【エッセイ・思い出綴り】 夏休みのソーメン合宿
前期試験が終わり、長い夏休みになる七月の後半、地方から来ている学生は、ことごとく田舎の故郷に帰ってゆく。
ワクワク楽しみの長い夏休み、在京、地方にかかわらず、二カ月近くも先輩、後輩、学友たちに会えなくなってしまうのは、何となく、淋しくなってしまう。
そんな風に、ぼうっと思っていたところ、一つ上の大学美術研究会の先輩が突然、当時住んでいた6畳一間のアパートにやってきた。
「デッサン合宿しようぜ!!」と肩には、油彩の道具、手にはスケッチブック、ちょっと、はにかんだようなうつむき顔が、ドアの向こうにあった。
梅雨明けしたばかりの夏の始まり、まだエアコンは普及していない時代だったけれど、扇風機もない学生アパート暮らしでも、東京郊外の町の朝夕はまだ、過ごしやすかった。
毎日バイクに二人乗りして、駅前のバスセンターという銭湯に行き、食事は、実家から送られてきたお米とソーメン。コーヒーはゴールドプレンドばかり、居酒屋にも寄らず、アパートに帰ってホワイトの水割りを飲んだ。
胃腸の弱い先輩は、朝は薄めのコーヒーを一杯だけを飲み、昼と夜は、胃腸の具合が悪いから、そーめんしか食べられない、と言い、一週間、ソーメンしか食べなかった。
一週間も過ぎた頃、実家から仕送りが来たと言って、先輩は新潟に帰っていった。15号の油絵も仕上げて、秋の学祭展覧会への出品作もできた。
卒業して先輩は誰もが知る大手家電会社に入社し、自分は海外で働くようになった。それから30年が過ぎた同窓会で、久しぶりに会った別の先輩からそうめん合宿の先輩がよくあの夏のことをよく話していたと、聞いた。
「あん時は、ほんとに世話になったんだよなあ、、、、毎日ソーメンばかり食うとったけど(笑)、本当に金なくて、悪くってソーメンしか食べられへんかったけど、楽しかったなあ。。。」、と。
アタクシたちの思い出の夏、先輩も3年前に鬼籍に入ってしまった。