見出し画像

気候市民会議、熟議民主主義

 実は、熟議民主主義の検討の観点で、最近、いくつか「気候市民会議」というのが行われているのが気になってましたが、これが我が家の近くの逗子・葉山でも「かながわ気候市民会議in逗子・葉山」として、この夏に実施されることを知り、傍聴ができるということで、その第2回の会議(2023年8月5日)の傍聴を申し込みました。

1.気候市民会議
 この「気候市民会議」の動きについて少し整理する必要があると思っていたところ、「日本で広がりつつある「気候市民会議」。次の課題は?」と言う記事を、日本若者協議会代表理事の室橋祐貴氏がYAHOO!ニュースで出してくださっているので、それをまずここに引用させてもらいます。(2023年7月31日)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a237a6fbdd9d8db101231e4de8e79f3fcd084087

「2019年頃から欧州で本格的に広がり始めた「気候市民会議」が、日本でも着実に広がりつつある。2022年7月、「武蔵野市気候市民会議」が自治体主催で初めて開かれ、東京都江戸川区で「えどがわ気候変動ミーティング」(2022年8月〜)、埼玉県所沢市で「マチごとゼロカーボン市民会議」(2022年8月〜)が開かれた。そして、2023年には、「多摩市気候市民会議」(2023年5月〜)、「あつぎ気候市民会議」(2023年6月〜)、「かながわ気候市民会議in逗子・葉山」(2023年7月〜)、「日野市気候市民会議」(2023年8月〜)、「気候市民会議つくば」(2023年9月〜)と、続々開催中・開催予定となっている。」
 
 つくばでの開催等、あちらこちらでやっているなと思ってましたが、このように近年「続々」と行われていたんですね。

「気候市民会議とは、無作為抽出で選ばれた市民が一定期間、気候変動対策について議論する会議のことをいう。そして、そこで出された提言を行政の施策に反映させていく。気候市民会議が有名になったきっかけの一つである、フランスの気候市民会議では、150人の市民が約8ヶ月議論し、149の提言を政府に提出。その後、その提言に基づく「気候・レジリエンス法」が成立した。」
 
 フランスについては、子ども国会に関連し、フランスの子ども国会で1位になった法案は、選挙区の議員によって議員立法として国民議会に提出され、そのうちの何本かの子ども議員提出法案が成立していることは、承知していました(金子真実「第3章教育の制度設計とシティズンシップ・エデュケーションの実践環境」NIRA総合研究開発機構『教育の制度設計とシティズンシップ・エデュケーションの可能性』2004年)が、そうした民意の反映の伝統は、この気候市民会議への対応にも表れているのだと思いました。

 (欧州での「気候市民会議」については、室橋氏の「なぜいま欧州各国で「気候市民会議」が開かれているのか?ー日本では気候若者会議の取り組みも」という2021年6月27日のYAHOO!ニュースも参照されたい。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e227b65e826ee3f817e4db7ba681731e06045fc0
 
 室橋氏は、「欧州を中心に広がった取り組みだが、市民の声や首長の関心などによって、日本でも広がりつつある。他国のような、国レベルの開催には至っていないが、自治体の開催数で言えば、イギリスの28ヶ所に続き、世界で二番目に多い(ドイツも8自治体)。気候市民会議は、住民の声を聞いているというイメージ作り、利害関係者の多い気候変動対策を推し進めるきっかけになる、政治色が弱いことから、市民、行政双方にとって、日本では受け入れられやすいのかもしれない。」としています。

 さらに、「兵庫県川西市では、くじ引き民主主義の取り組みとして、気候変動ではなく、まちづくりに市民の声を反映する「かわにしミライ会議」が開かれ、令和6年度から始まる「第6次川西市総合計画」に意見が反映されようとしている。「かわにしミライ会議」では、無作為に抽出した市民2,000人のうち、約100人が参加。さらに、オンラインプラットフォームであるdecidimを活用し、会議で出たアイデアの共有などを行っている(「my grooveかわにし」)。」と、「気候市民会議」以外の、代議制民主主義を補完するものとして、「市民を政策の意思決定に巻き込んでいく」取組にも言及しています。そして、そうした手法として近年注目されている「オンラインの参加型合意形成プラットフォーム「Liqlid」」を使って、日本若者会議の「日本版気候若者会議2023」では意見募集を行っています。
 この日本若者会議の意見募集は、これまた最近あちらこちらの自治体での活用が報道されている「Liqlid」を使っており、若者以外でも意見を出せるということで、「Liqlid」を体験することもできました。

2.熟議民主主義
 室橋氏が「くじ引き民主主義」と言っているものは、「熟議民主主義」と呼ばれて認識されて来たものです。この点については、犬塚元・河野有理・森川輝一『政治学入門』(有斐閣ストゥディア・2023年)の第11章「デモクラシーというやり方」の3の「代表制を補完する?」の「話し合いのデモクラシー―熟議の試み」(210~211頁、森川担当部分)を引用したいと思います。

 「(略)今日の政治において、代表と一般の人びとのあいだに大きなへだたりや距離感が存在していることは否定できません。政治参加の機会を数年に一度の代表選びに限定することなく、一般の人々の意見を政治に反映させるやり方はないものでしょうか。この課題をめぐり、アレント流の「みんなで話し合う」デモクラシーに活路を求めるのが、J.ハーバーマスなどが主張する、熟議デモクラシーという考え方です(ハーバーマス2002-03)。ただし、ハーバーマスは、アレントのように代表制を否定したりはしません。代表制というしくみを維持しつつ、普通の市民が公共の利益に関わる熟議をおこなう場を設けて、それを通じて政治家たちがおこなう討議や決定に民意を反映させることができるようにしよう、と考えるのです。」「みんなで話し合うと言っても、国民全員が一同に会して議論することはできませんから、しくみを工夫する必要があります。その1つに、ミニ・パブリックスというしくみがあります。アレント風に言えば「小さな公的領域」というほどの意味合いで、特定の争点について、抽選で選ばれた市民が集まり、専門家のレクチャーなどによって必要は知識を得たうえで、自由に討論をおこなう、というのが基本的なイメージです。」
(ハーバーマス,J./河上倫逸・耳野健二訳2002-03〔1992〕『事実性と妥当性-法と民主的放置国会の討議理論に関する研究』上・下、未来社。)

 この熟議民主主義の日本における展開については、次のような記述があります。田村哲樹は、『熟議民主主義の困難●その乗り越え方の政治的理論的考察』(2017年、ナカニシヤ出版)の序論において、自身が2008年に『熟議の理由』を記したことに触れ、「確かに『熟議の理由』刊行前後から、日本においても熟議民主主義への関心は、アカデミズムの世界を超えて広まった。地方自治体レベルでは、現在では「ミニ・パブリックス」と総称される、様々な兵隊の熟議のための市民参加のフォーラムが、数多く開催された。国政レベルでも、特に民主党政権期に「熟議」はキーワードの一つとなった。とりわけ、2012年7月~8月に実施された「エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査」は、エネルギーに関する政府の政策形成に一定の影響を及ぼした。このような具体的実践を通じて、熟議民主主義の認知度は、確実に高まったと思われる。」としています。
(柳瀬昇『熟慮と討議の民主主義理論-直接民主制は代議制を乗り越えられるか』(ナカニシヤ出版、2015)参照。)

 田村は、「それにもかかわらず、熟議民主主義をめぐる様々な疑問や論点に決着がついたというわけではない。「「普通の人々」には熟議はできないのではないか?」「合意できない解決困難な問題に熟議では対応できないのではないか?」と行った疑問を抱く人々は多く存在する。」と続け、「本書は、熟議民主主義に対する人々の疑念の基礎には、「それを阻む何か」への直観・想定があるのではないかと考え、その直観・想定を一つ一つ取り上げ検討する」としています。

田村哲樹氏の著書


3.「かながわ気候市民会議in逗子・葉山」
 熟議民主主義の評価等については、他の文献等に譲ることとして、実際の「かながわ気候市民会議in逗子・葉山」について見ていきたいと思います。
 一般社団法人環境政策対話研究所のホームページから、「「かながわ気候市民会議in逗子・葉山」の開催について」という文書をダウンロードできます。(https://cdn.goope.jp/61503/230704130815-64a39b2f67941.pdf

 それによりますと、概要は、次のとおりです。
  「かながわ気候市民会議 in 逗子・葉山」は、神奈川県の 2023 年度新施策「若年者・地域向け脱炭素普及啓発業務」の一環として行われるものであり、その企画・運営については、一般社団法人環境政策対話研究所及び公益財団法人地球環境戦略研究機関に委託して実施。
 7 月 8 日に始まり、12 月 2 日まで 5 回開催。
逗子市及び葉山町に居住する 46 名の一般市民は、この両自治体の地域の縮図となるように人選。
会議では、専門家による基礎的な情報の提供や、協力を得ながら、脱炭素社会の実現に向けて、市民自身の行動や、地域社会の取組みや施策について、市民目線でとことん話し合う。
その結果を、温暖化対策に関わる計画の本年度中策定を目指している両自治体に届けるとともに、社会に向けて発信。 

 参加市民は、無作為抽出を行って選ばれた約 3300 名(16 歳以上 80 歳未満)の市民に対して、郵送により参加を呼びかけ。373名から回答。参加の意思表明の106名を中心に、年齢・性別・居住地等を考慮し、に偏りがないように調整して、逗子市・葉山町の縮図になるように 46 名の市民を選出。

参加市民の内訳

 市民会議は、土曜日の午後(10月28日は午前午後)に5回開催。
第1回@逗子 7 月 8 日 顔合わせ、オリエンテーション、気候変動、脱炭素、地域情報の学習(専門家等のレクチャー、質疑応答)
第 2 回@葉山 8 月 5 日 〇 情報の提供・・・「1.5℃ライフスタイルプログラム」の紹介(IGES)、〇 討議・・・脱炭素都市民の暮らしの関係を考える、〇 分担して、2週間、家庭でチャレンジする脱炭素行動を選択(市民による脱炭素行動チャレンジ→アンケート回答→結果集約・分析(IGES))
第 3 回@逗子 9 月 23 日 〇 脱炭素ライフスタイルチャレンジの振返り、〇 第4回会議で深く議論したいテーマを設定
第 4 回@葉山 10 月 28 日 〇 テーマごとに、専門家による情報提供・問題提起、〇 グループ討議
グループ討議の結果のとりまとめ→市民討議結果のドラフトの検討
第 5 回@逗子 12 月 2 日 〇 結果のとりまとめについて全体討議と市民提案づくり、〇 各提案項目について投票、〇 今後の脱炭素社会の実現に向けた地域での取組みについて自由討議、市民提案の最終調整、完成→社会への発信 ・ 行政への提案(手交)
 
 「かながわ気候市民会議 in 逗子・葉山」の成果物は、イメージとして、次のことが掲げられています。
* 市民自らの行動変容のための取組み(市民のアクションプラン)
* 市民の行動変容を支える地域主体(地域に関わる企業、NPO、市民組織等)による取組み
* 市民の行動変容の促進を図るための施策案(行政への提案)

 この文書の最後のところに「6.会議の公開等」ということで、傍聴ができると、申込方法が記載されていました。「(自由な発言の保証)」として、「「誰がいつどんな発言をした」というような、個人が特定化されるような形で公表してはならない」と記述があります。次回、ルールを守ってレポートしたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!