ちょっぴり怖い話(行きつけのバー)
職場から駅に向かう道の途中に、行きつけのバーがありました。
雑居ビルの地下にあるお店で、看板も目立たないため、新規のお客さんは少なく、いつも顔見知りの客ばかりでのんびりできるバーです。
マスターは初老の男性で、体調が悪いとかでしばらく休業していました。
休業してから半年ほど経った頃でしょうか。
看板に明かりが灯っているのを見つけました。
また開店したんだ。
そう思ってバーに入る階段を降ります。
重たい木の扉を開けると、仄暗い照明の店内に、あのマスターがいました。
「いらっしゃい」
「お久しぶりです」
他にお客さんはいませんでした。
カウンターの真ん中の席に、ぼくは座りました。
ハイボールを注文すると、マスターは店の奥に消えていきました。
ぼくはトイレを借りようと、席を離れました。
用を足し、トイレの扉を開けたのですが、なんと店内の照明が消えて真っ暗になっていたのです。
「マスター!」
返事はありません。ポケットからスマホを取り出し、スマホのライトを点灯しました。
すると、入り口の扉がガチャガチャと音を立てています。
鍵を締めているような音です。
閉じ込められるのではないかと不安になり、声を上げました。
「すみません!中にいます!」
入り口の扉が開き、照明のスイッチが押されました。
そこには若い男性が立っていて、驚いた表情をしていました。
「何してるんですか!?勝手に店に入り込んで!?」
ぼくは慌てて、事の経緯を説明しました。
看板が点いていたので入店し、マスターにハイボールを注文。
そしてトイレに入り、出ようとしたら真っ暗だったと。
その男性は、どこかで見たことのある顔だと思ったのですが、マスターの息子さんでした。
前に店の手伝いに来ていて、顔を見たことがありす。
なんでも、マスターは長く入院していて、最近亡くなったそうです。
息子さんはバーを閉店しようと考えて、片付けに来たということでした。
後日、聞かされたのですが、バーは別のスタッフにより営業を継続することになったそうです。
マスターがまだこの店にいるのかもしれないと、息子さんは考えたのだそうです。