ブロックチェーンゲームWizardry(ドリコム社)のスキーム

I. はじめに

2023年10月に東証グロース市場に上場しているドリコム社からリリースされたブロックチェーンwizardry。
これまでweb3界隈では暗号資産(仮想通貨)、NFTを活用したブロックチェーンを上場会社が行うことは難しいと言われ続けてきた。
しかし、社長の内藤氏は「いろんな弁護士さん、公認会計士さん、監査法人にチェックしてもらったこともあってこのスキームだったら大丈夫だろう」と発言しており、複数の専門家のお墨付き得て、この度満を持してローンチにこぎ着けたものと思われる。

同社及び関係者からリリースされている情報を紐解いて、お墨付きを経た「このスキーム」について解説してみたい。
僕は本件に関して一切関与しておらず、プレスリリース等の情報のみを参考に「このスキーム」を推察しているに過ぎない。従って、実際のスキームと異なる点があるかもしれないことを予め断っておく。


II. 結論

「このスキーム」を満たす要素は以下の3つ。

  • NFTを販売する

  • NFT保有者がゲームに費やした時間に応じてトークンを付与する

  • 当該トークンは外部にアウトソースする

以下で詳細を解説していく。まずはブロックチェーンゲームWizardryの概要と登場するプレイヤーとそれぞれの役割を取りまとめる。

III. 概要

全体は以下の通り

  1. ゲームをプレイできるNFT10,000個を1個500USD(約75,000円)で販売する

  2. NFT保有者に対して最大20%のゲームトークン($BCトークン)が割当られる

  3. $BCトークンの発行枚数は1,000,000,000$BC

  4. $BCトークンは上場予定

  5. NFT1個当たりに付与される$BCトークンは19,000$BC

  6. 19,000$BCのうち、14,000$BCについては先行プレイ期間のプレイ時間に応じて獲得可能

  7. 19,000$BCのうち、5,000$BCについてはゲームリリース後から90日間でゲームプレイにより獲得可能

  8. NFT販売時において想定される$BCトークンの時価は@0.025USD、全体で7,250,000USD

以下のプレスリリースを参照。

「Adventurer Genesis Collection」について
『Eternal Crypt - Wizardry BC -』では、ゲームリリースに先行して「Adventurer Genesis Collection」と名付けられた特別な冒険者NFTを販売いたします。INOでのみ手に入れられる「Adventurer Genesis Collection」を購入したユーザーは、ゲームの先行リリース期間にいち早くプレイすることができ、本NFTをパーティに編成し、ダンジョンを探索し「街へ帰還」することにより、ゲームトークンであるBlood Crystal($BCトークン)をトークン発行に先行して一定額獲得することができます。「Adventurer Genesis Collection」には$BCトークンの発行枚数の最大20%が割り当てられ、本NFT保有者はゲームプレイを通じて$BCトークンを獲得することができます。また本NFTを保有しているユーザーのみが参加可能なコミュニティやイベント等の実施を予定しています。

IV. プレイヤーと役割

続いてこのスキームは複数のプレイヤーがそれぞれ役割分担を行っているように思われるが、それぞれの役割を推測すると以下となる。

  1. ドリコム:IPのライセンスアウト

  2. チューリンガム:ゲーム制作、運営

  3. ZEAL NOVA DMCC:ゲームの共同開発

  4. BOBG:$BCトークンの発行

  5. クシム:NFT販売

  6. CoinCheck:NFT代理販売

ドリコム

株式会社ドリコム(本社:東京都品川区、代表取締役社長:内藤裕紀、以下、ドリコム)が保有する「Wizardry(ウィザードリィ)」IPを活用し、チューリンガム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:田原弘貴、以下、チューリンガム)と共同で開発中のブロックチェーンゲーム『Eternal Crypt - Wizardry BC -』、ゲームリリースに先行して販売する特別なNFTコレクション「Adventurer Genesis Collection」の保有者が対象となる先行リリース版開始日が2023年10月19日(木)に決定いたしました。

チューリンガム

チューリンガム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:三瀬修平、以下「チューリンガム」)は、株式会社ドリコム(本社:東京都品川区、代表取締役社長:内藤裕紀、以下「ドリコム」)と、『Wizardry(ウィザードリィ)』 IPを用いたブロックチェーンゲームの制作・運営を行うことを目的とした共同事業契約を締結しましたので、下記の通りお知らせいたします。

ZEAL NOVA DMCC

ZEAL NOVA DMCC(所在地:UAE ドバイ、CEO:Tomoe Mizutani、以下、ZEAL NOVA)がパブリッシングを行い、株式会社ドリコム(本社:東京都品川区、代表取締役社長:内藤裕紀、以下、ドリコム)が保有する「Wizardry(ウィザードリィ)」IPを活用し、チューリンガム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:田原弘貴、以下、チューリンガム)と共同で開発中のブロックチェーンゲーム『Eternal Crypt - Wizardry BC -』は、本日よりNFTコレクションが購入できるWizardry BC INOを開始したことをお知らせいたします。

BOBG

BOBGは、ZEAL NOVA がパブリッシングを行うブロックチェーンゲーム『Eternal Crypt - Wizardry BC -』で協業し、"Blood Crystal($BCトークン)"を発行すると発表した。また、本日、本作品のLitepaperも公開した。BOBG社は本作において、$BCトークンの発行を行う。本作のゲーム制作をドリコム<3793>とチューリンガム、ゲームの配信をZEAL NOVA DMCCが担当する。

クシム

販売概要
販売元:株式会社クシムインサイト(株式会社クシム100%子会社) 発行するNFTの名称:Eternal Crypt - Wizardry BC - Adventurer Genesis Collection Coincheck INOで販売するNFTの数量:100個(最大発行枚数10,000個) 販売予定価格:0.2ETH~0.27ETH(Coincheck INO限定20%割引価格。確定した販売価格は販売開始までにお知らせいたします。) ユーティリティー:「Adventurer Genesis Collection」は『Eternal Crypt - Wizardry BC -』のリリースに先立って販売されるユーティリティNFTです。先行リリース版のプレイが可能になるとともに、ゲームトークンであるBlood Crystal($BCトークン)をトークン発行に先行して獲得することができます。$BCトークンとは、ゲーム内アイテムの購入や強化などに使用することができるゲームトークンです。今後ゲーム内およびゲーム関連での拡張を予定すると共に、本ゲームのメディアミックス展開においても随時ユーティリティを検討していく予定となっています。

CoinCheck

「Coincheck INO」第1号案件であるブロックチェーンゲーム『Eternal Crypt - Wizardry BC -』初のNFTコレクション「Adventurer Genesis Collection」のINOについて、2023年8月30日の12時より、販売期間中に先着順でNFTを購入できる権利であるAL(アローリスト)の申込み受付を開始しました。

V. 考察

a)法的論点

本件はNFTを10,000点発行し、ゲームユーザーからおよそ7.5億円の資金を先んじて集めるいわゆるINO(Initial NFT Offering)を採用している。

トークンを販売して資金を集めるいわゆるIEO(Initial Exchange Offering)と異なり、NFTを販売している点が特徴的だ。

資金決済法では業として暗号資産を販売する行為を禁じている。今回は暗号資産に該当する$BCトークンを販売して資金調達を行うのではなく、NFTを発行して資金調達を行っている。

さらにNFT保有者につき、そのゲーム時間に応じて$BCトークンを付与する設計にしている点が新しい。つまり、暗号資産である$BCトークンを業として販売しておらず、かつ、ゲーム時間に応じて付与していることから、NFTを活用した資金決済法の潜脱と規制当局に指摘されにくいような設計にしている点絶妙であると考えられる。

b)会計上の論点

web3は会計処理が定まっていないという点、クリプトの管理が容易ではない点、ブロックチェーン上の取引を監査するのが難しい点、これらの理由から上場会社がブロックチェーンを活用したweb3のビジネスを行うことが事実上認められてこなかった。

特にトークン(暗号資産)を発行する取引は事実上禁止されていた。

本スキームでは、上場会社であるドリコム、上場会社であるクシム、その子会社であるチューリンガムはトークンを発行することが極めて難しいことになるが、本件では未上場会社でシンガポール法人のBOBG社がその機能を担っている。

ドリコム社はブロックチェーンゲームの1つの重要な要素であるトークン発行については外部のサービサーにアウトソースしていることになりトークン発行を行っていない。

従って、会計処理を行う必要もなければ、トークン発行に起因する監査上の問題は生じていないと言える。

なお、ドリコム社のPLはIPのライセンスアウトによる収益計上というシンプルな仕上がりになることが想定される。
ちなみに、ドリコム社の監査法人はデロイトトーマツである。

VI. 結論(再掲)

冒頭のドリコム社の内藤CEOの発言に戻ると、上場会社がブロックチェーンゲーム(トークンを絡めたサービスを提供する場合も含む)を行う場合、当面の間は以下が最適なスキームになるだろう。

  • NFTを販売する

  • NFT保有者がゲームに費やした時間に応じてトークンを付与する

  • 当該トークンは外部にアウトソースする

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