なぜなぜ分析 実例その1

カイゼンの手法では、真因追求が大変重要なステップとされています。

真因とは「真の原因」のことです。
普段、私たちがしている仕事には、何らかのマニュアルや手順(または慣例)があって現場でやるべきことはだいたいわかっていますよね?つまり、なぜその仕事が必要なのかという観点は普段は持っていません。

このため、カイゼンでは真の解決策を探る前に、真因を見つける作業が必要になります。

この真因追求を行う手法として「なぜなぜ分析」があります。

なぜなぜ分析ができない現場

前述したように、普段の生活の中で考えていないものを検討するのですから、なぜなぜ分析は相当難しいです。

なぜなぜ分析とは、真因を追求したい事象に対して「真因に辿り着くまで“なぜ?を繰り返す”」検討手法です。そして、その“なぜ?”は最低でも5回繰り返すことが求められます。

なぜなぜ分析が失敗した実例

【検討テーマ】
設備障害発生時の現場出向業務を効率化したい

【検討対象業務の工程概要】
①上長による現場出向指示
②指示された出向者による現地状況確認
③復旧作業

上記の①〜③の工程のうち「①上司による現場出向指示」について、なぜこの工程が必要か?なぜなぜ分析により真因を追求した。

実際に行われたなぜなぜ分析結果がコレです

【なぜ1】なぜ上長は出向指示しているか?
→【答え】基本的に2名で出向しているため

【なぜ2】なぜ2名で出向しているか?
→【答え】若手社員が経験を積むため中堅社員以上と出向している

【なぜ3】なぜ中堅社員以上と出向しているのか?
→【答え】若手社員のみでは障害対応が出来ないため

【なぜ4】なぜ若手社員のみでは障害対応が出来ないのか?
→【答え】障害対応に関する知識、技能が不足しているため

【なぜ5】なぜ知識、技能が不足しているのか?
→【答え】対応頻度が少なく、調査、対応方法が明確になっていないため(真因)

∴なぜで得た結論(真因)

「上長は対応頻度が少なく、調査対応方法が明確になっていないため出向指示している」

・・・・・え??どういうこと?

このなぜなぜ分析は、実際に関係者が集まってカイゼンを検討する作業会に持ち込まれた文章に文字として記載されていたものです。

私はこれを読んで愕然とするしかありませんでした。

なぜなぜ分析が論理崩壊するのはなぜか?

ではなぜ?分析内容が論理崩壊してしまったのか(というか日本語として成り立たなくなったのか)なぜなぜ分析の作者の思考ロジックを推測してみます。

まず、この事例ではどの段階でなぜなぜ分析が崩壊したのか私なりに考えてみました。
 
このなぜなぜで致命的な誤りは【なぜ1】の問いかけと答えのまずさ具合です。

なお、答えのまずさ具合の分析の前に”出向指示”とはどういった行為(行動)なのか確認します。
事前に業務内容と所要時間を分析したデータによると”出向指示”の工程に必要な時間は15秒を要しているとのことです。この15秒とは、上長が担当に出向を支持する言葉「●●さん現地出向してください」の発声に要する時間とのことでした。

この15秒を短縮したいとするならば「基本的に2名で出向しているため」の答えでは、話のつながりが良くわかりません。

そこで私はこのなぜなぜの作者に対して次のような問いかけをしました。

私:15秒とは1人に指示を出すときの時間か?2名に指示を出すときに掛かる時間か?1名あたりは7.5秒ということでよいか?例えば1名になった場合は7.5秒の短縮になるとのことでよいか?

なぜなぜ分析の作者(以下、作者という):そういうことではない。2名で出向する必要があるかどうかの問いかけだ。

私:ということは2名が1名になっても時間短縮にはならないということか?

作者:そのとおり。ただし少しは短くなるかもしれない。

私:休日や夜間などは対応者が毎日輪番で固定されていると思うが、そのような場合はどうか?やはり上長は出向指示を出しているか?

作者:休日や夜間は予め対応者が決まっているので出向指示は出さない。

私:では15秒はいったい何か?

作者:平日の勤務時間内に事故が発生した場合である。

私:平日の勤務時間においても休日や夜間のような対応をすればよいのではないか?2名であるかどうかはこの工程の時間短縮に関係がないのではないか?

作者:そのとおりだ。

私:ではなぜ?出向指示のなぜなぜとして最初の問いかけに対する答えに「基本的に2名で出向しているため」を選んだのか?

作者:移動時間の無駄を減らしたい。出向人数が1名になれば移動時間の無駄は2名の時の半分になるため2名の必要があるかどうかなぜなぜ分析した。

私:移動時間の時間短縮であれば、移動の工程に対してなぜなぜ分析するべきではないか?なぜ出向指示の工程でこの論議をするのか?

作者:・・・・(沈黙)

この「最初の問いかけに失敗する事例」は私の経験上、現場で頻繁に発生しています。

では、なぜ?こうも簡単に多くの人か「なぜなぜ分析」の最初の質問と回答を間違えるのでしょうか?

間違える理由は一つです。

「結論を先に決めてあとから検討過程を作るから」です。

今回、紹介した事例では、2名での現地出向を1名にしたいという結論を先に設定してからなぜなぜ分析を始めているため、検討のファクトである”出向指示をする理由”がどうでもよくなっています。つまり紹介した事例の作者の思考ロジックを用いれば、以下のような会話も成立するわけです。

(問い)「明日の天気はどうでしょうね?」→(答え)「中華料理がおいしいから」
 
天気と中華料理は全く関係ありませんよね?ではなぜ天気の問いに対して「中華料理」なのでしょうか?

答えは簡単です「中華料理以外を食べたいから」という結論を先に決めているからです。
この思考ロジックのすごいところは、最初の問いかけで「中華料理という単語を文章中に出現させる」ことが出来れば手段は選ばないというところです。
つまり、会話が成立しているかどうかは全く関係ないのです。どんな会話でも良いからとにかく「中華料理」の単語を出現させて最後に否定できればそれよいのです。

このロジックで行くと以下の会話も成り立ちます。
 
(問い)「朝何時に起きましたか?」→(答え)「中華料理がおいしいから」

なぜこのような崩壊した文章がかけるのか?もうお分かりですよね?
いかなる手段を使っても、最初に思いついた結論(中華料理以外を食べたいから)に強引に話を誘導していきます。

日常の会話でこのようなやりとりをしたら、どうなるでしょうか?

まさか?こんなことほんとに起きているの?
と思いますよね?

ウソのようで本当に起きているんです。

(言っておきますが面白くするために私の方で事実を脚色してはいません)

今回は実例の紹介でしたが、次回は、なぜこのような思考ロジックになっているか?私なりの推測を投稿したいとおもいます。

では、また。

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