Zenreachから見る飲食業の新たなマーケティングツール
今回はあまり表には出てきていませんが、シリコンバレーの水面下で着々とマーケットシェアを拡大してきているZenreachというスタートアップについて書きたいと思います。
Zenreachとは簡単にまとめると、Wi-Fiアクセスと引き換えに顧客のEメールアドレスを収集し、抽出したデータをもとに様々なマーケティングツールを提供するスタートアップ。
ファウンダーであるJack Abraham氏は3年前の創業時から「できるだけ静かにこのスタートアップを成長させる」ということに徹し、今やサンフランシスコのカフェやレストラン、バーと言った飲食店利用者のおよそ3分の1が無意識のうちに彼のサービスにすでにログインしていると言われています。(僕も最近まで知りませんでした!)
※下記 実際にZenreachを導入しているサンフランシスコのカフェを訪れ、Wi-Fiにアクセスした際の画面。
まずここでのポイントは「多くの人が無意識のうちに彼のサービスに登録している」ということ。
Zenreachはあらゆるメディアへの露出を避けながらPayPal創業者Peter Thiel率いるFounder’s Fund等から$30Mもの資金調達を行い、調達資金で従業員の数を150人から300人へ増強。今も目覚ましい勢いでビジネスを拡大しつつあります。
加えて今年の7月19日、Peter Thiel本人がBoard Memberとして加わるという異例の発表から、秘密に覆われていたその実態がようやく明るみに出ることとなりました。
Jack Abraham氏は2010年ショッピングサイトであるMilo.comをeBayに売却。当時、カフェやバー、レストランをはじめとする多くの店舗経営者が「一体どれだけの顧客が店舗を訪れ、どれくらいの顧客がリピーターとして戻ってきているのかが分からない。」という悩みを抱えていたことから、この問題に着目しZenreachの開発に取り組み始めました。
彼がこの問題の解決策として作りあげたのは、Wi-Fiを使った実用可能なデータ収集の仕組み。Zenreachはカフェやバー、レストランにナイトクラブと言ったあらゆる店舗に、独自のログイン画面をカスタムで簡単にSetupできるWi-Fiハードウェアを提供し、店舗を訪れた顧客はWi-Fi使用の際のログイン画面でemail addressの入力が求められるという流れになっています。このemail addressの登録情報と使用頻度をもとにZenreachは実用可能なwalk-through rateという独自の分析指標を抽出。
ここから得られたデータを用い、「それぞれの顧客が店の売上にどれだけ貢献しているか」という情報を整理し、経営改善のための様々な自動マーケティングツールを提供しています。
下記例 ) John Smithさんというお客さんは今まで21回店を訪れ、合計$500の買い物をしているというイメージデータ。
店舗側はこのプロセスで明らかになったデータを参考に、誕生日、記念日、訪問回数に応じたフリードリンクやオープニング記念と言ったあらゆるキャンペーンを、顧客のプロフィールに応じて自動で送信できるようになっています。
まず重要なポイントとして抑えておきたいのは、バーを経営するにせよナイトクラブを経営するにせよホスピタリティビジネスにおいて最も大切なのはいかに「常連顧客 "Loyal Customer"」を増やせるかという点。Boston Retail Partnersの調査によると、「最優良顧客」一人当たりの平均売上は「通常顧客」の9倍にも値するという統計が出ています。
加えてこれまでは、YelpやGrouponと言ったプラットフォームがオンラインからオフラインへのアクセスループを作り出し、新規顧客を増やすためのマーケティングツールとして急成長を見せました。一方で、次の要となる「新規顧客」を「常連客」へ転換するための効果的なマーケティングツールが今まで存在していなかったのも事実です。これらを踏まえた上で、Zenreachが今後ホスピタリティビジネスに本質的な価値をどれだけ産みだしていくのかが注視されます。
Hollywoodの老舗ナイトクラブ AvalonのZenreach導入による成功事例はこちら
もちろんWi-Fiだけではなく、顔認証システムやアプリと連動したBluetoothセンサーと言った違った技術を用いて同様のマーケティングツールを開発しようとしているスタートアップもちらほらありますが、水面下で圧倒的なスピードをもってマーケットシェアを拡大し、ここまでの規模に至るまで表に出てこなかったZenreachは本当の意味でステルススタートアップと言えるのではと感じます。
Zenreachの動画
----
定期的にシリコンバレーで話題のサービスを「使ってみたマガジン」にして発信していきたいと思います。面白いコンテンツも予定しておりますので興味のある方は是非フォローして頂ければと思います。