ちょっぴり怖い話(懐かしい思い出の曲)
たまの休日に買い物でもしようと、ターミナル駅のショッピングセンターに行きました。
フロアを一人でぶらぶら歩いていると、館内放送の音楽が、懐かしい曲になりました。
それはイギリスのバンドの曲です。
ぼくが20代の頃に流行した曲で、ぼく自身も好きでよく聴いていた曲です。
こんなショッピングセンターでも、懐かしい曲を流すことがあるのだなと思いながら買い物を続けました。
買い物を終え、自宅近くの駅まで戻りました。
駅の反対側に、行きつけのバーがあります。
同年代のマスターがレコード好きで、古いレコードで音楽をかけてくれるバーでした。
ちょっと寄っていこう。
そう思いバーに向かいました。
小さなお店でまだ他にお客さんはいませんでした。
カウンターの真ん中の席に座り、ビールを飲み始めました。
「今日、古いレコードを買ってきたんです。同年代だからきっと知っている曲だと思うんです」
マスターがかけた曲は、さっきショッピングセンターで流れていた曲でした。
マスターとはこの曲に関して、今までに会話したことはありませんでした。
ぼくが昔よく聴いていたことも知らないはずです。
偶然は続くのだなと、不思議な気分になりました。
バーを出て自宅に戻る道で、ミュージックプレーヤーを鞄から出して、イヤホンで音楽を聴き始めました。
駅から自宅に歩くときは、いつも音楽を聴いています。
すると、イヤホンからさっきの曲が流れ始めました。
その曲をミュージックプレーヤーに入れた覚えがなかったため、左耳のイヤホンを耳からはずして、どこかから曲が聴こえてきているのかなと確認しました。
しかし、曲はイヤホンから聴こえてきました。
ポケットからミュージックプレイヤーを取り出して液晶画面を確認しましたが、さっきショッピングセンターで流れていたのと同じ曲名が表示されています。
いつこの曲をいれたのかな?
不思議に思っていると、その曲の途中で再生が終わり、イヤホンからは何も聴こえなくなりました。
再生しようとしても、ミュージックプレーヤーがなんの反応もしません。
もしかしたら壊れてしまったのかも。
とりあえず家に帰ろうと考え、家路につきました。
帰宅後にミュージックプレーヤーをチェックしました。
すると、いつもどおりに稼働して、音楽が再生されました。
しかし、懐かしいあの曲はやはり保存されていませんでした。
壊れていなかったのでほっとして、その曲のことは忘れてしまっていました。
一ヶ月くらい経ってから、古い友人に会う機会がありました。
居酒屋で会話していると、友人が思い出したように話し始めました。
「おまえ、XXXXと付き合ってたよな?」
懐かしい名前です。
社会人になりたての頃、同じ職場で働いていた女性で、XXXXと2年ほど付き合っていました。
「あぁ、そうだね。どうかしたの?」
友人はテーブルに目を伏せながら言います。
「この前、亡くなったんだよ」
ぼくは呆然としてしまいました。
「うちの嫁さんが仲良かったんだけど、一ヶ月くらい前になくなったんだ」
詳しく話を聞くと、ぼくがあの懐かしい曲を何度か聴いた日、しかもあの曲がぷっつりと途絶えたのとほぼ同じ時刻に、彼女は亡くなっていました。
その彼女が大好きだったのが、あの曲だったのです。