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16のスタートアップ分析指標 | Andreessen Horowitz

16のスタートアップ分析指標 | Andreessen Horowitz

WITH JEFF JORDAN, ANU HARIHARAN, FRANK CHEN, AND PREETHI KASIREDDY   翻訳 : 玉井和佐

私たちは光栄なことに毎年何千人もの起業家たちと出会う。彼らとの会話やプレゼンテーションの中には会社の健全性、将来性を記すための様々な数字や基準、指標が出てくる。しかし、これらの指標が必ずしもビジネスの実態を適切に表しているとは限らない。同じ “指標" 一つにしても人それぞれの違った解釈や定義がなされ、ビジネスの実態解釈が難しくなっている。

そこで私達は、最も紛らわしい指標のいくつかをこのリストにまとめた。リストには適当な箇所で 「何故この指標に投資家達が注目するのか」という解説もつけるよう試みた。要するに、「良い指標」というのはベンチャーキャピタルから資金調達をするためのものではなく、創業者達が何故そのビジネスが上手くいっているのか、いないのかを知り、しかるべき対処ができるようにするものである。

ビジネス指標と財務指標

1. Bookings vs. Revenue 受注額 vs. 収益

まずよくありがちなミスの一つとしてBookings と Revenueを同じものと誤解してしまうこと。

Bookings とは企業と顧客の間に結ばれた受注契約の総額のことを言う。この契約には顧客側から企業への支払い義務が伴う。

Revenue とは企業が顧客にサービスを提供した時点で認識されるもの。もしくはサブスクリプション契約においてはその期間に渡って定率的に認識されるものであり、会計原則はGAAPによって定められている。

*BookingsとRevenueの主たる違いは貸倒れを除き"認識するタイミング"である。受注時点での契約額をカウントしたものがBookings。受注後、サービスを提供した時点で定率的に認識するものがRevenue。Bookingsの方が先の業績を示すため、成長している会社ということをアピールするために使われる。

2. Recurring Revenue vs. Total Revenue 経常収益 vs. 総収益

投資家達は総収益の大部分がProduct Revenue ( vs. Service Revenue) からなるビジネスをより高く評価する。何故か?Service Revenueは単発的でマージンが少なく加えてスケールしにくい。Product Revenueとはソフトウェアや生産そのものから生じる定期的なRevenueのことである。

ARR (Annual Recurring Revenue 経常利益) とは年間の定期的な収入のことを言い、この指標からは一度きりの収入や専門的なサービス料等は省かれる。

ARR per customer : この顧客別ARRが成長しているのかを見て欲しい。もしもあなたが*アップセルもしくは*クロスセルしているのであれば、会社が成長していると言っていい。このARRはビジネスの健全性を表す指標の一つである。

*アップセル: アップセルとは以前購入したものより上級グレードの製品・サービスの購入を顧客に促すことをいう。

*クロスセル : 顧客が購買する、あるいはすでに利用している既存製品・既存サービスに関連するものを販売していくこと

MRR (Monthly Recurring Revenue) 月額定期収入または経常利益 (月単位) : しばしばARRを算出するのにこの月間定期収入額を単に12倍する人がいる。この算出方法によくあるミスはハードウェア、設置費用、専門的サービス、コンサルティングコストといった一度きりの金額を含んで計算してしまっていること。(#1参照)

3. Gross Profit 売上総利益

Bookingsの増加が非常に大切である一方、投資家達はその収入源がいかに利益を生むかを理解したがっている。Gross Profitがその答えとなる。

Gross Profitに含まれるものは会社によって異なるが、一般的に製造、配送、生産またはサービス支援に関わる全ての費用が含まれていなければならない。

そこでGross Profitの数値にどういった費用が含まれていて、どういった費用が含まれていないのかを細かく把握することが大切である。

4. TCV (Total Contract Value) vs. ACV (Annual Contract Value) 総契約値 vs. 年間契約価値

TCV (Total Contract Value) とは契約そのものの総合的な価値であり、期間は短くても長くてもかまわない。TCVは必ず一度きりのサービス料金に加え、定期的に発生するサービス料もすべて含まなくてはならない。

ACV (Annual Contract Value) とはその契約の価値を12ヶ月の期間にわたって計算するものである。

このACVという指標から把握すべきは、そのビジネスの「規模」である。もちろんどういった市場を狙ってビジネスをしているかにもよるが、そのビジネスのサービスそのものがどれぐらいの契約期間でどれぐらいの契約額を取引しているのかに注意を払って見て欲しい。

次にこのACVが「成長しているのか、ことに縮小してはいないか」に注目して欲しい。 もしこのACVが成長しているのであれば、それは顧客があなたのプロダクトに対し、時間とともにより多くの対価を支払っていることになる。その意味するところは、あなたのプロダクトが特徴や性能といった付加価値を増やしその基盤の拡大を促す結果となっている、もしくは自社プロダクトが市場の他製品に勝る機能性から、顧客自らがより多くの対価を支払っているということであろう。

こちらのACVに関するポスト (*SalesforceやHubspotのACV分析例) も参考に。

5. LTV (Life Time Value) 顧客生涯価値

Life Time Value 顧客生涯価値 とは一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす価値の合計のことを言う。一人の顧客が生涯企業にもたらす利益の総額から、一人の顧客を維持するために支払った費用の総額を引き、現在価値に割り引いた数値がLife Time Valueである。

この指標は一顧客がもたらす長期的な価値やCAC 顧客獲得コスト 控除後の純利益を把握するのに役立つ。

よくあるミスは、このLTVを生涯にわたる一顧客の純利益ではなく、一顧客の収益もしくは売上総利益と間違えてしまうことである。

6. GMV (Gross Merchandise Value) vs. Revenue 流通総額 vs. 収益

マーケットプレイスビジネスにおいては、Gross Merchandise Value 流通総額 と Revenue という言葉はしばしば同じものとして使われることがあるが、実際のところ同じではない。

Gross Merchandise Value 流通総額は特定期間に市場取引される商品の総売上高である。これは市場において消費者側が消費している額を意味し、市場規模を測定するのにも、直近の業績を年換算して最新のランレートを算出するのにも役立つ指標である。

一方でマーケットプレイスビジネスにおいての Revenue とは、市場が ”得る” GMV 流通総額の一部である。 Revenueはマーケットプレイスビジネスが市場としてのサービスを提供するために得る様々な収入から成り立っている。例えば最も典型的なものとして、商品が取引される際に発生する手数料や広告収入、助成金などが挙げられる。これらの料金は一般的に GMV 流通総額のほんの一部にすぎない。

7. Unearned or Deferred Revenue... and Billings 前受収益または繰延収益 そして請求額

Unearned Revenue 前受収益 : これはSaaSビジネスにおいて、収益が実際に実現されるのに先だって予約時に前払いで受け取る現金のことである。

こちらは以前もシェアした内容であるが、たとえ大きな取引を契約し前払いで現金を受領したとしても、SaaS企業は顧客へサービスを提供した時点ではじめて収益を認識できる。故にほとんどの場合、その”前払予約は”Deferred Revenue 繰延収益と呼ばれる負債勘定として貸借対照表に計上される。会社がソフトウェアによるサービスを収益として認識し始めると、繰延収益残高が減り収益が増加する。例えば24ヶ月のサービスの場合、毎月繰延収益が24分の1下がり、収益が24分の1増加するという具合だ。

SaaS企業の成長性及び健全性を測るもう一つの良い指標としてBillingsが挙げられる。このBillingsとは今期の収益に、繰延収益の変動額を加えた額のことを言う。SaaS企業が新しいビジネス、あるいは現顧客に対して*アップセルもしくは*クロスセルを通じて受注額を伸ばしているのであれば、Billingsは増加する。

Billingsは単にRevenueを見るよりもSaaS企業の健全性を示すはるかに前向きな経済指標であると言える。何故ならば、Revenueは定率的に認識され、顧客の真の価値を控えめに表すからである。しかしその独自の性質故にトリッキーとも言える。というのもBillingsとは受注はしたがサービスを提供していない未実現の契約額も含めるため、単に着手していない案件数を調整することによって長期的に安定した収益を確保していると見せかけることが可能だ。そうすることによって実態よりもより健全なビジネスに見せられる。故にBillings指標を使ってビジネスを評価する際にはこのような点に気をつけなければならない。

8. CAC (Customer Acquisition Cost) … Blended vs. Paid, Organic vs. Inorganic   顧客獲得コスト 混合 vs. オーガニック vs. 非オーガニック

Customer Acquisition Cost 、略称CACとはユーザーの獲得にかかった費用のことであり、ユーザー一人あたりの単位で表示されなければならない。残念ながらCAC 顧客獲得コストの測定基準は多種多様である。最も一般的な問題は紹介料、クレジットあるいはディスカウントといったユーザーの獲得において生じるすべての費用を含み損なうことである。

もう一つのよくある問題として、CACの算出に、口コミ等の「1. 何もせずに自然に獲得できたオーガニックなユーザー」と「2. 広告といった有料のマーケティングを通じて獲得したユーザー」を混合してしまうこと。この2種類のユーザーを混合したBlended CAC 混合顧客獲得コストも間違ってはいないが自分の打ち出したキャンペーン等からどれだけの利益を得られているのかを正確に把握することができない。

それ故に投資家たちは企業の生存能力を評価するうえで、Blended CACよりもPaid CAC (有料マーケティングに基づいたCAC) の方が重要と考える。なぜならPaid CACの方がユーザー獲得のための予算がどれだけ効果的に使われているかを正確に把握することがきるからである。無論、有料の顧客獲得方法がオーガニックな顧客獲得に寄与するという議論がなされる場合もあるだろうが、Blended CACに重きを置くためにはまずその効果を示す証拠が必要になるだろう。

しかしながら多くの投資家は、Paid CACとBlended CACの両方の数字を見たいと思っている。例えばFacebookを介して顧客を獲得した場合、顧客一人当たりの費用はいくらかを見てみる。

より多くのユーザーを獲得しようとすればするほど、費用は大きくなっていくのが分かる。仮に最初の1000人のユーザーを獲得するのに1ドルかかるとする。次の10,000人を獲得するには2ドル、

次の10万人を獲得するのに5ドルから10ドルかかるといった具合だ。故にそれぞれのルートで獲得したユーザー数に関して測定基準を無視することはできないのだ。

9. Active Users アクティブユーザー

会社によってこの”アクティブ”という言葉の定義は無限にある。 中にはその定義すら説明しないチャートや、初めてのユーザーや偶然に一度だけユーザーになったものを含んでいる不注意なチャートもある。故にこの”アクティブ”の定義は明確にしておきたい。

10. Month-on-Month (MoM) growth 前月比成長率

この指標MoMはよく月ごとの成長を表すシンプルな指標として使われてきた。しかし投資家達は CMGR(Compounded Monthly Growth Rate) 月間複利平均成長率という指標の方がマーケットプレイスビジネスにおいてより周期的な成長率を表す点から、月ごとの成長をCMGR指標を用いて評価することを好む。

CMGR = (Latest Month/ First Month)^(1/# of Months) -1

CMGRを用いることによって他の会社と比べた自社の成長率も把握できる。他の方法では、不安定性や他の要因により、比較が難しくなることが多い。CMGRは成長しているビジネスにおいて、MoMよりは数値が小さくなる。

11. Churn チャーン

*チャーンとは、短期間に次々と同種のサービスを乗り換える「移り気な」顧客。競争が激化しているサービスでは、企業間での新サービス提供合戦のような状況が発生する。このような熾烈な競争のターゲットとなった顧客の中には、よりよいサービスを求めて次々に新しいサービスを契約し、解約していく顧客もいる。このような顧客のことをチャーンと呼ぶ。

チャーンにはあらゆる種類が存在する。たとえばドルチャーンや顧客チャーンやネットドルチャーン等があり、チャーンがいかに測定されるかには様々な定義がある。例えば年間の収益基盤に基づいてそれを測定する企業もある。投資家たちは以下の方法で、それを見る。

Churn (月単位) = 失った顧客総数 / 前月顧客数

Gross ChurnとNet Revenue Churnを区別することも重要である。

Gross Churn:ある月に失われたMRR / その月の最初のMRR

Net Revenue Churn:(ある月のMRR損失 - アップセルからのMRR) / 月初めのMRR

Gross Churnはビジネスそのものへの実損を見積もるものである一方、Net Revenue ChurnはアップセルとAbsolute Churnを混ぜるので、その損失を少なく表すものである。

12. Burn Rate バーンレート

Burn Rateとは企業における現金の減少度合を表したレートである。ことにスタートアップのアーリーステージにおいては、いつ自分の会社が現金を使い果たし、いつまでに資金調達をしなければいけないのか、どの程度経費を削減しければならないのか、もしくは企業が傾きつつあるときにこのBurn Rateを知り、モニターすることが大切である。以下に簡単な計算式を紹介しておく。

Monthly Cash Burn 月次現金消費額 = (期首現金残高 - 期末現金残高) / 12

またNet BurnとGross Burnを評価することも重要である。

Net Burn = [収益(将来受け取る可能性の高い全ての現金を含む) - Gross Burn ]

Gross Burn = 毎月の経費 + 他の現金支出

投資家達はあなたの会社を経営するための銀行にあるお金があとどのくらいもつのか理解するためにNet Burnに焦点を合わせる傾向がある。また毎月のBurn Rateが定期的な推移を表さない場合は収益と費用の増加率も考慮する。

13. Downloads ダウンロード

ダウンロード数は虚栄の指標に過ぎない。投資家達が知りたいのはユーザーがどれだけそのサービスにエンゲージしているかである。 例) DAU (daily active users)やMAU (monthly active users)、シェアされた写真や見られた写真等

14. Cumulative Charts vs. Growth Metrics 累積チャート vs. 成長測定基準

累積チャートは定義上、どんな種類のビジネスでも常に上に、そして右に推移していく。それはビジネスが縮小している時でさえも右上へ動くため、必ずしも企業の健全性や成長を表す有効な指標とは言えない。投資家達はビジネスのアーリーステージにおける成長を評価するのに、毎月のGMV 流通総額や収益、あるいは月ごとの新規獲得ユーザー数または顧客数を見るのを好む。四半期チャートに関しては、それ以降のステージのビジネス、もしくは月ごとの変動が大きいビジネスの指標として使うと良い。

15. Chart Tricks チャートトリック

チャートを良くみせるためのトリックは数え切れない。よくあるのは、Y軸にラベルをつけなかったり、成長を誇張するために規模を縮小したり、絶対数を示すことなくパーセンテージの増加率のみを示したりすること。(この最後のトリックは特に誤解を招きやすい。いくらパーセンテージは良く聞こえても母体が小規模であればそれは必ずしも将来の成長を示唆するものではないからである。)

16. Order of Operations 順序

自分のビジネスの話をする際、どんな順序で指標を提示してもらっても結構であるが、投資家達はまず最初にビジネスを評価する際、Gross Merchandise Value 流通総額や収益、そしてBookingsから目を通すことが多い。なぜならそれらはビジネスの「規模」を表す指標だからだ。そして彼らがビジネスの規模をざっくりと把握した後、次に彼らはビジネスの成長性を理解するための業績指標を把握したいと考えるだろう。これらの基本的な数字がもし興味深いものであれば投資家達のさらなる関心を集めることとなるだろう。

翻訳ソース記事 : http://a16z.com/2015/08/21/16-metrics/

※尚、本記事はAndreessen Horowitz社の許可のもと翻訳記事として掲載させて頂いております。スタートアップ業界の投資家、起業家の皆様のビジネス分析の参考にしていただければ幸いです。当該和訳は、英文を翻訳したものですので、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照していただくようお願い致します。

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