mask|短編小説
「あ、忘れてた! 明日学校でハロウィンのイベントで使うマスク必要だったんだ!
ねえ、ママ〜!どうしよう!」
エミリーは慌てた様子で叫んだ。
エミリーの忘れっぽさったら、昔から変わらない。
もう15歳。そろそろ自分で解決する力を付けさせなくては。
「エミリー、いつもママに頼ってちゃ成長しないわよ。自分の力で解決しないと」
「そんな事言ったって…」
口を尖らせ下を向く癖も昔から。
けど本当に今回は自分で解決させなきゃ。
私は敢えて手を貸さなかった。
ガタッ………。
真夜中、エミリーの部屋の屋根から音がした。
まさか、泥棒?!
慌てて私は娘の部屋へ向かった。
「エミリー!」
居るはずの娘が、ベッドに居ない。
よく見回すと、普段着とスニーカーがない。
まさか誘拐?!
私は早る鼓動を落ち着けながら、警察に電話をしようとした…その時、ピロン、メールの音が鳴った。
見ると娘からだ。
『ママ、ごめん。ちょっと友達の、ハンナから呼ばれて。すぐ帰るから大丈夫!』とハンナの家の前で写真に写っている娘を見て『本当に大丈夫?』と念を押した。
『大丈夫!帰ったら、声掛けるから』
私はリビングで紅茶を飲みながら、玄関扉が開くのを今か今かと待っていた。
ガチャ
「ただいま、ママ。ごめんなさい」
エミリーの姿を見てホッとしたのと同時に気が抜けた。
「もう、二度とこんな事しないで。心配するでしょ!」
「ごめんなさい」珍しく娘は、素直に謝って来た。
私は拍子抜けして「もう、真夜中よ。早く寝なさい」
「はい、おやすみなさい、ママ」
私の頬にキスをして自室に上がって行く後ろ姿を見ながら、私は微かに覚えのあるコロンの香りを嗅いだ。
この香りは……。
「ママ、起きて!私もう学校だから、バス来ちゃう。行くね!行ってきます!」
「あ、ごめん、寝坊しちゃったわ。あ、マスクは?」
「うん?ああ、大丈夫!何とかなったから!」
娘は軽やかに扉を開けて出て行った。
娘の部屋に行ってみる。
昨日着ていた服がベッドの下から、ほんの少しはみ出している。
何故だろう、何か慌てて隠した様な……。
引っ張り出して、悲鳴が喉元で凍りついた。
フードには、一面に血が。
デニムにも所々血が飛んだ跡がある。
ピンポン
「すみません、朝早く。警察の者ですが、元旦那さんの事で少しお聞きしたいのですが…」
「今朝早くにアパートの管理人から通報がありまして…首から上がない遺体が発見されました。
…何かお心当たりありますか?」
[END]