注目される「よきサマリア人の法」の行方
令和5年(2023年)10月24日の衆議院本会議での、岸田総理大臣の所信に対する代表質問で、自由民主党の稲田朋美代議士の質問に関し、次のようなやりとりがありました。(抜粋・筆者文字起こし。)
(稲田朋美代議士)
「我が国では、子供食堂や子供宅食フードバンクなどの取り組みが、主に貧困対策の観点から全国で広がりつつあります。一方、米国や欧州では、環境面を含め、総合的な観点から、食品ロスを削減するために、食品寄附に起因した法的責任を問わないよきサマリア人の法や、税制優遇措置などを導入しています。食品ロスの削減の推進に関する法律制定から今年で5年、我が国も法的措置を含め、戦略的に食品寄附を促進していく必要があります。」
「食品ロスへの積極的な取組の方向性、及び(略)、どのような方針で臨まれるのか、総理の見解をうかがいたいと思います。」
(岸田総理)
「2030年度まで、2000年度比で食品ロス量を半減させる政府目標達成に向け、関連する政策パッケージを年末までに作成することとしており、ご指摘の食品の寄附を促進させるための法的措置をはじめ政府全体で検討を加速化させてまいります。」
筆者は、「「草の根ロビイング」の展開-食品ロスの削減を推進する法律の成立―」日本政治法律学会『日本政治法律研究』第2号(2019.3.31)において、食品ロスの削減を推進する法律が、NPO等を中心とする「草の根ロビイング」の動きにより議員立法で成立した事案を取り上げています。
この食品ロスの削減の推進に関する法律のアドボカシーを行った者から聞いた話では、当初から、この「よきサマリア人の法」の導入を目標の一つとしていたとのことでした。
「よきサマリア人の法」は、新約聖書のルカによる福音書にある、「よきサマリア人のたとえ」からのもの。傷ついた旅人に接して、ケガの手当てをし、介抱したサマリア人の話から隣人愛を説く。ここから、寄附した人の行為を肯定し、その寄附されたものが原因となって問題が起きても、その寄附した人の責任は問わないようにする法制について、この言葉が使われるというものです。
食品ロスの削減の推進に関する法律(令和元年法律第19号)には、その第19条の第3項に、この「よきサマリア人の法」を念頭に置いた規定とされるものが置かれています。
(未利用食品等を提供するための活動の支援等)
第19条 国及び地方公共団体は、食品関連事業者その他の者から未利用食品等まだ食べることができる食品の提供を受けて貧困、災害等により必要な食べ物を十分に入手することができない者にこれを提供するための活動が円滑に行われるよう、当該活動に係る関係者相互の連携の強化等を図るために必要な施策を講ずるものとする。
2 前項に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、民間の団体が行う同項の活動を支援するために必要な施策を講ずるものとする。
3 国は、第一項の活動のための食品の提供等に伴って生ずる責任の在り方に関する調査及び検討を行うよう努めるものとする。
与党、自民党の代表質問で、この「食品の提供等に伴って生ずる責任の在り方」について、単なる「調査及び検討」から「法制措置」に踏み込んでの質問がなされ、総理からも「法制措置」の検討の加速化の言及があったことは、ようやくこの法制化の動きが具体化するのかと思われ、大いに注目されます。
(冒頭写真は、衆議院本会議場。2017.5の特別参観の撮影許可時のもの。)
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