NFTが資本コスト(WACC)を下げる

I. はじめに

2021年-2022年に盛り上がったNFT市場が徐々に下降の一途をたどり、2024年7月現在マクロ的に見ると厳しい状況に陥っている(定量的分析はここでは割愛)。

「時代を変える画期的なテクノロジー」と言われたが、2-3年経って答え合わせをしてみると、「あれは一次のブームだった」と評価せざるを得ない。

では、、

  • NFTという技術に価値はないのか?

  • ビジネスで活用することはできないのか?

と問われると、「可能性は無限にある」というのが僕の見立てだ。

具体的には、NFTを資金調達「的」に活用することで、コーポレートファイナンスの在り方が変わるという仮説を持っている。
もっというと、デットとエクイティという資金調達手段にNFTが加わることで資本コストが下がるという仮説を持っている。

以下で一般的なコーポレートファイナンスとNFTが加わったことによるコーポレートファイナンスを比較し、どのように資本コストが下がるか見ていこう。

II. 仮説の背景

結論から示しておくと、コーポレートファイナンス上のBSの右側(貸方)はデットとエクイティの2区分から、NFT、デット、エクイティの3区分に分類されることになる。

そして、NFTを資金調達「的」に活用をする場合、NFT購入者はフィナンシャルリターンを要求しない。これにより「資本コストが下がる」というのが僕の見立てだ。

少し丁寧に見ていこう。

III. 一般のファイナンス理論

一般的なコーポレートファイナンスを軽くおさらいしよう。

  1. 企業は銀行から借りたお金と株主から預かったお金を事業に投下し、事業収益を稼得する。

  2. 企業に対する投資リターンとして、銀行は利息を要求し、株主は利益(キャピタルゲイン及び配当)を要求する。

  3. 企業は獲得した事業利益からまず銀行に対する利息を支払い、残った分が株主の利益となる。

  4. 株主の利益として残った分が少ないと判断されたら投資家は株を売却し投資を精算する。一方で、多いと判断する投資家が多ければ株を買いたいという投資家が増え、株価は上がる。

つまり、会社は投資家に還元する利益と同額以上の利益を事業から獲得しないと銀行と株主にリターンをお返しできないことになる。この銀行と株主に還元する利息と利益を資本コストと呼ぶ。

本稿ではNFTを活用することでこの資本コストが下がることを説明するので、「下がる」ことを確認するために数値を使って説明したい。

銀行と株主それぞれ50ずつ、合計100の投資を受け、銀行が2%の利息を、株主が10%の利益率を期待する場合を想定する。このケースではBSは以下の通りとなる。

これを前提にNFTを加えたモデルを見ていくこととする。

IV. NFTを加味したファイナンス理論

ここにNFTを資金調達「的」に活用したケースを加味していく。それに当たり整理しておくべき前提として3つ。

  1. NFTとはファイナンスに該当するのか?

  2. そもそもNFT購入者は投資家と言えるのか?

  3. NFT購入者、つまり、NFTを対価に企業にお金を支払った人は企業に対してファイナンシャルリターンを請求するか?

1の問に対する答えがYESであれば、2及び3の問に対する答えも自動的に導き出せる。
つまり、NFTがファイナンスに該当すれば、NFT購入者は投資家だし、投資家である以上、金銭的なリターンを請求する。

では、1の問に対する答えがNOであればどうなるだろう?
ファイナンスではないため、NFT購入者は投資家ではなくなる。投資家ではないため、金銭的なリターンを請求しないということになる。

僕の答えは以下の通り。

  1. NFTはファイナンスのようで、ファイナンスではない。

  2. NFT購入者は投資家であり、かつ顧客である。

  3. 従って、NFT購入者は金銭的なリターンは要求しないが、顧客として最高の体験を要求する。

NFTを活用して資金調達した会社のBSは以下の通りデットとエクイティにNFTが加わり、BS右側が2段構成から3段構成に変わる。

ここで、数値例を見てみよう。
銀行と株主とNFT保有者がそれぞれ33.3ずつ、合計100の投資を受け、銀行が2%の利息を、株主が10%の利益率を期待した場合、想定されるBSは以下の通り。なお、前述の通りNFT保有者は体験価値を期待するもののファイナンシャルリターンを要求しない。

一般的なコーポレートファイナンスのBSと比較すると、銀行と株主の期待する利益率は同一で、BS右側の構成比だけを変えた。この結果、求められる銀行への利息及び株主への利益率が下がった(資本コストが下がった)。つまり、アセットの事業収益率が4%と一般的なコーポレートファイナンスに比して2%下がった。これが、NFTを用いることによる資本コスト(WACC)の低下分である。
以上が、NFTを資金調達「的」に用いることで資本コスト(WACC)を下げることができることの解説だ。本稿の内容は以上だが、少し以下に追加的な内容を。

V. 前払式支払手段による供託金

体験価値をNFTで販売した場合、先に代金を受領し、後日体験価値を提供することになるため、このNFTの販売が資金決済法上の前払式支払手段に該当することがある。

前払式支払手段とは先にお金をもらって、あとからサービスを提供する前に運営元が倒産してサービスを受けれなかったというリスクを防ぐために、(少し乱暴だが)半額を供託金に積むことを求める制度である。

つまり、NFTでの調達額の半額の資金が事業に利用できず拘束されてしまう。

先ほどの事例にNFTで調達した金額を便宜上50%を供託金に積み、残り50%を事業投資に活用した前提で資本コストを求めると以下の通り4.8%となる。

これはNFTを用いない最初の事例の資本コスト6%よりは低くなるものの、供託金で資金の一部を拘束されるため、前払式支払手段ではない前提である一つ前の事例の資本コスト4%よりは高くなる。

VI. NFTとは資金調達ではなくただの前受金となることも

ここで改めてNFTについて考えてみたい。

借入証書をNFT化するとそのNFTはただの借入だし、株式をNFT化するとそのNFTはただの株式だ。

本稿で意図しているNFTとは銀行や株主とは異なる属性のプレイヤーから資金調達「的」なものとして活用することを想定としている。

他方で、本稿では「NFT購入者は投資家であり、かつ顧客でもある」と定義した。
「NFT購入者は顧客である」ということはNFTを用いた取引とは資金調達ではなく、売上取引といえる。
事実、NFT購入者に「後日」エモい体験を提供することをコミットしている。

つまり、ただの売上取引であるが、NFTを活用することでサービス提供前に代金を受領できる前受金取引のようなものなのだ。

このように考えると、コーポレートファイナンス上のBS右側からNFTがなくなり、同額のキャッシュがアセットからも相殺されコーポレートファイナンス上のBSがスリムになる。

しかしながら、通常のBSになっただけであり、資本コスト(WACC)は元のままになる。つまり、資本コストの低下効果は見込まれないということにもなる点は残念ながら否めない。

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