新たな16のスタートアップ分析指標 | Andreessen Horowitz ( 前半 )
by Anu Hariharan, Frank Chen, and Jeff Jordan 翻訳 玉井和佐
以前、投資家が事業に投資をする際、その事業の健全性を計るのに役立つ基本的な指標をいくつかお伝えした。
繰り返すが、良い指標というのは単にベンチャーキャピタルから資金調達するためのものではなく、創業者達が何故そのビジネスが上手くいっているのか、いないのかを知り、しかるべき対処ができるようにするものである。言い換えればこれらの指標はただピッチするためのものではなく、後々の経営会議や四半期報告において議論するためのものでもある。ある読者がこうシェアしていた。「単に指標を報告するのはやめなさい。それらと共に歩みなさい。」
(以前の我々のポストに対してTwitter上でフイードバックやシェアをして下さったたくさんの皆さんに感謝を込めて) そのリストに加えることが大切だと思う新たな16個の指標をここに示す。
#1 Total Addressable Market (TAM) 実現可能な最大の市場規模
Total Addressable Market (TAM) とは「あるプロダクトやサービスが実現可能な最大の市場規模」を指し、アナリストが最も重要視する指標の一つである。TAMを明確化することで、参入可能なマーケットや顧客の選別が可能となり、最終的には投資家達へビジネス自体の実現可能な収益や利益といった価値を提示することができる。
しかし、市場規模の分析にあたり、既存市場のサイズを基準値として測定するということは、ポテンシャルのある新しいビジネスを過小評価してしまう可能性もある。例えば、オンプレミスソフトウェアに関連したSaaSビジネスでは、ユーザ一人当たりの平均収入は低いかもしれないが、ユーザーの数が増え、市場が拡大していけばそれを十二分に補うことができる。 あるいは今までの既存のサービスに比べ、より良い機能性を提供する新たなサービスがでてくれば、既存市場をさらに大きく育てることができる。( 例 : 従来の骨董品やアンティーク等の取引市場がebayというサービスができたことによって既存の市場規模が大きく拡大された。)
市場規模を測る方法にはいくつかあるが、ここではボトムアップ分析を紹介する。ボトムアップ分析とはターゲット顧客のプロフィールから、その顧客のサービスに対する支払い意思、そしてあなたがどのようにして市場を作り出し売っていくかまでを考慮に入れた分析方法である。 対照的に、トップダウン分析は、マーケットシェアおよびマーケットの全体規模に基づき、TAMを算出するものである。 ( これらのアプローチに関するより多くの詳細が書かれた入門書がここにある。)
何故私たちは、ボトムアップ・アプローチを推奨するのか? 仮に中国に歯ブラシを売っているとする。 トップダウンの計算では以下のようになる。毎年、中国の人々の40%に1本1ドルの歯ブラシを売ることができれば、私のTAMは 13.6億人 x 1ドル x 40% = $540M / Year となる 。 この分析は市場規模を誇張する傾向があるだけでなく、あなたの歯ブラシを5億4千万人に買ってもらうことの困難さと非現実性を完全に無視してしまっている。 そもそも人々はどこで歯ブラシを買うのか? 他にどのような代替品があるのか?ボトムアップ分析ではあなたが毎日、毎週、毎月、毎年、ドラッグストアやスーパー、オンライン・ストアを通じて販売される歯ブラシの数に基づきTAMを算出する。
この種の分析からはビジネスの市場性が分かるだけでなく、分析過程を問うことにより、マーケティングや営業チームの能力が評価できる。
もちろん、投資家達はビッグアイディアに投資したがるが、投資家に向けてピッチする際、このTAMを過大評価せずに適切な数値の算出を心がけるべきである。
#2 ARR ≠ ランレート ( 年次 )
前述で既にはっきりさせているが、ソフトウェアビジネスが Annual Run Rate を使用する場合、それは経常収益を意味することを再び強調しておきたい。 ある月の予約契約額もしくは収益を単に12倍して年換算するのは間違いである。
SaaSビジネスでは、ARRは年次の経常収益の指すものである。つまり経常収益とは定期的、反復的に発生する収益のことであり、一度きりの突発的な収益や専門家のサービス料等は除外されるべきである。この点は非常に重要である。仮にある月に、あなたが一度だけのサービスに対し請求書を出し、一時的にいつもより多くの収益を計上したとする。その月次収益に12を掛けて年換算してしまうと、実際の経常収益を過大表示することになる。
次にマーケットプレイスビジネスにおけるケースだが、ARRは一般的に取引に基づいて算出されており、直近の月、または四半期の収益を年換算することによって求められる。
我々がよく目にする誤りの一つに RevenueとGross Merchandise Value ( GMV : 流通総額 ) を同じものとして表示しているものがある。これはビジネスの規模をかなり誇張しうるものである。GMVは一般的に、そのマーケットプレイスでの取引総額を表す一方、Revenueとは、それらのマーケットプレイスのサービスの提供のために、会社がとる手数料の部分のことである。( GMVの一部 )
#3 Average Revenue Per User ( ARPU ) ユーザー一人あたりの収益
Average Revenue Per Userは, 一定の期間における総収益をユーザーの数で割ったものと定義される。これはプラットフォーム上のユーザーの価値を測る上で重要な指標の一つと言える。
まだ売上のない初期の会社に対しては有名な会社のARPUと比較し判断基準を模索する。 Facebookを例に挙げると彼らはアメリカとカナダでユーザー一人あたり$9.5の収益をあげている ( 2015年度第二四半期 )。
するともし仮に私達がFacebookと似たマネタイズポテンシャルのある広告ビジネスを投資先として評価する際、「Facebookと比べて、将来見込めるARPUが半分程度なのか、4分の1なのか、それともそれ以上になるのか?」と言った測定基準を設定する。そこから、いつまでに、どのくらいのARPUを、どのようにして実現していくのか?といった質問を相手に投げかけながらチームにその能力があるかを評価していく。
#4 Gross Margins 売上総利益
前回のポストに引き続き、Gross Marginについてもう少し掘り下げたい。Gross Margin = Total Sales Revenue - Cost of Goods Sold この指標は異なったビジネスモデルの会社を比較するために用いられるものと考えて欲しい。無論、異業種間で収益の大きさだけを比較しても意味はない。Gross Margin は 営業費用、もしくは最低限の利益率をまかなうためにどれだけの収益を確保しなければならないかを投資家達に教えてくれる指標である。
例えば E-Commerce ビジネスにおけるGross Marginは一般的に低いとされる。最も良い例としてはAmazonの27%が挙げられる。対照的に、マーケットプレイスビジネスやソフトウェアビジネスのGross Marginは高いとされる。
かつて Jim Barksdale ( Fedex COO, CEO of McCaw Cellular, and CEO of Netscape ) がこう言っている。「ソフトウェアビジネスに魔法の力があるとすれば、それはこのソフトウェアをあなたに売った後でもなお、まだそのソフトウェアという資産が無限に私の手元に残っているということ。」この数に限りのない資産のおかげでソフトウェア会社は80% - 90%の利益を実現することができる。小さいソフトウェア会社ともなれば比較的小さなGross Marginでのスタートとなることもあるが、最近では使用した分だけサービス量を支払う方式 ( pay-as-you-go ) のクラウドサービスを使うことにより、初期投資を抑え、まだ駆け出しのスタートアップでも高い利益率を実現することが可能となった。
#5 Sell-Through Rate & Inventory Turns 販売率 & 棚卸資産回転率
Sell-Through Rate は通常以下のように計算される
Sell-Through Rate = 一定期間にプロダクトの数 ÷ 期首のプロダクトの数
この指標はビジネスモデルによって意味するものが変わってくる。マーケットプレイスビジネスにおいては、 「契約率」や「コンバージョンレート」「成功率」等と呼ばれている。どのような名前で呼ばれようと、このSell-Through Rateはマーケットプレイスビジネスにおいては最も大切な指標の一つであると言える。投資家として、この指標が高いと、サービスを利用する提供者もしくは出品者 ( Suppliers ) が高い確率で対価を受け取っているということが窺えるため、レートが高ければ高い程好ましい。特にアーリーステージのマーケットプレイスビジネスを評価する際、私達はこのレートが時を経るにつれて良くなっているかどうかもチェックする。
またマーケットプレイスビジネス以外の棚卸資産を有するあらゆるビジネスモデル(小売業者、卸売業者、製造業者)においても Sell-Through Rate は棚卸資産を管理する上で重要な指標である。プロダクトベースでユーザーの需要に対してどれだけの供給がなされているかがこの指標から見て取れるからである。
しかしSell-Through RateよりもInventory Turns ( 棚卸資産回転率 )をより好んで見る投資家も多くいる。
主に二つの理由がある。まず一つは資本効率が把握できるという点。そして二つ目は棚卸資産の質をチェックするヒントになるという点がある。棚卸資産の回転率が鈍いとそれは需要の低下を意味し、資産の陳腐化に伴う評価額の切り下げも起こりうる。
Inventory Turns ( 棚卸資産回転率 ) = 売上原価 ÷ 棚卸資産( 当期・前期末平均 )
一般的に年次の指標が分析に用いられる。
この棚卸資産回転率を良くするには大きく二つの方法がある。
1- 営業スピードを上げ同じ売上高を短期間で達成させる。
2- 余分な棚卸資産を減らす。どちらも有用な策ではあるが、後者の棚卸資産を減らしすぎることは、十分な予備在庫がなかったために、売れるはずっだったものが売れなかったということも起こりうるので注意すべきである
#6 Network Effects ネットワーク効果
Network Effectsとは潜在的な顧客にとっての物やサービスの価値が、既にその物・サービスを利用している顧客の数に依存すること。より多くの顧客が物・サービスを利用するにつれてその物・サービスの価値が増す場合、その物・サービスには、正のネットワーク効果があるという。 ( 例 : 電話回線、Ethernet、ebay、Facebook ) EngagementやMarginを増やすにつれて、Network Effectはソフトウェア会社にとって競争に左右されない強固な基盤を築くための鍵になってくる。
しかしながら、 "Network Effect" がどれだけあるかを表すこれと言った明確な指標は存在しない。にも関わらず、「私達のビジネスには大きなNetwork Effectがある。」という根拠のない自己主張をよく目にする。もちろん実際にどれだけのNetwork Effectが存在するのか私達にとっても判断は難しく、よく会議でディベートが過熱する原因にもなっている。
ここでOpenTableをNetwork Effectを兼ね備えた典型的なビジネスの例として見ていきたい。OpenTableにおけるNetwork EffectとはOpenTable上で紹介されるレストランの数が増えれば増えるほど、ユーザーが増え、結果的によりたくさんのユーザーがそのレストランに魅了されるというもの。このビジネスモデルにおいてNetwork Effectを表す幾つかの尺度がある。
例えば仮にOpenTableの営業担当者の数がレストランからの問い合わせの数に伴い増え続けているとする。これはレストランの契約数が増えているという単体の事実よりもより意味のある事実と言える。
次にOpenTableで紹介されているレストランで食事をする人の数が増えているという事実。これもただレストランで食事をする人の数が増えているという事実よりもより意味のあるものと言える。
つまりレストランのWebページから直接受けた予約数に対してOpenTableを通じて受けたレストランの予約数の割合が増加しているという意味である。
レストランにおけるChurnは時が経つにつれて低下していく。
もちろんここから見て取れるようにこれらの分析はOpenTable独自のものと言える。Airbnbやebay、Facebook、Paypalと言った他のNetwork Effects を有するビジネスはそれぞれ個々に違った指標がある。
したがって、Network Effectsを有するビジネスを管理する上で最も大切なことは、まずどう言った指標を用いてNetwork Effectsを測るのかを定義することである。同様に投資家側はNetwork Effects を表す指標の裏付けとなる根拠をしっかりと確認し、KPIをどのように管理しているかを把握しなければならない。
#7 Virality バイラリティ
Network Effects がそのネットワークの価値を表す一方で、Viralityはあるユーザーから次のユーザーへプロダクトが広がっていく「速度」を表したものである。ここで注意しておきたいのはViral Growthというのは必ずしもNetwork Effectsを表すものではないということである。
Viralityは一般的にViral係数Kで表される。バイラル係数とは、サービスの顧客が、新しい顧客を招き入れるまでの期間を時間の1単位とし、1期間に各ユーザーが平均何人を招き入れるかを数値化したものである。 [ 1ユーザーがSNS投稿やメール招待を通じて送ったInvitationの人数 × Invitaionからのコンバージョンレート ] この係数Kの値が大きいほどより多くの拡散が起きているということである。しかしこれは意図的なものである必要はない。既存ユーザーとのカジュアルなやりとりから生まれる間接的な拡散も含まれる。
ここに係数Kを表す簡単な計算式を紹介しておく。
1.今現在の既存ユーザーの数を数える。仮に1000人のユーザーがいるとしよう。
2.この数字に1ユーザーが送った平均Invitationの数をかける。すると1000人のユーザーが5人ずつにInvitationを送るとInvitationを受けた人数は合計で5000人となる。
3.この人数のうち「期待される行動」をとった人数がどれだけいるかを数える。ここで注意しておきたいのはこの「期待される行動」の定義をより意味のあるものにすること。例えば、この行動を「アプリをダウンロードした人数」と定義し指標とするのはあまり良くない。なぜならばダウンロードはしていても実際にアプリを開けていないというケースも多く見られるからだ。代わりにこういう設定をしてみる。「ダウンロードした人数」ではなく「アプリから登録を行い最初のレベルのゲームをプレイしたユーザーの数」 この数が750人 (15%) だとする。
4.これはつまり1000人の既存ユーザーから始まり一定期間のviral loopを経て合計1750人のユーザーとなった。Viral係数Kは新しく獲得したユーザーの数を既存ユーザー数で割ったもの。今回のケースでは : 750 ÷ 1000 = 0.75
" 1 "以下の数字はViralとは考えられない。( " 1 " 以上の数字はViralと考えれる。 ) この数字が高ければ高い程良しとされ、新規ユーザーの獲得にかかるコストがより低くなっていることを意味する。そして、更にこの数字に高いAverage Revenue Per User (ARPU) が伴うのであればあなたのビジネスは非常に良いスタートを切っていると言えるであろう。
#8 Economies of Scale 規模の経済
Economies of Scale ( 規模の経済 ) とは、生産量の増大に伴い、原材料や労働力に必要なコストが減少する結果、収益率が向上することである。
Economies of Scaleを図る一つの尺度として時間の経過に伴う単位原価の減少があげられる。典型的な例としてAmazonのネット販売である。 販売量が増えるにつれて、単位あたりの固定費 (倉庫管理費、配送料)が低くなっていき、結果的に単位原価が下がっていく。
Economies of Scale に伴う営業効率の上昇によって変動費も下げることができる。
覚えておいて欲しいのは規模の経済はViralityやNetwork Effectsとも違うものであるということだ。
後半に続く。
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翻訳ソース記事 : http://a16z.com/2015/09/23/16-more-metrics/
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※尚、本記事はAndreessen Horowitz社の許可のもと翻訳記事として掲載させて頂いております。スタートアップ業界の投資家、起業家の皆様のビジネス分析の参考にしていただければ幸いです。当該和訳は、英文を翻訳したものですので、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照していただくようお願い致します。