ちょっぴり怖い話(タクシーの運転手)
数年前、家族の体調が悪くなり、救急病院に行った夜に体験した話です。
家族が救急車で病院に運ばれたのは21時ころ。
処置や検査で、入院が確定したのは深夜1時を過ぎたころでした。
何枚もの書類にサインして、入院の手続きをすませます。
正式な書類は、翌日以降で窓口で手続きするように言われ、開放されました。
その病院は都心にあります。
病院の前は大通りではなく、少し細い道でした。
ちょうど病院の前辺りに公衆トイレがあり、クルマもあまり通らなくなるため、タクシーが休憩したりしています。
深夜でもちろん終電は終わっているため、タクシーで帰るしかありません。
病院の外に出ると、タクシーが3台停まっていました。
休憩で眠っている運転手さんを起こすのは申し訳ないなと思ったのですが、1台のタクシーの横で、運転手さんが立ってタバコを吸っていました。
「これから休憩ですか?よかったら乗せてほしいのですが」
「いいですよ。トイレに行ってくるので少し待ってね」
運転手さんはタバコを足元に落として靴で踏み、公衆トイレに向かっていきました。
ぼくは、大通りまで出なくても、タクシーを捕まえることができてほっとしました。
数分ほど経ったでしょうか。
運転手さんがトイレからなかなか出てきません。
どうしちゃったのだろう?
トイレの中で倒れたりしてないよな?
心配になり、トイレに入りました。
そこには誰もいませんでした。
個室の方も扉が開いたままで、誰も中にはいませんでした。
驚いてトイレの外に出ると、さっきのタクシーの運転席側の扉が開き、中から男性が出てきました。
あれっ、さっきの運転手さんと違う!
驚いた顔をしているぼくを見て、運転手さんが声をかけてきました。
「どうかしましたか?」
「あ、いや。さっきこのタクシーの横でタバコを吸ってる運転手さんがいたので、乗せてほしいとお願いしたんです。でも、トイレに入って消えてしまって...」
眼の前にいる運転手さんは、うっすらと笑みを浮かべました。
「ああ、また出ましたか」
なんでも、過去にそのタクシーに乗務していた運転手さんがいたそうですが、病気で亡くなったそうです。
その運転手さんは、今でもたまにタクシーに乗務しているらしいということでした。