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海から来た豆腐
小さい頃、大阪のベッドタウンに住んでいた私にとって、豆腐といえば豆腐屋さんが移動販売しているのを買うものだった。夕方位に豆腐屋さんが車で近所にやってきて、ご近所の主婦がぞろぞろと家から出てきて豆腐を買う。
主婦はみな豆腐を買ったあとに、小一時間ほど立ち話をする。豆腐よりもご近所付き合いの為に、買い物に来ているようだ。
主婦の長いお喋りに巻き込まれたくない一心で、蒸気に包まれた車の荷台で水中に浮かぶ豆腐を選ぶ。真っ白な豆腐は、どこかからやってきた不思議なものなのに、ベッドタウンの日常の一コマに溶け込んでいた。
時を経て、島でまた豆腐と出会うことに。ことは島にある塩工場の見学に、島食の寺子屋の生徒と一緒に行ったところから始まる。夏の終わりとはいえ、太陽の明るさと気温が一致するような暑い日。塩工場では朝から塩焚きが始まっていた。
ぐつぐつと煮える海水を掻き回しながら、お昼休みもすっ飛ばして塩づくりは続く。蒸気の中で立ち続けているのに少し疲れてしまい、塩工場から一歩外に出ると海と空が広がっていた。
塩工場と外を行ったりきたりしているうちに、塩が窯の上で徐々に浮かび上がってくる。窯から木箱に移されたばかりの塩は、まだ湿り気があって、一つの塊として重みを帯びていた。
ふと、窯のそばから、ちょろちょろと流れ出ているものに気付き、尋ねてみると「にがり」だった。にがりといえば豆腐だよね、なんて盛り上がっているうちに、この時期に島の中で大豆を収穫している農家さんのことが思い浮かび、その場で電話をかけてしまっていた。
とても親切な方で、今夜のうちに大豆を水につけておくから、明日のお昼ごろに取りにおいでと。翌日、手土産ににがりを水筒に入れて農家さんのご自宅に伺い、玄関先で話していると「いま、豆腐作っちゃおっか」という流れに。
そんなに簡単に作れるものなのかと戸惑うそばで、台所で手際よく豆腐作りが進んでいく。大豆をミキサーにかけ、お鍋に移して木べらでかき混ぜると、ぽつぽつ気泡が浮き出てくる。
所々で味見をしてみると、大豆の味がスンとして、豆腐が大豆から出来ているのを思い出した。そして、海のものも豆腐に入っていることは、まだ頭の中で整理しきれていないけど、島の暮らしの中では確かなものとしてあるから本当なんだろう。