裁判官弾劾裁判、白熱の法律論議。
令和5年(2023年)10月25日(水)、訴追罷免事件(令和3年(訴)第1号)の第10回公判が開かれました。
今回は、抽選で当たり、傍聴することができました。
前回傍聴できたのは、7月26日の第8回公判。これについては、noteで記述してますので、そちらをご覧ください。弁護人からの証拠調べでしたが、続きの弁護人からの証拠調べと訴追委員からの追加の証拠調べが予定されていた9月の第9回公判は、抽選で外れて傍聴できませんでした。
1.国会議員で構成される裁判
憲法に規定する裁判官の公の弾劾を司る特別な裁判所は、国会議員が裁判員であり、訴追委員も国会議員。令和5年9月13日の第2次岸田第2次改造内閣の発足の影響も生じます。第8回公判で訴追委員の筆頭席に座っていた新藤代議士は、内閣府特命担当大臣(経済財政担当)となり、第10回公判の訴追委員席にはいません。第212回国会(臨時会)での国会役員人事等もあり、裁判員の変更も見られました。裁判員席の氏名標を確認すると傍聴席から見て左側から、北側一雄裁判員(衆・公)、杉本和巳裁判員(衆・維)、山下貴司裁判員(衆・自)、田中和徳裁判員(衆・自)、山本有二裁判員(衆・自)、階猛裁判員(衆・立)、船田元裁判長(衆)、松山政司裁判員(参・自)、福岡資麿裁判員(参・自)、小西輝之裁判員(参・立)、伊藤孝江裁判員(参・公)、片山大介裁判員(参・維)、赤池誠章裁判員(参・自)、中田宏裁判員(参・自)となっていました。
公判開始早々、船田裁判長から裁判所の構成が変わったことの了解を訴追側、被訴追側にとりました。
国会日程の影響を受けるのも国会議員により構成される特殊性です。
この日(10月25日)、傍聴者は16時までに受付を済ますように指示されました。16時45分開廷の可能性があるとのことでした。実際は、17時ぐらいまで衆議院本会議で代表質問がなされ、その後に議員が集まって、裁判員が法廷に入って来たのは、17時21分。マスコミによる冒頭撮影があって、17時24分に被訴追人が入廷し、船田裁判長の開廷の発言となりました。
2.証人尋問:松宮孝明立命館大学特任教授
この日は、松宮孝明立命館大学特任教授の証人尋問。弁護士側から90分以内、訴追委員側から30分以内での尋問という予定でした。
氏名、住所は記載カードのとおりの確認の後、松宮教授による「真実を述べる」という宣誓。宣誓後に虚偽を語ると処罰されることの裁判長からの確認等と進みます。
弁護士側から、尋問が始まりました。
この日の中心論点は、訴追事由13件のうち、4件は裁判官弾劾法第12条の規定より、訴追事由とすべきものではないということでした。
裁判官弾劾法(昭和二十二年法律第百三十七号)
第十二条(訴追期間) 罷免の訴追は、弾劾による罷免の事由があつた後三年を経過したときは、これをすることができない。但し、その期間内に、衆議院議員の任期が満了し、又は衆議院が解散されたときは、その後初めて召集される国会において衆議院議員たる訴追委員が選挙されて後一箇月を経過するまで、又、同一の事由について刑事訴追があつたときは、事件の判決が確定した後一年を経過するまで罷免の訴追をすることができる。
4件は、訴追段階で、すでに3年を経過しており、訴追事由とすべきものではないということです。
これについては、全体としての一体性があるかどうかが問われますが、ツイートの対象の違い等から、その後のものとの一体性があるとは言えないというのが、松宮教授の考えであり、それを丁寧に説明するように、弁護士側の尋問がなされました。
そこで引用されたのが、上村千一郎元裁判官弾劾裁判所裁判長(元衆議院議員、元国務大臣、元愛知大学教授)が記した『裁判官弾劾法精義』(新訂版1982.1、敬文堂)でした。
3.白熱の裁判官弾劾法の解釈論議
その日の弾劾裁判の内容に関する情報は、傍聴人にはほどんと知らさせません。滅多に動かない憲法機関の動き、国会議員が行う特別な活動、これらの認識のため、傍聴を希望して来ましたが、証人尋問でこのように、法解釈論について白熱した議論が行われるとは予想していなかったのは正直なところです。実に熱のこもったやりとりで、大変興味深い内容でした。
残念ながら、この裁判官弾劾法を専門的に研究している訳ではないので、傍聴メモから引用している上村氏の著書(以下、『精義』と言う。)の部分を掲げる程度しかここには示せませんが、それらから論点を認識いただければと考えます。
まず引用されたのが、『精義』265頁の「(略)訴追状に記載された「罷免の事由」が数個あり、そのうちの一部のみについて訴訟条件が欠けているときは、(略)訴訟条件を欠く「罷免の事由」にうちて実体審理をしないことを手続上明確にするために、弾劾裁判所は、訴追委員会に対し当該「罷免の事由」の撤回を促すか、終局裁判の理由中で、当該「罷免の事由」については実体的判断をしない旨を明示するなどの措置を講ずるべきである。」というところでした。松宮教授は、今回の13件の訴追事由のうち4つは裁判官弾劾法第12条の3年の訴追期間を超えており、その事由で訴追できないとしているので、引用のようにすべきと主張されたのです。
次が『精義』275頁の「事実関係の一体性を有する数個の行為の一部については既にその完了のときから3年を経過しているが、残余の行為がなされたときからは3年を経過していないという場合」についての記述です。松宮教授は、この「事実関係の一体性」が13件のうち4件と残り9件の間には、ないと主張するのです。
『精義』は刑法学者の団藤重光元最高裁判事の刑訴法の書籍を引用したりしていますが、この事実関係の一体性については、「同一の人格態度の発現と客観的に認められる場合」であるとし、裁判の対象は、行為・動作ということをしっかりと認識しなければ、「人格態度の裁判」ではなく、「人格裁判」の危険性が生じるとし、それは避けなければならないということを松宮教授は強調されていました。
その後、弁護士とのやりとりで、裁判官弾劾法第32条の一事不再議についても触れながら、13件の事由の関係性についても説明し、結論として、訴追のときに3年を経過している4件と残り9件の間には、事実関係の一体性がないと述べられました。
ここで、私の時計は18時23分でした。約1時間の弁護士による尋問でした。
ここから、訴追委員側からの尋問が始まり、その後には裁判員からの証人への尋問も行われました。大変興味深いやり取りがなされましたが、先に触れましたが、専門的に研究している訳でもないので、主たる論点に関する部分以外の内容は、ここに記すことは控えたいと思います。
柴山昌彦訴追委員(衆)からの証人尋問が18時23分から18時44分、古川俊治訴追委員会(参)からの証人尋問が18時44分から18時50分(いずれも私の時計で。以下同じ。)に行われました。法解釈、事実認定等で様々なやりとりがなされました。再び弁護士側からの尋問が行われました。これらのやりとりの中では、よく裁判に関するドラマでも見る「異議あり」とのやりとりもありました。
この後、裁判員からの質問も行われました。
山下裁判員から18時54分から19時7分まで、小西裁判員から19時7分から19時17分まで行われ、証人尋問は終了しました。
弁護士側からの追加の証人の要求が認められ、次回、11月22日(水)14時からの公判が確認されました。以前から証人要求がなされていた証人と、この日に認められた証人の合わせて2人の証人尋問を次回は行うこととなりました。
公判の終了は19時19分でした。
前回の最初の傍聴のときは、国会議員も弾劾裁判でこのような仕事もするんだという印象を持ったのですが、今回は、弾劾裁判の裁判員、訴追委員という役割をしっかり取り組んでいる者という風にそこにいる国会議員について思え、裁判の中身に素直に耳を傾けることができました。
国会での立法活動は、会期制の中で、成立に向け「可処分時間」の争奪戦的な要素もあることから、やはり、時間の割り当て、経過に神経質になるところがあります。一方、国会議員が担う裁判官弾劾裁判では、そうした「可処分時間」の争奪戦の要素はほとんどないので、そこに最初は私の方で違和感があったのは事実だと思います。裁判員や訴追委員に、多くの法曹資格を持つ国会議員がいることもあるのだろうと思いますが、憲法の要請する役割に集中する国会議員の姿が、そうした違和感を除いたのだと思います。
結果的に長期にわたり多数の公判を重ねることとなっている今回の裁判官弾劾裁判は、裁判官弾劾法の解釈に関する議論も実施され、多くの考察を得ることができるものとなるのではないかと考えます。
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