA、会計×税務といった二刀流を志す人の頭数は圧倒的に多い。

それでは1/100万の稀有なキャリアを形成することは難しいと考えた。

事実藤原和博さんも「次の一歩は今までに築いたキャリアからなるべく遠いところを狙おう!」と提案している。

挑戦している感が出ることで他者からのサポートを受けやすいことと、シンプルに希少価値が高いからだ。


V. 単線型キャリアと複線型キャリアのメリデメ

最後に双方のメリデメをまとめておく。もちろん挙げだすとキリはないが、もっとも普遍的なものだけ

単線型キャリアのメリット

1つの環境で仕事をするため、働き方がその環境に最適化される。従って、業務が効率的になり、熟練度も上がる。

単線型キャリアのデメリット

特定の職場、領域に張っているため、キャリアのポートフォリオが組めていないとも言い換えることができる。従って、時代の変化に伴いその職場、領域が時代遅れになった際に、そこに最適化されたスキルは他の職場、領域での転用可能性は低い。

複線型キャリアのメリット

あらゆる経験を得ることができ、ある経験と別の経験を融合できれば掛け算的にキャリアを伸ばすことができる。

複線型キャリアのデメリット

特定領域に関する熟練度が乏しいため、特定の領域に関して一定以上のスキルが必要な仕事を受けることができない。

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