トークンファイナンスか?エクイティファイナンスか?
I. はじめに
web3スタートアップで悩ましい選択がある。
エクイティで資金調達するか
トークンで資金調達するか
この2択は実に難しい選択だ。
そして、比較的早いステージでこの選択を迫られることが多い。
そこで、
なぜこの選択が悩ましいのか?そして、エクイティ、トークンそれぞれを選択した際のメリデメ、そして、最後に今時点で考える僕の解をまとめてみる。
誰か1人でも参考になれば幸いです。
II. エクイティ vs トークンの選択が悩ましい理由
なぜ、エクイティとトークンの選択が難しいのか?
端的に言うと、トークンとエクイティは水と油。「混ぜるな危険」と言われるほど相性が悪いからだ。
つまり、相性が悪いためエクイティで資金調達するとトークンでの資金調達が難しくなり、一方で、トークンで資金調達するとエクイティでの資金調達が難しくなる。
2つの異なる資金調達手段を1つの株式会社という箱で行うことはできない。
なぜか?
もう少し詳細に見ていこう。
a. エクイティの場合(トークン発行がマイナスにはたらくケース)
エクイティ調達はM&AかIPOのイグジットを前提としている。投資をしてくれた株主に売却の機会を提供する義務を負っているからだ。
このエクイティのイグジットイベントにトークンを発行していることは大きな足枷になる。
M&Aの場合、トークン発行によるリスクをM&Aの買い手は負担することになるが、買い手はこのリスクアセスメントが難しい。
IPOの場合、トークン発行によるリスクを上場後の不特定多数の投資家が負担することになるが、上場審査に当たって、主幹事証券や東証上場審査部この説明を行った上で、上場承認を得ることが難しい。
b. トークンの場合(株主がいることがマイナスにはたらくケース)
トークン調達は取引所へのトークン上場(CEX or DEX)を前提としている。この点はエクイティと同様にトークンに投資をしてくれた投資家に売却の機会を提供する義務を負っている。
トークンを上場するに当たり、もしくは上場した後に、プロダクトの開発者かつサービス提供者としての株式会社及びその会社の所有者である株主が邪魔になる。
なぜなら、ブロックチェーン上にデプロイされたトークンを軸に設計されたプロダクト・サービスの保有者は株式会社やその保有者である株主ではなく(思想的には)トークンホルダーだからだ。
自律分散を標榜するweb3のサービスを中央集権的な株主が所有することは思想的に相容れないことに起因する。
以上、エクイティとトークンそれぞれの立場からを取りまとめたが、それでも資金調達を行う必要があり、いずれかを選択しなければならない場合、どのように考えればよいか?
以下で僕なりの考え方をまとめてみる。
III. エクイティファイナンスがいい場合
以下のような事業はエクイティによる資金調達と相性が良い。
事業の中心にプロダクトやIPがある場合
プロダクトやIP単独(もしくはIPを絡めたプロダクトで)で事業が成立する見込みがある場合
顧客から法定通貨で対価を受領している場合
共通点としては「顧客」のペルソナが定義できて、顧客にプロダクトを販売することで売上を計上することができるパターンのビジネスの場合、エクイティファイナンスと相性がよい。
その場合トークンはどうするか??
PMF後のグロースフェーズにおいてトークンを絡めてプロダクトのアップセル・クロスセルを目指す際に用いることができる。
後からトークンを発行する場合はどうするのか?という問いについては以下を参照いただきたい。
https://www.notion.so/cc03fbd90a6542c89c3a5a787b958cd0
IV. トークンファイナンスがいい場合
以下のような事業はトークンによる資金調達と相性が良い。
事業が経済圏やエコシステムを作ることを目指す場合
ユーザーやコアな顧客(ファン)を巻き込むことで事業が成長する見立てがある場合
特定のクラスタにユーザーが偏在しており、ユーザーがコミュニティ化している場合
共通点としては「顧客」のペルソナが定義できず、顧客にプロダクトを直接販売するような売上を計上できないものの、一方で、
特定のクラスタでは広くサービスが利用されており、トークンを利用することでサービスの拡大が見込めるパターンのビジネスモデルの場合、トークンファイナンスと相性がよい。
このように顧客が明確に定義できず、ゆるくコミュニティへの参加者がステークホルダーとなる場合、ステークホルダーに付与するオーナーシップはトークンが良い。
そして、このようなサービスを作るための資金をエクイティにより投資家から集めるのは筋が悪い。
株とトークンの2系統のオーパーシップ構造が成立すると前述の通り「まぜるな危険」状態になるからだ。
1つの経済圏・エコシステムを盛り上げる同じ船に乗った仲間として株主、ユーザーに対して付与するインセンティブはトークンに一本化し、同じ利害関係を持つ者とした方がよい。
V. 僕なりの見解
エクイティとトークンについてファイナンスの判断軸をそれぞれ示したが、
web3スタートアップのファイナンスに関する僕の解は「できるだけ資金調達せずにランウェイが持つ限りは自己資金で事業を回す。競合が現れ札束の殴り合いにならない限り。」だ。
理由はシンプルで、トークンに関する各国の規制や、上場会社の活用事例の増加によるイグジット環境の変化など、コントロール不能な外部環境に影響を受ける要素が大きいからだ。
よって、できるだけ見極め期間を確保するために「ファイナンスは可能な限り後ろ倒しする」というのが僕の意見だ。