『ワンフレーズ』 7話 「イニシエーション?」
「もったいぶってるっていうか、自分で言うのが恥ずかしいだけなんだけど」
「うん」
「ミズにこの質問責めされたのがさ、おれと初めてした日より後なのが問題ってことなんだよな」
「え?」
「ミズってさ、おれが初めての相手だったんだよね」
「それは、付き合ってた時に聞いた」
「確かに、言った事あったな」
「その頃一年生だったし、時期的にも初めてでも変じゃないでしょ」
「そうなんだけど、誰が初めてだったとかの話じゃなくて、ミズがおれと初めてした事、と言うか、好きな人とすることが人生初だった事が問題なんだよ」
「なんだそれ、ほとんどの人がそうだろ」
「そうなんだよ、アラタもそうでしょ?」
「そうだよ、おれはちょっと、遅かったけど」
「おれもさ、全く同じ事感じたことあるんだよ、高校の時に」
「高校の時?元カノ?」
「そう、高校の時、おれの部活恋愛禁止だったんだけど、までも、守り切れるわけないじゃん、そんなの大体」
「うん」
「おれもその一人で、当たり前のように規則破ってバレー部のやつと付き合ってたのね、で、その子の家で初めてしたんだけど」
「そこが初めてだったんだ」
「そう、それでさ、いろんな意味で悪い事してるって気分と、好きな人とこんな事してる気分が同時にきて、とんでもないくらいその子のこと好きなったんだよね、愛のあるセックスみたいな」
「お前からそんな言葉を聞くと思わなかったわ」
「まあ今はそんなこと思ってないから許してくれよ」
「とんでもないくらい好きになってどうなったの?」
「これが愛か、なんて思うくらい好きになって、他のすべてのことがどうでもよくなって、その子のことしか考えなくなったんだよ」
「お前すごいな」
「笑えるだろ、でもあっという間に別れた」
「なんで?」
「相手は相性が悪かったんだって、今だからわかるけど、男子はいいけど女子はからすると、って大半じゃん、そんな感じ」
「それだけ?」
「うん」
「それはひどい話だね」
「ほんとだよな、しかも表向きに言われたわけじゃなかったんだよ、おれ、その子がおれに言った別れる理由がどうしても納得できなくて、結構別れること止めたんだよね、そしたら嫌われちゃってさ、後から噂になって知ったんだ、お前下手らしいぞって」
「最悪だなそいつ」
僕は床に寝っ転がって、ボールを壁に向かって投げた。
「おれも最初そう思ったんだよ、体の相性だけで好きとか嫌いとか決まんのかよって、おれは、好きな上で結果そんなことしたから、余計好きな気持ちが高まったけど、ただその行為だけで考えた事なんかなかったし、高校生くらいって別に、性欲と恋愛の違いなんかちゃんと見分けられてる人なんかいないだろ、今もいねえけど、だから余計悔しかった、まあでも、直接言われた訳じゃないからさ、噂信じすぎるのもやめようと思って、あんまり考えないようにしてたんだよね、結局、大学行ってしばらくするまで引きずってたけど」
「納得できないまま別れた時って、必要以上に引きずるよね」
「本当にまさにそれだった、やったせいでこんな好きになったのか自分は?って考えてた部分もあって、それに否定も肯定もできなかったし、もしかしたらあっちはおれが初めてじゃなかったのかなって思ったし」
ジュンヤは内容の割に、なんだか生き生き話しているように感じた。自分のタオルを雑巾みたいに使って、ボールについた手垢を取っていた。
「でも、大学に入って初めて付き合ってもない人とやった時に、〝お前下手らしいぞ〟の意味がわかったんだよね」
「おい、急にお前が酷いな、どういうこと」
「相性がどうだのって考えられるくらい、冷静だったから」
急に僕の方を見て、開き直ったみたいにヘラヘラ笑った。
「多分、好きでもない人としたから、おれの頭の中も行為だけになったんだよね、結果がいいか悪いかは、人なんだけどね、それでおれ、なんで高校の時の彼女があんな言い方したのかわかったんだよ、それで結構スッキリして忘れられたんだよね」
「好きじゃない人とやって好きな人忘れたって、皮肉だな、やったからその子のこと好きになったんじゃなくて?」
「好きにはならないよ、そういう相手じゃないし」
「そうなんだ」
僕はこういう時、どんな友達だったとしても、ジュンヤだったとしても、「相手は誰?」とか 聞くことをためらう。なんだか開けてはいけない秘密が、隠されているような気がするから わざと名前を伏せているその先に、いつもと違う友達がいるような気がするから。
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