カブアンドピース社の何が斬新なのか?

「1億総株主化計画」を打ち出したカブアンドピース社(前澤さん)の取組が本当に面白い。

前澤さんのSNSやyoutubeを見ても本気度が窺えるし、テレビCMも始まりいよいよ走り出した感じだ。

「何がどう斬新なのか??」僕なりに少し整理できたのでまとめてみた。
まずは前提として、「一般的な株式会社の型」を説明することから始めたい。

一般的な株式会社の型

株式会社にはトヨタやソニーのように世界中でビジネスして、株主が数万人を超えるような大企業から、地元の商店街にある電気屋や町工場のような中小企業まで、また、ベンチャーキャピタルから資金調達を行い急成長を目指すスタートアップのような会社までも含まれ、十把一絡げに株式会社と言っても様々だ。

ここで株式会社を株主の数(多い/少ない)という軸と、組織の閉鎖性(オープン/クローズ)という軸に切り分けて考えてみたい。

僕たちは証券会社に口座を作れば、トヨタやソニーの株を買うことがき、その瞬間にトヨタやソニーの株主になれる。

つまり、株主として配当を受け取ることができ、株主総会に出席し議場で質問したり、議決権を行使することができる。

トヨタやソニーはあなたが株主になることを拒むことはできない。

上場会社ならば会社は株主を選ぶことができない。誰でも自由に株主になれる。良くも悪くもオープンである。

一方で、地元の商店街にある電気屋や町工場やもしくは未上場スタートアップのような会社の株式はそもそも市場で流通していないから取得する機会がない。

また、株式を持っている人がいて譲ってくれると言ってくれたとしても、株式に譲渡制限条項が付されているため取得に当たっては株主総会や取締役会の承認が必要となる。

「気が付いたら素性も知らない人が株主として入ってきてて会社を乗っ取られた」みたいな状況になるのを防ぐため、会社の閉鎖性を維持したいからだ。

家族や親族などの人的関係を軸にした株式会社組織や、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家といったごく少数の投資家から投資を受けた株主の顔が見える組織に適した株主構成を守るためだ。

以上、同じ株式会社と言えども「未上場会社」と「上場会社」ではその性質が全く異なる。そして、これらは会社法で定められた株式に制限を付すことでこの設計が可能となる。

カブアンドピースの挑戦

前置きが長くなったが、カブアンドピースを見てみよう。

同社は電気、ガス、モバイル、インターネット回線、ウォーターサーバー、ふるさと納税といったサービスを提供し、これらのサービスのユーザーに自社の株式を配ることで国民総株主化を実現しようという取り組みだ。

前澤さんの知名度とこれら生活に密着したサービスを提供することで利用者が5-10人に収まることは想定されない。多くの方がユーザーになり、そして株主になることを想定している。

また、この株式は譲渡制限条項が付されているため、勝手に他者に株式を売ったり、他者から買ったりすることはできない。

つまり、株主になることができるのはカブアンドピース社のユーザーのみであり、同社により許可された人のみである。

これにより関与する株主の数は圧倒的に増やしつつ、会社の閉鎖性を貫くことができる。これがすごく斬新だ。

何が斬新なのか?(IPOとの比較)

通常、未上場会社が成長して上場を目指す場合、初期のフェーズではクローズドな状況の中で少数の株主からの支援を受けて事業を伸ばしていく。

事業の初期フェーズにおいては事業の成功の不確実性が高く、そのリスクを(プロの投資家以外の)株主に負担させるのが難しいからだ。従って、多くの株主が関与することは通常あり得ない。

事業が一定成長し、成功の確度が高くなるにつれて(=リスクが低くなってくるにつれて)株主の数も増えていき、上場(IPO)により一気に株主が増加し、市場取引により誰でも株主になれるオープンな組織になる。

これが株式会社の成長に当たっての一般的かつ唯一の方法なのだが、これまでのセオリーを逸脱し、最初からプロ投資家以外の多くの株主を巻き込みにかかっている点において斬新的だ。

何が斬新なのか?(web3(IEO)との比較)

2021-2022年にスタートアップ界隈を騒がせたweb3。株式ではなくトークンを発行することで資金調達を行い、トークンの値上がりを期待した投資家がトークンに投資するというスタートアップ投資にも似た構図だ。

事業の構想(妄想?)フェーズもしくは初期フェーズで暗号資産取引所を通じてトークン販売し資金調達を行う。

そしてトークンはそのまま暗号資産取引所に上場。トークンを買った投資家が自由に売買できるようになる。

これはIEO(Initial Public Offering)と呼ばれる資金調達だが、事業が極めてアーリーのフェーズであるにもかかわらず(リスクが高い状況であるにも関わらず)、多数の投資家を巻き込みオープンな市場で資金調達を実施できるスキームだ。

事業が成功する確度が低く有価証券の規制に比してかなり緩いため、取引所に上場後トークンが叩き売られる事例が頻発し、トークン価格(株価のようなもの)は地を這うようなチャートになっている。

IEOやweb3の反省点を生かしたかどうかは定かではないが、多数の株主を初期フェーズから巻き込みながらも、ステークホルダーを繋ぎとめるクローズドな体制を敷いた点が斬新的だ。

おわりに

前澤さんのチャレンジは株式会社という制度をハックした壮大な社会実験である。

資本主義の圧倒的成功者という立場でありながら、資本主義が結果としてもたらす富の偏在に疑問を投げかけ、起業という超資本主義的なアプローチで挑む姿は本当に格好いい。

株式会社制度の中から、株式会社の仕組みをハックしているので、精緻にスキームを練り上げられており、これを調べるだけでも実に知的好奇心をそそられる。

カブアンドピースのスキームや構造など調べたり、考えたりしたことは折に触れてnoteを書いていきたい。

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