カッコいい辞典「ち」
本屋さんでアルバイトしてた時の話です。
レジに立っていた時、50代くらいの身なりの整った白髪も無いスーツを着た男性がカゴに文庫本を10冊ほど入れて僕の前に来ました。
僕は10冊全て綺麗にカバーをかけてやるぞと言う気持ちでかごを受け取り1冊ずつバーコードをスキャナーにかざしていきました。
バーコードを読み取りながら何気なく文庫本の表紙を確認していたらどうやら全て時代劇物のようでした。
男性の年代的にも好みなのだろうなと思いながら半分以上スキャナーで読み取っていたら、突然官能小説が一冊目に飛び込んできました。
あっ。
表情はなんとか崩さずに次の本を手に取り表紙が時代劇物であることが確認できて、残り全てをスキャナーで読み取ることが出来ました。
一体何だったんだろう。
全く予想してなかったので、ただ時代劇小説を9冊と官能小説を一冊買っただけなのですが何かもやもやが残りました。
料金が確定したので金額を伝え、すべての文庫本にカバーを付け袋に入れ「ありがとうございました。またお越しください。」と深くお辞儀をして見送る。
文庫本10冊の中に官能小説1冊。
ふと疑問が湧く。
カムフラージュにしては金かけ過ぎじゃないか?
だが少し分かるのだ。
男ならエッチな本を何冊か普通の本の中に紛れさすのはあるあるだ。
だが
文庫本10冊の中にたった1冊を紛れ込ますのはちょっと手が込みすぎてはいないか。
逆に印象的になってるし。
そして何より気になるのが
9冊読む中でいつ官能小説に手を出すのだろう。
いわば味変なのだから6冊目辺りだろうか。
だがそうすると6冊が頭に入ってこないのではないか。
このあと官能小説が控えてるとなると武士も悪代官もどうでもよくなる。
と言うことは最初に読むのか。
スッキリして残り9冊を味わうのか。
そうなるともう1冊欲しくならないか?
最後に一発読みたくなるはずだ。
あの男性は一体どこであの1冊を消化するのか。その術を知っているのだ。
もしかしたら僕はすごい超人を相手にレジをこなしたのではなかろうか。
「超人」はカッコいい。
カッコいい辞典「ち」は「超人」だ。
まさか人知を超えた者と本屋さんのレジで対峙するとは。
本屋さんは侮れない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
また逢う日まで。