ちょっぴり怖い話(喫茶店のおばあちゃん)
何年か前の、夏の暑い日でした。
客先を訪問するために、地方都市の駅から日陰のない暑い道を歩いていました。
早めに駅に到着していたので、時間に余裕がありました。
途中、汗だくになっていたため、カフェなどあったら少し休憩していきたいと思っていたところ、古びたロッジのような造りの喫茶店を見つけました。
喫茶店の脇の駐車場には、自動車がたくさん停まっています。
席が空いているかなと不安になりながら、木でできた重たい扉を開きました。
中に入るとすぐの場所にレジがあり、ちょうど会計をしているお客さんが数名いました。
「いらっしゃいませ。少しお待ち下さいね」
30代くらいの女性が応対しています。
別々の会計のようで、時間がかかっているようでした。
座れるまでに少し時間がかかりそうだなと思っていると、お店の奥にいた割烹着を来たおばあちゃんが、こちらにおいでと手で合図をしてくれました。
ぼくはおばあちゃんのいる方に進み、空いている席に座ることができました。
すぐにそのおばあちゃんが、お冷と冷たいおしぼり。そしてメニューを持ってきてくれました。
アイスコーヒーか、アイスカフェオレか。
どちらにしようかなと考えていると、レジで会計していた女性がテーブルに来てくれました。
女性の手には、お冷のグラスとおしぼりがあります。
「あら、誰が出したのかしら」
あ、おばあちゃんが出してくれました。
店内を見渡しましたが、さきほどのおばあちゃんの姿はありません。
アイスコーヒーを飲み、20分ほどで席を立ちました。
レジで会計しているときに、壁にかかっている写真に目が行きました。
さきほどのおばあちゃんが写っています。
「あ、さっきお冷を出してくれたのはこのおばあちゃんです」
30代くらいの女性は写真を振り返り、「やっぱり」と頷いていました。
「もう亡くなった私の母なんです。お店が忙しくなるとたまに手伝ってくれるの。ありがたいわ」
この喫茶店は、家族みんなで助け合っているようです。