ユーザーグロースのためのアカウンティング - Dilligence at Social Capital : Part 1
BY JONATHAN HSU 翻訳 玉井和佐
ここソーシャルキャピタルでは、ポテンシャルのある投資先に対して、数多くの企業精査(Due Dilligence) を行なっている。全ての会社が異なる一方で、私達はそれぞれの会社のトラクションを測るためにコアとなる指標をいくつか設けている。もちろんここで紹介する指標には、企業精査の際に重要な検討要素となる、チーム、競合、市場予測、コアテクノロジーといった部分は含まれてはいないが、これらのアプローチは投資先の企業精査だけでなく、企業側のオペレーションにおいてプロダクト&マーケットフィットを定量的に測定しながら成長を計測していくのにも多いに役立つものである。参考にして頂ければ幸いである。
目次
1. ユーザーグロースのためのアカウンティング
2. 収益グロースのためのアカウンティング
3. 実用的なコホート・LTV分析 (収益)
4. 実用的なコホート&LTV分析 (エンゲージメント)
5. エンゲージメントの深さと収益の質
6. エピローグ : エイトボールとスタートアップのための会計基準
これらのトピックはConsumer向けのビジネスか、enterprise向けのSaaSビジネスかによって、扱いが異なってくるが、フレームワークそのものはどちらにも当てはめることができる。
今日ご紹介するのは一つ目のトピック : ユーザーグロースのためのアカウンティングである。
Accounting for User Growth
ユーザーグロースのためのアカウンティング
まず初めに、仮に私達がコンシューマー向けの会社を経営していて、これからソーシャル/モバイル/コンテンツ戦略を通じてより多くのユーザーを獲得したいと考えているとする。こういったタイプの会社のピッチにおいてよく見られる最も一般的なグラフは、期間ごとのユーザー数を右肩上がりに列記して表示するものである。時にはユーザーの合計数を「累積」で表示する会社すら見かける。これは明らかに虚栄の指標となってしまう。なぜなら一度サービスに登録はしたが実際にはアクティブではないユーザーもここに含まれるからである。こういった稀に見る累積チャートのケースを除き、現代でよく使われている最も一般的な下記のMAU(月間アクティブユーザー)のサンプルチャートを見てもらいたい。
このサンプルチャートはある会社のMAU ( 月間アクティブユーザー) が16ヶ月間に渡って~12%/月で成長する様子を表している。 これだけを見るとこの会社に対して、成長という側面からかなりの好印象を受ける。しかし私達はこの考察から成長の実態を把握するために、もう一歩掘り下げて分析することを心掛けている。例えばモバイルアプリのケースを想像して欲しい。 この「アクティブユーザー」という言葉の定義はアプリケーションの 目的によって異なってくる。例えばただ単に「アプリをダウンロードして開いたユーザー」という解釈もあれば「アプリ内で一定の行動をとったユーザー」 と定義するものもある。まずアクティブユーザーの定義を明記しておくことが大切である。
下記の2つのアカウンティング等式から分析を深めていく。
MAU(t) = new(t) + retained(t) + resurrected(t)
MAU(t - 1 month) = retained(t) + churned(t)
MAU(t) : 月間アクティブユーザー
MAU(t - 1 month) = 前月の月間アクティブユーザー
new(t) :新規ユーザー
retained(t) : 保持されたユーザー
churned(t) : 離脱したユーザー
一つ目の等式MAU(t)は新規ユーザーもしくは、前月から保持されたユーザー、および一度離脱したが戻ってきたユーザーの3つによって構成されることを意味する。 注意すべきはこれらのユーザーの分類は互いに重複することはなく相互に排他的であることが前提である。
二つ目の等式MAU(t - 1 month)は前月の月間アクティブユーザーは復活したユーザーが保持された、もしくはチャーンとなったことを意味する。
上記の計算式をまとめると
MAU(t) - MAU(t - 1 month) = new(t) + resurrected(t) - churned(t)
月間アクティブユーザーの成長は新規ユーザーと復活したユーザー数によってポジティブな影響を受ける一方で、ユーザーをチャーンとして失うことによってネガティブな影響を受けるということに集約される。
こちらが上記で紹介したサンプル会社のMAUを私たちの好む形で定量的に表したものである。
Sample MAU Growth Accounting for the above MAU chart
バーの部分は上記で紹介した3つのユーザーで構成されている。更に、バーに重ねて表示している折れ線グラフはユーザーのリテンショレートと新規および復活ユーザーの数をチャーンの数で割ったレートである。
このグラフによるとこの会社は ~ 40%のリテンショレートを有していることが見て取れる。注記したいのは上記のアカウンティング等式により、このリテンションレートは同時にチャーンレート(100% - 40%) = 60%を表すということでもある。
そしてもう一つの折れ線グラフは (新規 + 復活ユーザー)/ 離脱ユーザーの数値を表し、このサービスが成長していることを証明するにはこの数値が1を上回っていなければならない。でなければチャーンが成長を上回っているということになる。この指標を私達は”Quick Ratio”と呼んでいる。
Quick Ratio = (new + resurrected)/churned
この指標は今年の初めにMamoon Hamid氏のDeck によって造られ共有されたものである。詳細については後々の収益に関するポストで述べていく。この指標はファイナンスや会計で流動資産と流動負債の比率を図るために用いられるQuick Ratioとは別のものであることを明記しておきたい。
この会社のQuick Ratioは1から1.5の間を上下している。すなわちこれは会社が新規ユーザーを3人獲得するごとに、2〜3人のユーザーをチャーンとして失っているということを意味する。
このチャートは冒頭でご紹介した一つ目のサンプルのチャートに比べ、より豊富な情報を可視化することができる。そしてこれらの意味を複数の情報から俯瞰することが大切である。この会社は大きなチャーンを新規及び復活ユーザーの獲得によって補いながら成長している。リテンションレートは安定しておりことさら特別な傾向を表してはおらずプラスサイドとして、アプリが成長するにつれてリテンションレートが下がっていないと評価することもできるが、同時に良くなっていないとも取れる。これは過去12ヶ月においてアプリに施された改善や、新しい機能の追加をレビューしながら効果が出ているかという検証にも用いることができる。
最初に表示されたMAUのチャートには好印象を抱きつつも、一つ掘り下げて分析を行うとこのコンシューマーアプリの成長実態は我々にとってまぁまぁに分類される。コンシューマーアプリのほとんどが月を経るにつれてユーザーを取り戻すほどの強力なメカニズムを見出すことができず、ゆえに当座比率は1を少し上回る程度に収まる傾向がある。典型的なコンシューマーアプリにおける月ごと一般的な内訳は、たくさんの新規ユーザーを獲得すると同時にたくさんの既存ユーザーを失うパターン。そしてその数値に、過去からの復活ユーザーが小さく上乗せされることで成長を保つというものである。
この分析の重要性を示すために、もう一つの例を紹介したいと思う。
例えばこちらのサンプルチャート。このチャートの数値は冒頭に紹介したMAUグラフと全く同じ数値のものであることに注目してほしい。違いを強調するために軸は同じにしてある。こちらのコンシューマーアプリの場合、成長速度は決して速くはないが、上記で紹介したケースよりもリテンションレート(保持率)がはるかに良好である。この会社のQuick Ratioは1.5–2.0の範囲を保っており、これはコンシューマー向けの会社にしては非常に高く評価できるものである。(3人の新規ユーザーを得るごとに1.5-2 人の既存ユーザーを失っていた最初の会社よりもはるかに良い)局所で見られるResurrected ( 復活ユーザー)の起伏は過去のユーザーを引き戻すためのキャンペーンによってもたらされたものと予想され、これにチャーンが伴っていないという部分も重要な評価要素となる。
他のすべてが同じであれば、2例目はより良い基盤からスタートしているので我々にとってもより魅力ある会社として写るであろう。このような高いリテンションレートを有していれば(シェアリング/リファーラルメカニズムや有料のユーザー獲得戦略などの)より積極的な成長戦略を推し進めてみる価値もあるだろう。最初の例のように新規ユーザーにサービスを強要した結果たくさんのユーザーを失くしてしまうのは妥当ではない。潜在的なチャーンの問題を解決するよりは最初の訪問の発生を補充する方が明らかに簡単なのだ。このアカウンティングはカレンダーの月次ではなく一定のタイムフレームで成しうるということもまた明白でなければならない。実際の所、これを可能にするために我々は自分達のポートフォーリオ企業数社を(曜日効果を取り除くため)28日回転ベースで分析する。またこのアプローチは月ごとのアクティブユーザー同様、週単位での測定も有効である。通常、アーリーステージのプロダクトはリテンションレートの算出が難しく、同時に週ごとの考察は大変高いチャーンを示し、役に立たないことも多い。しかしあなたのプロダクトが月次で高いレベルのユーザーベースを維持しているのであれば、週ベースでの数値を探ってみる頃かもしれない。Facebookのようにサービスのユーザーの使用頻度が極度に強いものであれば、日単位や半日ベースで計測するのも理にかなっている。
次回のポストでは、コンシューマービジネスだけでなく企業向けのSaaSビジネスの分析にこのフレームワークを応用していく。
目次
1. ユーザーグロースのためのアカウンティング
2. 収益グロースのためのアカウンティング
3. 実用的なコホート・LTV分析 (収益)
4. 実用的なコホート&LTV分析 (エンゲージメント)
5. エンゲージメントの深さと収益の質
6. エピローグ : エイトボールとスタートアップのための会計基準
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※尚、本記事はSocial Capital社の許可のもと翻訳記事として掲載させて頂いております。スタートアップ業界の投資家、起業家の皆様のビジネス分析の参考にしていただければ幸いです。当該和訳は、英文を翻訳したものですので、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照していただくようお願い致します。
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