禅語の前後:前後際断(ぜんご さいだん)
「ポストペット」を作った人としても有名な八谷さんは、ジェットエンジン積んで本気で飛べるリアルサイズのナウシカのメーヴェを造っちゃった人でもあって、みずからトレーニングして乗りこなしてもいる、素敵な大人である。
八谷さんが以前、飛行機乗りの哲学について呟いていた。
「前に持ってたものの事は考えるな」「後ろを振り返る余裕なんてない」、空を飛び、命を懸ける場ならではの、徹底的に現実主義的な発想だ。
江戸初期、ついこの間まで戦国時代だったころの兵法書にも、似たような表現があった。禅僧 沢庵 宗彭が、将軍家指南役をつとめた剣豪 柳生宗矩に伝えたという「不動智神妙録」、全13章の最後に短くまとまっているのがこの「前後際断」。
前後際断と申事の候。際はあいだとよみ申候。断は切るとよみ申候。前後のあいだをきってはなせと申義也。心をとどめぬ事にて候なり。
「不動智神妙録」沢庵宗彭(国会図書館オンラインより)
「不動智神妙録」は、不動の心を説いている。剣をもって敵に対するとき、心を敵に留めてはいけない、自分の身に留めてもいけない、剣そのものにも留めてはいけない。心をどこにも留めないでいること、それが「不動の心」なのだ…云々。
その極意をまとめて一言で言えば、この「前と後との間を切り離せ」ということになるのだろう。
あるいはもっと簡単に、部活とかで失敗したときに掛け合う「ドンマイ」、「次、」という声、あれもひとつの「前後際断」の発露なのだろう。それは、部活とか兵法とか飛行機器の操縦とかに限らず、人生についての心掛けだ。