みんなで食べよう学校給食
令和6年(2024年)は、学校給食法(昭和29年法律第160号)が昭和29年(1954年)に公布、施行されて70年ということで、国立公文書館では、企画展が行われています。
ちょうど、1月24日から1月30日は、学校給食週間ということもあり、学校給食について、いろいろ見て考えていきたいと思います。
1.国立公文書館「みんなで食べよう―公文書でえがく学校給食―」展
国立公文書館では、明治時代の取組みから、関東大震災後の大正12年(1923年)の、栄養状態の良くない児童に対して、学校給食などの方法を講じて、速やかに回復に努めるように文部次官が地方長官に求める「小学校児童ノ衛生上処置方」や、昭和7年(1932年)の「学校給食臨時私設方法」、昭和29年(1954年)の「学校給食法」の御署名原本等の公文書と、当時の給食を再現した写真等が展示され、大変興味深いものでした。
さて、公文書館の展示を見て行くと、「第24回国会学校給食法の一部を改正する法律案答弁資料」が出て来ます。法案審査のいわゆる「想定問答」です。立法過程論の研究者として、公文書館にこうした書類があるだろうとは思ってましたが、現物を見たのは初めてです。全ての「想定問答」が保存され公開対象かは分かりませんが、今後、何か必要があれば、政府の意向を確認する資料として調べる気にさせる展示でした。
この時の改正法案の要綱には、その第一として、「学校給食法による学校給食の範囲を中学校等に拡大するため関係条文を改正すること」とあります。
これを見ると、神奈川県民の多くが、「あれ?」と思ってしまうかもしれません。横浜市をはじめ、神奈川県の多くの公立中学校では、昼食は、給食ではなく、お弁当だったことがずっと続いて来ていたからです。
2.神奈川県の公立中学校給食
横浜市の「ハマ弁」というものが、平成28年(2016年)7月から一部の公立中学校で、平成29年(2017年)1月からは横浜市内全公立中学校で開始されました。ここまで中学校給食が開始されなかった理由について、次のような記事があります。Jタウンネット編集部の18年5月25日の取材に、横浜市教育委員会の担当者が説明したものです。
その後、令和3年(2021年)、デリバリー弁当「ハマ弁」が学校給食法に基づく給食に位置づけられ、その年の市長選を経て、令和8年(2026年)からは、全員制の給食となることになりました。令和4年(2022年)12月3日の東京新聞の記事には、「家庭弁当という選択肢も重視していた最大会派の自民が定例会開会前日、「全員喫食の中学校給食を実現すべきだ」として賛成に回った上で、アレルギー対応や量の問題で生徒の個別状況に配慮するよう、山中市長らに要望した」とあります。
神奈川県で最大の人口を誇る横浜市がこうした状況で、他にも学校給食を行っていない自治体もあり、神奈川県の公立中学校での給食実施率は、82.3%と令和3年(2021年)の段階で、全国で佐賀県や京都府に次いで低くなっています。
神奈川県内の状況(令和4年(2022年))は、次のとおりです。
さて、茅ケ崎市を見てみると、学校給食は「ー」でミルク給食は100%ということで、牛乳だけ配っている様子がうかがえます。
3.茅ケ崎市役所での学校給食の展示
この学校給食週間に合わせて、茅ケ崎市役所1階ロビーでは、「わくわく学校給食展」が開かれていました。
ここでは、茅ケ崎市の公立中学校で、段階的に学校給食が始まることも示されていました。
4.学校給食の無償化
茅ケ崎では、中学校給食が始まろうとしているところですが、東京都では、学校給食の無償化が始まろうとしています。上に掲げた文部科学省の令和3年の調査でも、東京都の公立中学校では、学校給食の実施率が、99.3%となっていました。
令和6年(2024年)1月11日の時事は、「学校給食費、負担軽減を後押し 市区町村に財政支援へ―東京都」として、「東京都は11日、学校給食費の負担軽減に取り組む市区町村に対し、都が費用の2分の1を支援する方針を明らかにした。都内では23区を中心に給食費の無償化に踏み切る自治体が増えており、都全域に広げたい考えだ。2024年度当初予算案に関連費用239億円を盛り込む。」、「都内の公立小中学校に通う児童・生徒は約83 万3000人。都立の特別支援学校などについても、都が全額負担して給食費を無償化する方針で、当初予算案に20億円を計上する。約2万3000人が対象となる。」と報じています[1]。
ここにありますように、台東区を先頭として、23区の各区で学校給食の無償化が進み、残っていた渋谷区も、令和6年(2024年)4月から無償化の方針となっている等が背景にあるかと思います。
学校教育の無償化は、「子どもの貧困」対策と絡めて述べられてきました。
鳫咲子跡見学園女子大学マネジメント学部教授は、『給食費未納 子どもの貧困と食生活格差』 (光文社新書、2016年)を著わす等、「子どもの貧困」を学校給食という側面から考え、福祉の新しい視座を提言して来ており、この分野に関しては第一人者とされます。この本が出された頃は、まだ将来の課題と言う感じでしたが、ここに来て、一気に現実化しつつあります。この背景には、こども家庭庁設置やこども基本法制定の過程で、「子どもの貧困」ということが改めて議論されて来たということもあるかと思います。
子供の貧困は、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平成25年法律第64号)が作られる等、問題となって来ました。多少の改善はみられるとのことですが、特にひとり親世帯の子供の貧困率は、OECD諸国の中でも非常に高いままです。
令和5(2023年)12月22日、「こども基本法」(令和4年法律第77号)に基づき、こども政策を総合的に推進するため、政府全体のこども施策の基本的な方針等を定める初めての「こども大綱」が閣議決定されました。その「第3 こども施策に関する重要事項」の「1 ライフステージを通した重要事項」の「(4)こどもの貧困対策」は、「今この瞬間にも、貧困によって、日々の食事に困るこどもや、学習の機会や部活動・地域クラブ活動に参加する機会を十分に得られないこども、進学を諦めざるを得ないなど権利が侵害された状況で生きているこどもがいる。こどもの貧困を解消し、貧困によるこうした困難を、こどもたちが強いられることがないような社会をつくる。」と始まり、その「2 ライフステージ別の重要事項」の「(2)学童期・思春期」の「(こどもが安心して過ごし学ぶことができる質の高い公教育の再生策等)」の最後には、「学校給食の普及・充実や、栄養教諭を中核とした、家庭、学校、地域等が連携した食育の取組を推進する。学校給食無償化の課題の整理等を行う。学校給食無償化の課題の整理等を行う。」と掲げられています。
東京都のように、公立中学校の学校給食がほぼいきわたり、国に先駆けて無償化に踏み込めるところと、神奈川県のように、中学校給食がこれからのところを抱えていたり等、全国では、様々な状況の差があるので、国としての対応はまだ決め切れていないのが現実だと思います。ただ、依然として子どもの貧困率が、OECD諸国の中で低い状況等を考えると、国の方針による全国レベルでの無償化の早期実施が求められているのではないかと考えます。
5.心も温まる揚げパンの話
茅ケ崎市役所の「わくわく学校給食展」で配られていた資料には、「人気No.1 揚げパン」というものがありました。写真でわかるように、小学校も中学校も主食はかつてのコッペパンではなく、米食となっています。食料自給率の向上等の意味からも、米食の方が良いということになって来たのでしょう。ただ、展示を担当していた係の人によると、この人気No.1の揚げパンは依然として出されているとのことでした。
この資料には、揚げパンの歴史として、「1952年に大田区で生まれたと言われています。当時は、風邪で休んだ子にパンを届けていたため、時間が経ってもおいしく食べられ、保存がきくようにと油で揚げて砂糖をまぶしたことが始まりとされています。」とあります。子ども思いの優しい心から生まれた揚げパン!なんて素敵な話でしょう。ただおいしいだけではなく、そうした愛が詰まって生まれたものだから、令和の今日でも残っているのかもしれません。
茅ケ崎の展示では、土日の11時半から揚げパンが先着20名ぐらいに配られるというスペシャルな内容となっていました。日曜に用事を済ませて12時過ぎに行った時には、残念ながら既になくなっていました。その後東京に行く用事があったのですが、新橋駅構内にレトロで人気のコッペパンのお店があって、そこで揚げパンを見つけて購入することができました。
こうした揚げパンの誕生の歴史を知ると、久しぶりに食べた揚げパンは、今まで食べたことがないくらい美味しく感じられるものでした。
[1] Jijicom記事(https://www.jiji.com/jc/article?k=2024011101105&g=eco)
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