ちょっぴり怖い話(駅のエスカレーター)
その日、仕事で帰りが遅くなり、終電の数本前の地下鉄に乗りました。
自宅の最寄り駅で地下鉄を降りました。
その駅で降りる乗客は数名でした。
比較的あたらしく開通した路線のためか、ホームが地下深くにある駅でした。
ホームから改札階まで、長いエスカレーターに乗ります。
通勤ラッシュの時間帯には、多くの利用客がいるため、エスカレーターは3本稼働しています。
今は、1本は停止され、上下1本ずつの稼働となっていました。
その頃ぼくは、スマホのゲームにはまっていたため、エスカレーターに乗るとスマホの画面を注視していました。
一瞬、エスカレーターに「ガタンッ」と振動が発生しました。
なんだろう?
スマホから視線を上げると、上がっていくエスカレーターの先が真っ暗で、何も見えなくなっています。
まだ終電にはなっていません。
照明が消されることなどあり得ないでしょう。
何が起きたのかと振り返ってみると、下方向には誰もお客さんがいません。
ホームで一緒に降りた乗客が、ぼくが乗っているエスカレーターの方に歩いてきていたはずです。
何かがおかしい。
上方向に向き直ると、反対側の下りのエスカレーターに、多くの人がいました。
その人たちはなぜか、全員がぼくを見て、薄ら笑いを浮かべています。
このままエスカレーターで上に行ってはいけないのではないかと思い、上りのエスカレーターを駆け下りることにしました。
振り返って一歩踏み出した瞬間、ぼくはつまづいてしまいました。
転びそうになりながら数段降りたところで、なんとか手すりにつかまって転倒は避けました。
体制を立て直すと、目の前に地下鉄の乗客だった人がいて、びっくりした表情でぼくを見ています。
その後ろにも他のお客さんが何人かいました。
振り向いて上を見ると、いつものように照明がついていて、下りのエスカレーターにも普通にお客さんがいました。
なにもかもが普通でした。
ホッとできたのですが、さっき見たものは何だったのでしょう?