【COVID-19】パンデミックは、映画・テレビ産業に大きな影響を与える<日本語訳>
当記事は、企業保険とその関連ニュースを提供する『Business Insurance』2020/3/26 掲載記事を翻訳したものです。パンデミック時に映像制作に関する「保険」はどう機能するのか?英語圏のテレビ・映画関係者の発言をまとめた記事になります。
読みやすくなるよう、見出しはこちらで付けています。日本にもいわゆる「撮影保険」と言われる“撮影”に対する包括的な保険 がありますが、どこまで機能するものなのか?撮影を再開する前に、ぜひ参考にしたい内容です。
より正確な情報は、元記事をご参照ください。もし誤訳がありましたら、お手数ですがコメント欄にてお知らせください。適宜、訂正してアップデートいたします。
https://www.businessinsurance.com/article/20200326/NEWS06/912333731/Coronavirus-COVID-19-pandemic-greatly-affecting-film-TV-industries-Tom-Hanks-Rit#
1. ハンクス夫妻がコロナ陽性を公表
ハリウッドの象徴であるトム・ハンクス氏と妻のリタ・ウィルソン氏は先日、オーストラリアのクイーンズランド州にて、バズ・ラーマンが監督を務める「エルビス・プレスリー」を題材とした映画の制作準備期間中にコロナウイルスであると診断されたことをツイートした。
複数の報道によると、ハンクス氏が回復を続けているため、映画の製作は無期限で中断されているという。ロックダウン、渡航制限、集会を制限する政府の命令の中で、COVID-19 のパンデミックは、多くの企業、とりわけ映画業界に混乱と遅延を引き起こした、専門家は言う。
しかし、保険契約がコロナウイルスの発生による、製作スタジオ、投資家、俳優の数百万ドルの損失に対応するかどうかは、さまざまな契約の条項(terms)、条件(conditions)、発動要件(triggers)に基づくものであり、最終的には裁判所の判断になる可能性がある、と言われている。
2. 米国のテレビ・映画業界の現状は?
3月24日に S&P Global Market Intelligence が発表したアナリストノートによると、COVID-19 の影響により撮影を中止した映画の中には、ユニバーサルの『ジュラシック・ワールド:ドミニオン』、ワーナー・ブラザースの『バットマン』、パラマウントの『ミッション・インポッシブル7』などが含まれているという。
ロサンゼルスを拠点とする「Hub International Ltd.」のエンターテインメント担当マネージング・ディレクター、ボブ・ジェレン氏によると、世界保健機関(WHO)と疾病対策予防センター(CDC)からの指導に応じて、状況は刻々と変化しているという。
「今では誰もが社会的な距離感(social distancing)を遵守し、町中のどのスタジオも制作業務を中止しています。制作が中断されたテレビ番組は約150本、世界中で100本から150本の映画の製作が中断されています」とジェレン氏は言う。
テレビ局や映画の製作スタジオは、他の良識ある雇用者と同じように計画を変更している、とロサンゼルスを拠点とする「Venable LLP」のエンターテインメント・メディア訴訟グループの会長であるリー・ブレナー氏は述べた。
「現在、海外旅行はほとんど凍結されています。旅行自体が奨励されていないし、いくつかの企業は生産を中断している」とブレナー氏は言う。たとえば、CBS(コロムビア放送)は最近、コロナウイルスの懸念から『The Amazing Race』の制作延期を発表した、とブレナー氏は述べた。
「彼らは、参加者が安全に家に帰ることができるよう、サイクルを短縮した」と彼は言い、これがあなたが見たい企業責任のかたちだ、と付け加えた。
3. 保険会社の対応はどうなる?
誰しもが「損害を軽減し、損失を回避するためにデューデリジェンス(当然に実施すべき企業の注意義務および努力)を使用する義務がある」とジェレン氏は述べている。理論的には(契約する企業側が)潜在的な損失を軽減していないと判断された場合、保険会社は費用の保障を拒否することができる、とジェレン氏は述べた。
保険の適用範囲について、テレビ・映画業界がパンデミック関連の費用を保険会社から回収できるか?については、専門家の間で意見が分かれた。
直近で製作を開始する映画のための保険を必要とする、独立系のプロデューサーに対して「すべての保険会社は、コロナウイルスを免責条項にしたいと思っている」と、ジェレン氏は言う。
「とは言えど、もちろん製作スタジオは、事前に合意された条件による包括的な保険を持っていますし、独立系のプロデューサーは、1、2ヶ月前に保険を購入しているかもしれませんが、彼らはおそらくコロナウイルスの免責条項を持っていません」と彼は言った。
4. だれが保障する? 感染症の免責条項について
すべての制作会社のポリシー(方針)には「感染症の免責条項」があり、SARS であろうと COVID-19 であろうと、感染症とみなされる。ロンドンを拠点とする、H.W. Kaufman のグループ企業「Chesterfield Group」映画・テレビ専門のブローカー、マット・ローフォード氏は語る。
All production company policies have “a communicable disease exclusion,” and whether it’s SARS or COVID-19, it’s deemed to be a communicable disease, said Matt Lawford, London-based specialist film and television broker, at Chesterfield Group, an H.W. Kaufman Group company.
2020.3.26 - BUSINESS INSURANCE
「映画の製作会社は、コロナウイルスの影響による撮影の中止や追加費用のためのいかなる(保険による)保障も持ってはいない」とローフォード氏は述べた。
しかしながら、ここ数週間で、制作会社と広告代理店の間の契約内容に修正があり、広告代理店にこれらの追加費用に対する「責任が受け渡された(passed the responsibility)」と彼は述べた。
「現時点では、いくつかの広告代理店は、代理店自身のポリシー(方針)の免責条項を条件とした、感染症による中止または追加費用のための保障を持っています。それは彼らが15年前に起きた MERS や SARS(など感染症)による費用保障を実現できなかった、その教訓によるものだ」とローフォード氏は言った。
“At the moment, some advertising agencies do have cover for additional or aborted costs following communicable diseases, subject to exclusions in advertising agency policies. That is an inherent error on behalf of insurers to the extent that they’ve not covered costs from MERS and SARS going back 15 years,” Mr. Lawford said.
2020.3.26 - BUSINESS INSURANCE
保険会社は現在、次の更新時から有効となる、広告代理店とのすべての契約に「感染症に対する免責」を適用しようとしている、と彼は言う。
「たとえば1月に更新していた場合、12ヶ月間、その保障が適用されるが、もし3月末に更新して、その時点で保障対象となる撮影が何日かあった場合には、この免責事項が適用されるでしょう」ローフォード氏は言う。
“If you renewed in January, effectively you’ve got 12 months of cover. If you renew at the end of March, you’ve got days to cover your shoot at which point you’ll have this exclusion applied,” Mr. Lawford said.
2020.3.26 - BUSINESS INSURANCE
撮影自体に対して、制作会社と広告代理店が保障をもたない場合は、その責任はクライアントに押し戻されることを意味します、と彼は述べた。
「映画製作を進めるか、個別の撮影を遅らせるかどうかは、クライアント次第ということになります。中止または追加費用がクライアント負担となることで、代理店や制作会社は救われる(make good)ことになるでしょう」と彼は言う。
5. 保険適用に関する訴訟と「不可抗力」条項について
コロナウイルスの影響による制作の中断、遅延に対する請求が保険会社にいくと、それが適用範囲にあたるかどうか?両者が「審査する」ための一定の期間が設けられるでしょう。ロサンゼルスを拠点とする、パートナー企業「Venable LLP」のサラ・コロニン氏はそう述べる。
パンデミックの規模が大きく、多くの制作が中断している事実を踏まえると、今後、保険適用に関する訴訟が増えてくる可能性が高い、と彼女は言う。
法律上の問題のひとつとしてあるのは「天変地異」による契約条件の履行不能者の救済措置として発動する、ビジネス契約におけるいわゆる「不可抗力」条項というものです、とブレナー氏は述べる。
One of the legal issues that will arise is the so-called “force majeure” provisions in business contracts that are triggered when an event, sometimes referred to as “an act of God,” relieves a person from performance under terms of their contract, said Mr. Brenner.
2020.3.26 - BUSINESS INSURANCE
このような条項は、違約金請求の際の防衛策になり得ると、彼は言う。コロナウイルスは予測不能な出来事であり、当事者(party)のコントロールの及ぶ範囲でないため「不可抗力の出来事である可能性が高い」とブレナー氏は述べ、この問題に関する訴訟もまた増加するだろう、と付け加えた。
企業は、パンデミックがどのように扱われるか判断するため、契約書を確認したり、保険の適用範囲の詳細を見返す必要がある、と専門家は述べています。
もし長編映画の保険契約に「感染症の免責条項」がなければ、保険会社は「不可抗力」の部分に大きく頼ることになるだろう、とローフォード氏は言う。
「私は大手の製作スタジオが、保険会社からなんらかの費用の回収を試みる、と信じています。それが成功するかどうかは、難しい決断となりますが、その判断は米国の裁判所に委ねられるでしょう」とローフォード氏は語った。